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失恋岩
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青い空、どこまでも広がる海。太陽を浴びてキラキラ光る海面。それを船のデッキから眺めていた。真っ白な船に突き抜ける海風。まるでセレブのリゾート旅のようだ。二階建ての客船には、多くの人が乗っていた。
そう……それはとても素晴らしく、楽しい出来事のはずなのだ。なのに、気分が晴れやかでない。いやこんな経験滅多にできないだろうし、それなりにわくわくしている……でも、どうしても! 目の前の光景が心に突き刺さるんだ!
「ゆーやぁーん! めっちゃ凄くなぁい? これで新婚旅行費浮いたかもっ」
「どうせ、お前はどこでも満足するんだろ」
「そんなことないってばぁ!」
「雪さん、こっち風強いから気をつけて」
「あっ……高村さん! ありがとうございます」
「……っ」
「なーんだ皆いないと思ったら、あたし達抜きで楽しんでたってワケね」
「……そうみたいですね」
「なんか悔しいわ」
カエラさんと雄さんはまだ良いとして……あちこちでお見合い合コンのような雰囲気になってるのが堪える! こっちは中身がお姉さんのイケメンが一人。可愛いことは確かだけど、子供! 幼女が一人。いくら可愛くたって俺にそっちの趣味はないんだ……って残念じゃないだろ! 健全な若者なんだ、俺は……。
「タケル、これ」
「ああ、ありがとう……」
渡されたのは明らかに体に悪そうな、だけどキラリと光る、透き通った青色のドリンクだった。ルリカも爽やかなオレンジっぽいのを飲んでいる。飲み物を配っているボーイから、貰ってきてくれたらしい。
「いいもーん。あたしにはあんた達がいるし、子守りだと思ってちゃんと全うするわよ」
やけくそ気味にストローを咥ると、半分程一気に減らしていた。
「なんですか。その納得の仕方は」
「本当はタケルちゃんも、美人のお姉さんに可愛いがってもらいたーいとか、そんなことばっかりなんでしょ? 頭の中は」
「そ、そんなことは」
「あら、もっと若い方がいいって?」
「そうです、ねぇ……」
「ルリカちゃん逃げて!」
「だから! 同世代ぐらいがちょうどいいってことですよ」
「ふーん……確かにあんた、幼馴染属性とか好きそう」
「勝手に想像しないでくださいよ」
「嫌いなの?」
「べ、別に……」
「でもお姉さんに甘えるのも悪くないと思ってるでしょー」
「りょうさんは俺をどんな奴にしたいんですか」
「……なんなら」
ストローから外した顔が、ぐいっと近づけられた。
「俺が可愛いがってあげてもいいよ」
「……っ」
「あははー、どうだったかしら」
「マ、マジで別人かと思いました……」
やっぱり喋り方って重要なんだな。声のトーンが低くなって、全然違う人みたいだった。こういう人って女性に近づきたいものだと思っていたけど、りょうさんはそうでもないのかもしれない。顔は中性的な方だけど、服は男寄りだし……もしかしてわざと? 演技してたりするのか? 今のが本当の姿だったら……。
「な、なんだ?」
つんと服を引っ張られた。何かキラキラしたものを持っている。
「あげる」
「宝石……じゃない。これも飴か」
「お宝」
「はは、なるほど。あっちにもいっぱいあるといいな」
「探すの」
「うん……ってそれ俺に言ってる?」
コクンと飴を一舐めしてから頷いた。
「……よし」
俺も子守りに全力を注ぐ……!こっちはこっちで楽しんでやるよ!
