上 下
62 / 151
9

9ー1

しおりを挟む
「かすみさん?」

「な、なに?」

「だ、大丈夫ですか?」

「う、うん。」

明らかな嘘だ。
エルだけでなく、ゆかりにもそれは分かった。
しかし、その原因が分からない。

通学路を歩く三人。
いつもと同じはずだか、足並みが揃わない。
かすみだけが少しずつ遅くなっていき、二人が立ち止まり、また歩き出すとかすみが遅れる。
その繰り返しであった。

「ゆかりさん?」

「……私じゃないよ。」

「まだ何も言ってませんが……。」

「……どうせ私が目を使ったって思ってるんでしょ?」

目を使った。
他の者が聞けば、意味が分からないものだ。
しかし、エルにはその意味が分かった。

「あら、違うんですか?」

「……私が昨日やったのは、これだけだから。」
携帯電話を見せる。

ボイスメモ。
日付は昨日。
時間は、調度エルが学校にいる時間帯。
つまり、彼女が知る由もない時のものだ。

「なんですか、それ?」

「……ふふ、気になるんだ。」
ニヤニヤ。
悪戯っ子のように笑いながらゆかりが言う。

他の者が見れば、その愛くるしさに心を奪われるだろう。
しかし、対面している者がエルとなれば話は別だ。

腹立たしい。
かすみの目がなければ今すぐにでも殴ってしまいたい。
しかし、興味がないというのも嘘だ。

「まぁ、どうしても言いたいとおっしゃるのでしたら聞いてあげないこともありませんが……。」

「……ふふふ。」

「なんですか……。」

「……別に。」
ニヤニヤ。
その笑みは、依然としてエルを腹立たせる。

不意にしまっていた。
エルは舌打ちしてしまった。

ビクッ。
彼女のそれに反応するかすみ。
「け、喧嘩は……その……止めた方が……。」

「そうですね。」

「……ごめんね、かすみちゃん。」

素直に聞く二人。
しかし、そんな彼女らの反応ですら、今のかすみにとっては恐ろしいものに感じた。

何が原因なのだろう。
二人が考える。

彼女らの物差しでの場合。
元気がない時の対処法は決まっている。

かすみとコミュニケーションをとる。
もしくは、彼女の体液を微量でも良いから摂取する。
そうすれば、大抵のことはどうでも良くなってしまうのだ。
しかし、今回はそのかすみ本人が不調なのだ。

自給自足しているはず。
彼女の中で循環しているのだ。
不調になるなどあり得ない。
想定の範囲外なのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

タイツによる絶対領域

御厨カイト
恋愛
お昼前の授業も終わり昼休みになると、いつも私は彼女である澪と一緒に屋上でのんびり話をしながら過ごしていた。今日も私の膝の間に座り、嬉しそうに体を左右に揺らす澪とまったりと雑談をしていたのだが、その話の流れで澪の足を触る事に。しかし、そこで澪は足が弱いことが発覚し……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

一口分の毒りんご

null
恋愛
人は愛されてこそなんぼだ。 アイドルとして順風満帆な人生を送っていた花月林檎は、自分の容姿、雰囲気、振る舞い…それらから得られる全てを享受しながら生きてきた。 そんな花月にも理解できないモノがあった。 友人もいない、愛想も悪い、本ばかり読んでいて、そして、私にも興味がない人間、時津胡桃。 一人孤独に、自分の中だけで生きている時津とちょっとしたことで共に行動することになった花月は、段々と彼女の隣で居心地の良さを感じるようになっていくのだが…。

処理中です...