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――森下、森下。
空耳かと思ったけど、足を止めて確認する。どこかから呼ばれた気がした。
「うわ、しのみ……っ」
扉を数センチだけ開けた隙間から、こちらを見ていた。思わず上げた声を押さえて、そこに近づく。
「何してるんだ……」
「早くこっちに来い」
シャツを引っ張られて、教室に突っ込む。急いで鍵が閉められた。
こちらに背を向けたまま、黙り込む篠宮の姿に緊張感が走る。さっきまで床に頭を擦りつけて、半狂乱のようになっていたのに、随分静かだ。
「人を騙すときは、まず味方からってね」
振り返った顔は、あっけらかんとしていた。あははと爽やかな様子で笑う。
「彼女はよくやってくれたよ。期待以上だった」
これは本当に篠宮なのか。その代わり様は、少しジョーカーが二人現れた時に似ている。そんな訳はないだろうけど。
「最初から説明してくれないか。何が何だかさっぱりだ」
「誰を選ぶか迷っていたけど、彼女を選んで良かったよ。ただ肝心の奴については結構迷ってて……。あの時点では森下は対象外に近かったんだけど、ここに来てからこんなに評価が変わるとは思わなかった」
「だから、意味分かんねーって」
「はは、すまない。これでも少し浮かれてるんだ。……じゃあ、全てを話そうか」
舞踏会を行なった本当の目的は、皆を催眠状態にすることだったらしい。あの空間には匂いや色の無い薬が撒かれていて、それが皆の判断力を鈍らせた。
古い校舎に移動している間、教室に着いてからも男子が喋らなかったのはそれのせいだ。女子があんなことをされても、反抗せずに大人しくしていたのもそうだろう。告白をしている最中、ジョーカーが「貴方は……へぇ、どうしてかからなかったのでしょうか」と、こう言っていた。これは催眠にという意味だったんだ。
その女生徒のことは分からないけど、俺が催眠にかかっていない理由は分かっている。途中でジョーカーに呼ばれたからだ。あの別室に入らなければ、今頃俺も……。
「もしかして、あれって演技だった?」
「いかがでしたか、監督」
「……マジでもう終わったと思った」
ご機嫌なのか、机の上に座りながら口を開けて笑った。元々の篠宮がこれだというなら、俺が心配なんてする必要のない好感がもてる良い青年じゃないか。初めて会話をした時の感動を返してほしい。
あれをやった理由は、替えのジョーカーをここに連れてこられないようにする為だったらしい。確かにジョーカーの注意を逸らさなければ、それはできないだろう。それの為に女子達、特に二条に手を回してもらっていたなんて。しかも結構前から準備していたんじゃないか。篠宮が夜どこかへ行っているのには何度か気づいたけど、そんなことをしていたとは考えもしなかった。
篠宮は一呼吸おいてから、妙なことを切り出した。
「森下は女の子が出る夢を見たことないか」
「……どういうことだよ」
真面目な顔をして、何を言い出すんだ。
「ただの少女じゃない。アリスと呼ばれる女の子だ」
「いや、知らないな」
「……そうだよな」
フッと息を吐いて、視線を逸らした。それが良いことなのか、悪いことなのか想像がつかない表情だ。
「その女の子を夢で見るとどうなるんだ。そういう都市伝説?」
「妹が探してるんだ……」
「えっ?」
「妹は昔、自分をアリスだと思い込んでいた。夢の中で、ある少年と二人でずっと遊んでいたらしい。夢の中の出来事なんだから、それは現実じゃないと言っても聞かないんだ。ただ彼女が知っているはずのない単語や地名、そんなものが時々口から出てくる。お兄様は存在する、私はお兄様に会わなくてはいけない。アリスが口にする言葉だ。実際話を聞くと、夢とは思えない細かいところまで再現する。馬鹿げていると思っても、本当にそうなんじゃないかと時々信じてしまいそうになるんだ」
「……ふーん。凄い話だな」
「でもある時、急に彼女は夢を見なくなったと言っていた。少年がもう会いに来てくれないんだって……だから俺は彼女の言っていた特徴を思い出して、それに近い少年を探している」
「それで転校してきたのか?」
「ああ」
「その少年を探す為には、世界中の学校に転校する必要があるな」
「……っ」
「何故ここを選んだ? というか探すだけなら転校なんてしなくても、普通に調べに行けばいいじゃないか。お前なら不審者になる前に、学生から協力してもらえるだろう……って、そもそも現実味無さ過ぎるだろ、この話」
「あはは。見切り発車で話しちゃったけど、俺も厳しいなって思ってた」
「妹のこと彼女なんて呼ばないし、普通」