気合いを入れて、一気に飲み干す。眩しいぐらいの太陽が、船体を照らしていた。
「あーさっきのかわいー子、こっちにいたんだね」
黄色い声がこちらに向かって走ってきた。
「きゃあ、また会えたぁ。あははっ」
「少しは声のボリューム下げろよな」
「あ、皆さんお揃いですね」
あの時の七人が揃った。
「あの人は? オジサン……えっと若松さん」
「そういえば途中で知り合いに会ったとかで……飲みにでも行っちゃったんじゃないかな」
よっと高村さんが手を上げて、俺の肩を叩いた。
「そういえばこの問題いくつめ? 俺たちはえっと……」
「二つめだよー。ちょっと寄り道もしちゃったしね」
「お前がバカみたいにはしゃぐから……」
「だってこんなに色々あんだよー? 行かなきゃもったいじゃんっ」
「でも、楽しかったですよね」
つんつんとひじで突いてきたりょうさんとアイコンタクトを交わす。分かってますよ、言いたいことは……。
「あたし達はこれが三つめよ」
「へぇ、やるねぇ君たち」
視界の端では、またカエラさん達がはしゃいでいた。
「ねぇねぇ、ゆぅーやん! めっちゃ綺麗だよ、水着持ってくれば良かったな」
「お前はここから落ちる気か」
「ちっ、違うってばぁ! 降りてからに決まってるじゃん!」
「確かに気持ち良さそうですね。ふふっ」
「雪ちゃんもスタイルよさそーだからいいなぁ」
「そ、そんなことありませんよ」
「またまたぁー」
きゃっきゃうふふが聞こえてきそうな、眩しい空間が目の前に繰り広げられている。
「ぐぬぬ……」
どうしてだ! 本来若者の俺が一番楽しいはずじゃないのか? なんで同世代の奴がいないんだ! あーあこんな始まりじゃなかったら、友達でも誘ってきたのになぁ。なんで知らない人と遊園地なんて……あれ? 友達って誰だっけ……。いるはずだ、絶対に。でも頭に霞がかかっているみたいにぼやっとして、思い出せない。どうして……あれ、俺はどこからここに、来た……?
急に不安が回ってきて、目を閉じた。
大丈夫……こんな非現実的なところにいるから思い出せないだけで、帰ったらちゃんと分かる……はずだ。家に帰ったら笑い話になる。なんでそんなバカなこと思ったんだって……。
相変わらずぷかぷかと平和に海の上に浮いている船が、現実を遠ざけようとしている。
「タケル」
「ルリカ……」
具合が悪いと思ったのか、ひらひらと目の前で確認するみたいに手を振った。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた。何か用か?」
「……大丈夫」
「えっ?」
「ルリカもおんなじだから、大丈夫」
にっこりと笑って手を握った。
「……うん」
深くは考えないことにして握り返す。いつの間にか船は止まっていた。
そう……それはとても素晴らしく、楽しい出来事のはずなのだ。なのに、気分が晴れやかでない。いやこんな経験滅多にできないだろうし、それなりにわくわくしている……でも、どうしても! 目の前の光景が心に突き刺さるんだ!
「ゆーやぁーん! めっちゃ凄くなぁい? これで新婚旅行費浮いたかもっ」
「どうせ、お前はどこでも満足するんだろ」
「そんなことないってばぁ!」
「雪さん、こっち風強いから気をつけて」
「あっ……高村さん! ありがとうございます」
「……っ」
「なーんだ皆いないと思ったら、あたし達抜きで楽しんでたってワケね」
「……そうみたいですね」
「なんか悔しいわ」
カエラさんと雄さんはまだ良いとして……あちこちでお見合い合コンのような雰囲気になってるのが堪える! こっちは中身がお姉さんのイケメンが一人。可愛いことは確かだけど、子供! 幼女が一人。いくら可愛くたって俺にそっちの趣味はないんだ……って残念じゃないだろ! 健全な若者なんだ、俺は……。
「タケル、これ」
「ああ、ありがとう……」
渡されたのは明らかに体に悪そうな、だけどキラリと光る、透き通った青色のドリンクだった。ルリカも爽やかなオレンジっぽいのを飲んでいる。飲み物を配っているボーイから、貰ってきてくれたらしい。
「いいもーん。あたしにはあんた達がいるし、子守りだと思ってちゃんと全うするわよ」
やけくそ気味にストローを咥ると、半分程一気に減らしていた。
「なんですか。その納得の仕方は」
「本当はタケルちゃんも、美人のお姉さんに可愛いがってもらいたーいとか、そんなことばっかりなんでしょ? 頭の中は」
