Empty land

膕館啻

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Empty dream

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「何これ、ここに入れっての?」
道というか、穴だ。どこまで深いのか分からない。
「仕方ないわね。あたしが先に行くから、タケルちゃんはルリカちゃんを支えて来てちょうだい。今度はあたしが下でクッションになるわ」
頷いて、ルリカの手を握り直した。そっと片足だけ中に入れる。
「ルリカもう少しこっち……あ……あー! あああああ!」
バランスを崩して、一気に穴の中へ落ちてしまった。三人分の叫び声が響く。このままの勢いで落ちたらどうなるんだ。
「うわぁぁ死ぬううう……あれ?」
突然体がふわりと浮いた。それからはゆっくりと下降を始める。
「はぁ……良かったー。ルリカ大丈夫か?」
手はそのまま繋がれていた。良かった。離してはいなかったみたいだ。ルリカは反対側の手に何か持っていた。
「……懐中時計?」
随分古い物のようだけど、どこで見つけたのだろう。
「これがどうかしたか?」
「あげる」
「あげるって……ルリカのじゃないだろ。まぁいいや貰っておくよ」
ダメだったら後で返しておくか。どこに返せばいいのか分からないけど。
「なんで俺に?」
「んー……」
特に理由は無いみたいだ。
真っ暗だった空間にランプが現れた。その明かりによって見えた壁は英字が羅列してある。まるで大きな本の中みたいだ。
どのぐらい落ち続けてきただろうか、やっと底が見えてきた。
着地した床はピンクと白のダイヤ柄だった。ウサギの形の扉がある。
扉を開けると、また生垣があった。道は一直線だ。そこを進んでみると、突然終わりを迎えた。後ろを振り返ると迷路が広がっている。そうか、ここは迷路のゴールだ!
「やった! やっと迷路が終わった……」
「あんなところから繋がってるなんてねぇ。真面目に迷路やるよりは近道だけど」
小さな白い門を通ると芝生の道に出た。トランプの模様、それぞれの形に切り揃えられた木。そこに咲いている白バラは、赤いペンキでべっとりと塗られている。その近くに落ちているペンキ缶には、No bloodと書かれていた。
血ではないという意味か。なんでわざわざそんなこと書くんだよ……。
確か女王は赤が好きなのに、間違えて白バラを植えてしまったトランプ兵が、バラを赤に塗っているというシーンだ。白バラなんかを植えたことがバレたら首をハネられる。
目の前にそびえ立つどでかい城。ここがメインの場所だろうか。迷路の分を含めるとかなり広い敷地だ。
「ここに入るんですよね……」
開けるのを躊躇してしまう立派で重そうな扉。中はもっと凄いに違いない。
「ほら、突っ立てても始まんないわよ。さっきも城に行ったじゃないの」
「あれとはちょっと雰囲気が違うじゃないですか。……せーので開けましょうよ」
「分かったわ」
二人でそれぞれ、重そうな扉に手を掛ける。
「せーのっ!」
「……っ」
「りょうさん!」
「しょうがないじゃない! あたしだって緊張するわよ」
今度はゆっくり、恐る恐る二人で開けた。
「うわぁ……」
広いエントランスだ。クリスタルのような透き通る壁や床。真っ赤な絨毯は階段の先へと続いていた。キラキラ輝くシャンデリアや、装飾に目を奪われていた時だ。
「よし、この子がアリスだな!」
「連れて行くぞ!」
「はい!」
「ちょっと待て! 何なんだよお前ら」
突然どこからか現れた、やけに身長の小さい三人組はルリカを掴んでいる。小人のようだが、服にはトランプのマークが書かれていた。
「すまないがさらばだ!」
「おいっ!」
あっという間にルリカを背負って、どこかへ走り去ってしまった。
「なんか、次から次へと色々起こるわね」
「……追いましょうか」
階段を上がると、どでかいドアがあった。どどんと真っ赤なハートが主張している。良い予感は全くしなかったけど仕方なく開くと、中も広かった。裁判所のようだ。それにしては派手な飾りばかりだけど。
