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平盆高校在学の蟻喜多利奈についてと、この国の崩壊の始まり

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そんな日が何日も続いていた。
それは、そんな時に起きたことであった。

いつものように利奈の後をつけていた朱春。
通学路を歩き、帰宅する利奈。
いつもいる路歩子は今日はなぜだかいない。
それに、流奈もアイドル活動の為今日は朝からいない。

だからこそ、ここまでこれた。
しかし、その油断が良くなかった。


「……ねぇ。」
低い声。
周囲の空気が一変。

「……。」
あぁ、駄目だ。
逃げることなど出来ない。
朱春の背後。
そこから聞こえる声は、低く怒りを含んだものであった。

「……私の言いたいこと、分かるよね?」
その声の主は、背後にいる。
その為、表情は分からない。
しかし、朱春には分かっていた。

激怒している。
間違いなく、敵意を向けている。

「……。」
肯定か、否定か。
そんな選択肢など、はなから無かった。
こくり。
振り向かず、ゆっくりと頷く朱春。

「……確かに、利奈は魅力的。後を着けたくなるあなたの気持ちは分かる。……ふふ、いつもは対面してるけど、こうやって後ろから見る利奈も可愛い……ふふふ。」

「……。」
違う。
確かに興味があったがそういうわけではない。
そうじゃないのだ。
後半の奇妙な言葉は知らん振りしておこう。

それは誤解だ。
しかし、それを解くことは今の彼女には出来ない。
震えて声が出ないからだ。

「でも、私の利奈のストーカーなんて止めてね?」

「……。」
再度の頷き。
心臓の音がやけにうるさい。

「そっか、なら良い。もう行って。……二度はないから。」

「……。」
許された。
そう思ったら身体が勝手に動いた。
そして、その場から逃げ出す朱春であった。


どれほど走ったか分からない。
無我夢中、少しでも離れようという一心の朱春。

「こ、ここまで来れば……。」
きっと、大丈夫だろう。
まるで自身に言い聞かせるように、朱春が呟く。

得体の知れない恐怖。
背筋が凍るとは、まさにこのことを言うのだろう。

呼吸を整え、再度歩き出す。
すると、目の前に自身と同じ制服を着た二人組の背中が見えた。

美佳絵と佐多江。
海部照姉妹の喧嘩と同時に起きた喧嘩を発生させた者達だ。

喧嘩をしていたはずだ。
しかし、こうして一緒に下校しているということは、あの後で仲直りをしたのだろう。

今日もまた何かを言い争っているようだ。
少し離れている為、ここからではその内容は聞こえない。
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