「そ、そんなことは」
「あら、もっと若い方がいいって?」
「そうです、ねぇ……」
「ルリカちゃん逃げて!」
「だから! 同世代ぐらいがちょうどいいってことですよ」
「ふーん……確かにあんた、幼馴染属性とか好きそう」
「勝手に想像しないでくださいよ」
「嫌いなの?」
「べ、別に……」
「でもお姉さんに甘えるのも悪くないと思ってるでしょー」
「りょうさんは俺をどんな奴にしたいんですか」
「……なんなら」
ストローから外した顔が、ぐいっと近づけられた。
「俺が可愛いがってあげてもいいよ」
「……っ」
「あははー、どうだったかしら」
「マ、マジで別人かと思いました……」
やっぱり喋り方って重要なんだな。声のトーンが低くなって、全然違う人みたいだった。こういう人って女性に近づきたいものだと思っていたけど、りょうさんはそうでもないのかもしれない。顔は中性的な方だけど、服は男寄りだし……もしかしてわざと? 演技してたりするのか? 今のが本当の姿だったら……。
「な、なんだ?」
つんと服を引っ張られた。何かキラキラしたものを持っている。
「あげる」
「宝石……じゃない。これも飴か」
「お宝」
「はは、なるほど。あっちにもいっぱいあるといいな」
「探すの」
「うん……ってそれ俺に言ってる?」
コクンと飴を一舐めしてから頷いた。
「……よし」
俺も子守りに全力を注ぐ……!こっちはこっちで楽しんでやるよ!
気合いを入れて、一気に飲み干す。眩しいぐらいの太陽が、船体を照らしていた。
「あーさっきのかわいー子、こっちにいたんだね」
黄色い声がこちらに向かって走ってきた。
「きゃあ、また会えたぁ。あははっ」
「少しは声のボリューム下げろよな」
「あ、皆さんお揃いですね」
あの時の七人が揃った。
「あの人は? オジサン……えっと若松さん」
「そういえば途中で知り合いに会ったとかで……飲みにでも行っちゃったんじゃないかな」
よっと高村さんが手を上げて、俺の肩を叩いた。
「そういえばこの問題いくつめ? 俺たちはえっと……」
「二つめだよー。ちょっと寄り道もしちゃったしね」
「お前がバカみたいにはしゃぐから……」
「だってこんなに色々あんだよー? 行かなきゃもったいじゃんっ」
「でも、楽しかったですよね」
つんつんとひじで突いてきたりょうさんとアイコンタクトを交わす。分かってますよ、言いたいことは……。
「あたし達はこれが三つめよ」
「へぇ、やるねぇ君たち」
視界の端では、またカエラさん達がはしゃいでいた。
「ねぇねぇ、ゆぅーやん! めっちゃ綺麗だよ、水着持ってくれば良かったな」
「お前はここから落ちる気か」
「ちっ、違うってばぁ! 降りてからに決まってるじゃん!」
「確かに気持ち良さそうですね。ふふっ」
「雪ちゃんもスタイルよさそーだからいいなぁ」
「そ、そんなことありませんよ」
「またまたぁー」
きゃっきゃうふふが聞こえてきそうな、眩しい空間が目の前に繰り広げられている。
「ぐぬぬ……」
どうしてだ! 本来若者の俺が一番楽しいはずじゃないのか? なんで同世代の奴がいないんだ! あーあこんな始まりじゃなかったら、友達でも誘ってきたのになぁ。なんで知らない人と遊園地なんて……あれ? 友達って誰だっけ……。いるはずだ、絶対に。でも頭に霞がかかっているみたいにぼやっとして、思い出せない。どうして……あれ、俺はどこからここに、来た……?
急に不安が回ってきて、目を閉じた。
大丈夫……こんな非現実的なところにいるから思い出せないだけで、帰ったらちゃんと分かる……はずだ。家に帰ったら笑い話になる。なんでそんなバカなこと思ったんだって……。
相変わらずぷかぷかと平和に海の上に浮いている船が、現実を遠ざけようとしている。
「タケル」
「ルリカ……」
具合が悪いと思ったのか、ひらひらと目の前で確認するみたいに手を振った。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた。何か用か?」
「……大丈夫」
「えっ?」
「ルリカもおんなじだから、大丈夫」
にっこりと笑って手を握った。
「……うん」
深くは考えないことにして握り返す。いつの間にか船は止まっていた。
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