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中庭の大樹。
その真下。
そんな人気の少ない外であるそこの日陰に二人はいた。

「……あんた、かすみのこと、呼びに行ってないんだね。」

「呼べるわけないじゃないですか。そういうあなたはどうなんですか?」

「……呼びに行けるわけないでしょ、あんな明確に拒絶されて……。今度またあんなに直接態度にされたら気が狂いそう。」

「そんなにはっきりと言語化しないで下さい、今すぐに止めて下さい。死んでしまいます……。いや、まぁ、そんなにやわじゃないですが……。」
エルの声が震えている。
どれくらい本気なのかが分かる。

「……うん、私も死にたくなった……。ごめん……。」
エルに対して珍しく素直に謝罪するゆかり。
それほど彼女も疲弊していたのだ。

彼女らの脳裏に過るもの。
それは、過呼吸で倒れるかすみであった。

「はぁ……。」
ため息をつくエル。

よく見ると、目の下にうっすら隈が出来ている。
鏡がないから分からないが、恐らくゆかり自身も似たような状態になっているだろう。

長い間生きてきた二人。
その美貌とカリスマ性で周囲の人間から常に羨望の眼差しの先にいた。
誰かに固執し、依存することも、その人物に拒絶されることもなかった。
だからこそ、どうすれば良いのか分からなかったのだ。


黙々と食べ続け、とうとう食べ終えてしまった。
この後どうするか。
空を見ながら考えるゆかり。

浮かぶ雲がゆっくりと流れている。
結局、それが見えなくなるまで彼女はそこにいた。
エルもまた、そんな彼女の隣にずっといた。


放課後。
いつもならば一目散にかすみの元へ向かっていた。
しかし、やはり今日はそういうわけにはいかないだろう。
そのまま帰宅しようとするゆかり。
そんな彼女を呼び止める声がした。

「待って、ゆかりんこ!」

「……。」
立ち止まり、声の方を向く。

ゆかりんこ。
彼女自身は、そんなニックネームを認めたことはない。
いつの間にか広まり、皆が呼んでいるものだ。

「きょ、今日これから遊びに行くんだけど、よかったらゆかりんこもどうかな?」

「……え。」

珍しい。
驚くゆかり。
こんなことはもう二度とないと思っていたからだ。

入学して一ヶ月が経った頃までは、今回のような誘いが何度かあった。
しかし、その度にかすみと帰宅することを優先し、断っていた。
そうしているうちに、それは無くなったのだ。
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