その中で、やけに大きな椅子に座っている人物がいた。吊り気味の大きな瞳に真っ赤なドレスを纏っている女性は、恐らく女王様だろう。
「よくここまで来たな。わらわは待っていたぞ」
思っていたより若い……いやルリカよりは上だろうけど、どうみてもまだ子供だ。小さいから余計椅子が大きく見える。
「あ、ルリカ!」
椅子の横に大きな鳥かごがあって、その中にルリカが閉じ込められていた。
「ルリカちゃん大丈夫?」
怖がっている様子はなかった。表情を変えないままこちらを見て、親指を立てる。
「ちょっと、あたしを無視するんじゃないわよ!」
「で、今度は何すればいいのかしら」
「うぅ……と、とにかくわらわはここの女王である! そこの少女には大罪の容疑があるので、こちらで捕らえさせてもらったぞ」
「大罪の容疑? 随分大袈裟だな」
コホンと咳払いをした。決まったセリフを言おうと意気込んだように見える。
「わらわの楽しみに取っておいたパイを盗んだのだ。大罪以外の何物でもあるまい!」
やっと謎解きの中心に来れたようだ。予想とは随分違ったけど。
「とりあえず他に容疑者が見つからなければ、そこの子供の首をハネてやるからね! お前たちが有力な証拠を持ってきたら考えてやってもいいぞ」
「じゃあ行きましょうかタケルちゃん」
「はい」
ちょっとちょっと! と呼び止める声が聞こえた。
「この子の首ハネちゃうかもしれないのよ!  あんたも、もっと怖がりなさいよ!」
「……ん?」
「あー! もう!」
この女王様なら、ルリカじゃなくても怖がることはないだろう……。
城の中は、この裁判所のある二階までしか入れそうにない。一応全ての部屋を回ったけど、めぼしいものは何も見つけられなかった。一度外に出る。
「あとヒントって何が残ってましたっけ」
「そうね……芋虫は見てないわ」
その時ちょうど、キラキラと目の前に何かが横切った。
「あ、蝶だ」
「タケルちゃんあれよ!」
光る蝶を追いかけて迷路に戻ったのに、壁を乗り越えて飛んでいってしまった。
「えー、もしかしてハズレでした?」
「さぁ……この壁ってなんとかできるかしら」
触っても、さっきみたいに回転したりはしない。
「よし、タケルちゃん。乗り越えるわよ」
乗り越える? そう言うとりょうさんはしゃがみ、こちらに背中を向けた。
「え、何してるんですか」
「見れば分かるでしょ。早く乗りなさいよ」
「ええっ!  いや無理無理無理無理です」
男とはいえりょうさんは細い。身長はこちらの方が……ま、まぁまぁちょっとだけ低いけど、それにしたって俺も立派な青年なのだ。背負えるとは思えない。
「大丈夫よ。ついでに迷路の道も見えないかしら」
「じゃ……無理だったらすぐ降りるから、言ってくださいよ」
「もーうビビリなんだからぁ」
恐る恐る乗り、りょうさんが立とうとした時だ。
「ぐぉっ」
今まで聞いたことない声が響いた。
「クッソー重い!」
「す、すいません……」
「いいから! 何か見えたっ?」
壁の上にはギリギリ手が届くぐらいだ。思ったよりも高いので、よじ登るのは無理そうだ。なんとか見える向こう側も、同じような緑しか見えない。トリックが仕掛けられていそうな場所も分からなかった。
「すいません……特に何もなさそうです」
「あー腰いてぇー」
「大丈夫ですか? ……すいません」
「はは、謝りすぎよ。あたしが乗れって言ったんだし、こんぐらい平気。それにしてもハズレかぁ」
「はい……やっぱりここの壁ですかね。もしかしたらボタンとかあったりしないかな」
わさわさと触っても、ただの葉だ。ぶつかったり、引っ張ってみても動かない。
「うーん……押しても引いてもダメな時ってどうすればいいんですか」
「なーんかその言葉、タケルちゃんが言うと……ふふ。そうねぇ、持ち上げちゃえばいいんじゃないかしら? まぁこの壁を自力で上げられるとは思えないけど……」
ゴゴゴゴ……と音が鳴った。
「あらぁ、びっくり」
下から上にスライドするように持ち上がった壁の先は、少し色が変わっていた。葉は真緑から黄緑へ。真っ直ぐに歩くと、ちょっとした広場が現れた。小さな噴水があるぐらいだ。
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