「まぁでも……俺も完全には信じられていないけど、その話は実際にあったことなんだ」
「え?」
「実はこのクラスは、その例の少年が通っていた場所らしい。まぁそれだけの事だ……そんな僅かな可能性にも賭けたかったんだろうな」
「その話って結局どうなったんだ? まだ探してるってことは、その子は今も……」
「いや、俺はアリスを知らない。事実だとは言ったけど、確認した訳じゃない。アリスの見た目も何も知らないけど、あいつがあれだけが熱心に調べているということは、嘘じゃないんだろう……」
窓の方を見た。冷たいシャッターを指でなぞる。
「……どうした」
隣に立って顔を見ると、先程までの笑顔は消えていた。無理して歪ませた、力のない笑みだ。
「お前なんで……そんな顔してんだよ、俺が見る篠宮の顔は……いつも辛くて、苦しそうだ」
「……っ」
「もう俺に言ったってことは、解決したんだよな? ジョーカーとグルだって……そんなこと、それが裏切り者なのか? 裏切るなんて……その言い方が違うだろ、お前は初めから裏も表も無かった……っ」
「森下……」
「俺は裏切られたなんて思ってない! ここまで来たなら全部教えてくれよ……! なんで俺のこと守ってるんだ? 俺はそのアリスを知っている少年でもないし、皆を……お前を守ることだって、できなかった奴なのに……」
篠宮が口を閉じてから、随分長い沈黙に思えた。
「俺は……お前に……森下に助けられていた。守れなかったなんて、言わないでくれ」
「……俺が、助けた?」
「久しぶりに笑った……あの日から、いや前から楽しいことなんて何もなくて……全てがどうでもよかった。これだってやる前は、何も感じずに淡々と終わると思っていたんだ。でもこうして同じ場所で生活を共にしていると、不思議な気分になった。俺が悪いのに、皆の敵は俺なのに……。全部知ったら、嫌いに……いやそれ以上に呆れられて、恨まれるだろう。それも覚悟していた。それなのに……どうしてか、嫌われたくないと……嫌わないでいてくれるんじゃないかって、そんなことを思って……いや、願ってしまったんだ」
「篠宮……」
「どうしてお前は離れていかなかった? どうして、俺のことを……友達だなんて言ってしまったんだ……?」
目の辺りを擦ってから、頭を押さえた。
「思い出したんだ……ここに来る前の自分のこと、いつの間にか忘れてた。あいつに復讐しなくちゃとか、血が繋がってるだけの他人のことを考えすぎていた。失敗してあいつが嫌な顔をするのさえ見られれば、死んでしまってもいいとさえ思っていた。それ程に、何にも希望を持てなかった。……初めから俺はヒドイ態度だっただろ? あんなの普通の生徒じゃないよな。嘘をついて、お前を少年に仕立て上げてしまえばすぐに終わると思った……でも、お前の前では演技ができなかったんだ。もっと上手く取り繕えていたら、お前を不安にさせることもなかっただろう。そっちの方が正しかったのに……俺もお前に賭けていたのかもしれないな。俺のことを皆に告発してくれるか、俺のことを訝しんでも、それでも隣にいてくれるか。どっちになっても従うつもりだった。本心は……一緒に過ごしたかった、けど」
一度口を閉ざすと、苦しげに息を吐き出した。
「俺はもっと嫌われるべきなんだ……っ! 俺のことなんて……っ、どうしてだ……俺はどうしてまだこんなところにいる? とっくに落とされても……いや、落ちる人間なんて俺一人で良かったんだ! こんな環境じゃなかったら……俺が、本当にここの生徒だったら……本物の、友達になれていたのか……?」
篠宮はミステリアスでも、クールでも何でもない。友達が欲しいと悩んでいるただの人間だ。初めから心を開いていれば、皆が対等に、特別視なんてしなければ……今の結果はもっと変わっていたんじゃないか。
「篠宮……今のお前は本物だろ? 演技をしてない、ただの篠宮ハクなんだろ。……だったらお前と友達だって、俺は胸張って答えるよ」
「……っ」
それでもまだ自分が許せないのか、唇を噛んで拳を握りしめた。
「……ごめん、本当にごめん。何を言ったって、もう許されることじゃないのは分かってる。……失望したよな、本当は全部知ってて、こんなことをする意味が無いのも分かってた。それでもお前はずっと変わらずに、見捨てないでくれた。そんなお前を、俺は汚れた所からしか見ることができなくて……本来俺はお前達と友達なんて……一緒にいて許されるような存在じゃないのに……っ」
