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「……お願い、かすみちゃん。かすみちゃんの部屋に行こう?二人で。」

「え、えっと……。」
どうすれば良いのだろう。
両者の提案は、正反対だ。
その為、それらを両立することは不可能だ。

迷っている。
これは二人のこの後の言動でどちらにも傾く可能性がある。


先に動いたのはゆかりであった。
しかし、かすみに話をするわけではない。

エルの方を向く。
そして、口を開いた。
「……昨日、お楽しみだったみたいだね。」

「え?ま、まぁそうですね……。」
楽しんだ。
それは嘘偽りのない事実だ。

「……良いなー……羨ましいなー……。」

「うっ……。」
しまった。
そういうことか。

「……ずるいなー……妬ましいなー……。」
ボソボソと呟くゆかり。

まるで呪詛のようなそれを言い続ける。
その全てがエルに突き刺さった。

エルが仕組んだことではない。
しかし、結果としてゆかりを出し抜く形となってしまった。
そのことに対して、後ろめたい気持ちがないわけではない。

こうなっては仕方がない。
気持ちの問題だ。
「分かりました。……今日は引きます。一人で登校します。かすみさん、後はお願いしますね。」

「え、あっ、うん。」
エルの言葉に頷くかすみ。

「……ふふふ、いってらっしゃい。日光に気をつけてね。」
心底嬉しそうに微笑みながらエルにそう言うゆかり。
車に気をつけて、ではなく日光に気をつけてと言うのが何とも彼女ららしい。


「いってきます……。」
とぼとぼと歩くエル。
そんな彼女の後ろ姿を見送ると、玄関の鍵を閉めるゆかり。

「……ふひっ……ふふふ……。」

「ゆ、ゆかりちゃん?」
その邪悪な笑い声に、つい後退りするかすみ。

「……なに?」
振り返るゆかり。

あれ?
勘違いだろうか。
今、何かは分からないが、邪なことを企んでいる気がしたかすみ。
しかし、今見たゆかりの姿は、その見た目と相違ない純粋なものであった。

「いや、ごめんね、気のせいだった……。」

「……ふふふ、おかしなかすみちゃん。……でもそんなところが可愛いんだから困っちゃうんだよね。」
ボソボソ。
普段から小さい声のゆかり。
その更に小さい声で、囁くように言った。

「え、え?何て言ったの?」
聞き取れない。
その為、わざと聞き返したわけではないかすみ。

「……何でもないよ。さ、かすみちゃんの部屋に行こう?」
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