はりぼてスケバン弐

あさまる

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「何かあったのかと思った……!事故とか……事件とか……!無事で良かった……良かったよぉ……!」

病弱な華子。
彼女が息も絶え絶えで言葉を紡いでいる。
どれほど走ったのだろうか。

無理をしてここまで来たのだろう。
想像に難しくない。

「え、えっと……ごめん。」
なぜ謝罪してしまったのだろうか。
彼女の圧に押し負け、謝ってしまった秋姫。

「でも……無事で、本当に良かったよ……。」

「あはは……。」

純粋なものだ。
ただの寝坊。
挙げ句の果てにはそのまま遅刻して行こう。
そんなことを考えていた。
自身とは大違いだ。

だからだろう。
この頃からだろう。
いや、きっともっと前からだったかもしれない。


秋姫は華子のことが嫌いであった。
嫌いで嫌いで仕方がなかった。


「まだ間に合うよっ!ほら、早く学校行こう?」

「え、い、いやぁ……。」

「ね?無遅刻無欠席、皆勤賞だよ?」

「その……。」

「ほら、早く!制服に着替えて!?」

「え?あっ、ちょっ!?」

普段は大人しく、弱々しい。
しかし、ここぞというところの意思の強さは目を見張るところがある。

そうだ。
それが嫌なのだ。
それが嫌いなのだ。

自分とは違う。
真っ直ぐな彼女が大嫌いだったのだ。

今も変わらない。
華子のことは嫌いだ。
そのはずだ。
しかし、どうもそれだけではないらしい。


「なんで今さら罪悪感なんて持ってるんだろ……。」
ボソリ。
秋姫の口から自然と漏れた言葉。

教室内。
一人きり。
周りのクラスメイト達は、その時の秋姫にとって背景でしかなかった。

もう駄目だ。
世界で孤立してしまった。
ただ一人となってしまった。

フラフラ……。
覚束ない足取りでその場を去る秋姫。

やはりそうか。
誰も着いてこない。
誰も心配してくれない。

きっと華子がいればこんなことにはならなかっただろう。
彼女がいれば、一人きりになどならなかっただろう。


「……私って……こんなに醜い人間だったんだ……。」
そのまま立ち去る秋姫の声は弱々しいものであった。


とぼとぼと帰る秋姫。
こんな時間に帰宅する高校生はそうそういない。
注目されるのも無理はない。

視線が彼女に集まる。
それでも秋姫はお構い無しにゆっくりとだが、確実に進んでいた。
結局、遠巻きに見られるだけで、彼女が声をかけられることはいなかった。
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