「お前達は意味分かんないんだよ……! なんでお前もジョーカーも、一番苦しそうなんだ。黒幕ならそれらしく、俺達をバカにして楽しんでたら……こっちとしてもしっかり恨めたのに、そんな片鱗はどこにも見えないし……。お前も俺達と同じだよ。いや一番の被害者はお前達かもしれない……だからもう謝らなくていいんだ。苦しむ必要はない。悪いのは、篠宮じゃないんだから」
顔の前に手を出した。戸惑うように瞳が揺れている。
「いいのか……?」
しっかり頷いてみせると、少しずつ苦しそうな顔が晴れていった。熱い手が触れる。
「……今残っている人は、全員ここから出すと誓おう」
「ああ、頼む。でも俺も、協力するからな」
やっと篠宮の顔に笑顔が戻った。初めはしっかりしていたのに、だんだんと崩れていく。ふにゃりと笑った顔は、取り繕った仮面が剥がれたような自然な表情だった。
空耳かと思ったけど、足を止めて確認する。どこかから呼ばれた気がした。
「うわ、しのみ……っ」
扉を数センチだけ開けた隙間から、こちらを見ていた。思わず上げた声を押さえて、そこに近づく。
「何してるんだ……」
「早くこっちに来い」
シャツを引っ張られて、教室に突っ込む。急いで鍵が閉められた。
こちらに背を向けたまま、黙り込む篠宮の姿に緊張感が走る。さっきまで床に頭を擦りつけて、半狂乱のようになっていたのに、随分静かだ。
「人を騙すときは、まず味方からってね」
振り返った顔は、あっけらかんとしていた。あははと爽やかな様子で笑う。
「彼女はよくやってくれたよ。期待以上だった」
これは本当に篠宮なのか。その代わり様は、少しジョーカーが二人現れた時に似ている。そんな訳はないだろうけど。
「最初から説明してくれないか。何が何だかさっぱりだ」
「誰を選ぶか迷っていたけど、彼女を選んで良かったよ。ただ肝心の奴については結構迷ってて……。あの時点では森下は対象外に近かったんだけど、ここに来てからこんなに評価が変わるとは思わなかった」
「だから、意味分かんねーって」
「はは、すまない。これでも少し浮かれてるんだ。……じゃあ、全てを話そうか」
舞踏会を行なった本当の目的は、皆を催眠状態にすることだったらしい。あの空間には匂いや色の無い薬が撒かれていて、それが皆の判断力を鈍らせた。
古い校舎に移動している間、教室に着いてからも男子が喋らなかったのはそれのせいだ。女子があんなことをされても、反抗せずに大人しくしていたのもそうだろう。告白をしている最中、ジョーカーが「貴方は……へぇ、どうしてかからなかったのでしょうか」と、こう言っていた。これは催眠にという意味だったんだ。
その女生徒のことは分からないけど、俺が催眠にかかっていない理由は分かっている。途中でジョーカーに呼ばれたからだ。あの別室に入らなければ、今頃俺も……。
「もしかして、あれって演技だった?」
「いかがでしたか、監督」
「……マジでもう終わったと思った」
ご機嫌なのか、机の上に座りながら口を開けて笑った。元々の篠宮がこれだというなら、俺が心配なんてする必要のない好感がもてる良い青年じゃないか。初めて会話をした時の感動を返してほしい。
あれをやった理由は、替えのジョーカーをここに連れてこられないようにする為だったらしい。確かにジョーカーの注意を逸らさなければ、それはできないだろう。それの為に女子達、特に二条に手を回してもらっていたなんて。しかも結構前から準備していたんじゃないか。篠宮が夜どこかへ行っているのには何度か気づいたけど、そんなことをしていたとは考えもしなかった。
篠宮は一呼吸おいてから、妙なことを切り出した。
「森下は女の子が出る夢を見たことないか」
「……どういうことだよ」
真面目な顔をして、何を言い出すんだ。
「ただの少女じゃない。アリスと呼ばれる女の子だ」
「いや、知らないな」
「……そうだよな」
フッと息を吐いて、視線を逸らした。それが良いことなのか、悪いことなのか想像がつかない表情だ。
「その女の子を夢で見るとどうなるんだ。そういう都市伝説?」
「妹が探してるんだ……」
「えっ?」
「妹は昔、自分をアリスだと思い込んでいた。夢の中で、ある少年と二人でずっと遊んでいたらしい。夢の中の出来事なんだから、それは現実じゃないと言っても聞かないんだ。ただ彼女が知っているはずのない単語や地名、そんなものが時々口から出てくる。お兄様は存在する、私はお兄様に会わなくてはいけない。アリスが口にする言葉だ。実際話を聞くと、夢とは思えない細かいところまで再現する。馬鹿げていると思っても、本当にそうなんじゃないかと時々信じてしまいそうになるんだ」
「……ふーん。凄い話だな」
「でもある時、急に彼女は夢を見なくなったと言っていた。少年がもう会いに来てくれないんだって……だから俺は彼女の言っていた特徴を思い出して、それに近い少年を探している」
「それで転校してきたのか?」
「ああ」
「その少年を探す為には、世界中の学校に転校する必要があるな」
「……っ」
「何故ここを選んだ? というか探すだけなら転校なんてしなくても、普通に調べに行けばいいじゃないか。お前なら不審者になる前に、学生から協力してもらえるだろう……って、そもそも現実味無さ過ぎるだろ、この話」
「あはは。見切り発車で話しちゃったけど、俺も厳しいなって思ってた」
「妹のこと彼女なんて呼ばないし、普通」
「まぁでも……俺も完全には信じられていないけど、その話は実際にあったことなんだ」
「え?」
「実はこのクラスは、その例の少年が通っていた場所らしい。まぁそれだけの事だ……そんな僅かな可能性にも賭けたかったんだろうな」
「その話って結局どうなったんだ? まだ探してるってことは、その子は今も……」
「いや、俺はアリスを知らない。事実だとは言ったけど、確認した訳じゃない。アリスの見た目も何も知らないけど、あいつがあれだけが熱心に調べているということは、嘘じゃないんだろう……」
窓の方を見た。冷たいシャッターを指でなぞる。
「……どうした」
隣に立って顔を見ると、先程までの笑顔は消えていた。無理して歪ませた、力のない笑みだ。
「お前なんで……そんな顔してんだよ、俺が見る篠宮の顔は……いつも辛くて、苦しそうだ」
「……っ」
「もう俺に言ったってことは、解決したんだよな? ジョーカーとグルだって……そんなこと、それが裏切り者なのか? 裏切るなんて……その言い方が違うだろ、お前は初めから裏も表も無かった……っ」
「森下……」
「俺は裏切られたなんて思ってない! ここまで来たなら全部教えてくれよ……! なんで俺のこと守ってるんだ? 俺はそのアリスを知っている少年でもないし、皆を……お前を守ることだって、できなかった奴なのに……」
篠宮が口を閉じてから、随分長い沈黙に思えた。
「俺は……お前に……森下に助けられていた。守れなかったなんて、言わないでくれ」
「……俺が、助けた?」
「久しぶりに笑った……あの日から、いや前から楽しいことなんて何もなくて……全てがどうでもよかった。これだってやる前は、何も感じずに淡々と終わると思っていたんだ。でもこうして同じ場所で生活を共にしていると、不思議な気分になった。俺が悪いのに、皆の敵は俺なのに……。全部知ったら、嫌いに……いやそれ以上に呆れられて、恨まれるだろう。それも覚悟していた。それなのに……どうしてか、嫌われたくないと……嫌わないでいてくれるんじゃないかって、そんなことを思って……いや、願ってしまったんだ」
「篠宮……」
「どうしてお前は離れていかなかった? どうして、俺のことを……友達だなんて言ってしまったんだ……?」
目の辺りを擦ってから、頭を押さえた。
「思い出したんだ……ここに来る前の自分のこと、いつの間にか忘れてた。あいつに復讐しなくちゃとか、血が繋がってるだけの他人のことを考えすぎていた。失敗してあいつが嫌な顔をするのさえ見られれば、死んでしまってもいいとさえ思っていた。それ程に、何にも希望を持てなかった。……初めから俺はヒドイ態度だっただろ? あんなの普通の生徒じゃないよな。嘘をついて、お前を少年に仕立て上げてしまえばすぐに終わると思った……でも、お前の前では演技ができなかったんだ。もっと上手く取り繕えていたら、お前を不安にさせることもなかっただろう。そっちの方が正しかったのに……俺もお前に賭けていたのかもしれないな。俺のことを皆に告発してくれるか、俺のことを訝しんでも、それでも隣にいてくれるか。どっちになっても従うつもりだった。本心は……一緒に過ごしたかった、けど」
一度口を閉ざすと、苦しげに息を吐き出した。
「俺はもっと嫌われるべきなんだ……っ! 俺のことなんて……っ、どうしてだ……俺はどうしてまだこんなところにいる? とっくに落とされても……いや、落ちる人間なんて俺一人で良かったんだ! こんな環境じゃなかったら……俺が、本当にここの生徒だったら……本物の、友達になれていたのか……?」
篠宮はミステリアスでも、クールでも何でもない。友達が欲しいと悩んでいるただの人間だ。初めから心を開いていれば、皆が対等に、特別視なんてしなければ……今の結果はもっと変わっていたんじゃないか。
「篠宮……今のお前は本物だろ? 演技をしてない、ただの篠宮ハクなんだろ。……だったらお前と友達だって、俺は胸張って答えるよ」
「……っ」
それでもまだ自分が許せないのか、唇を噛んで拳を握りしめた。
「……ごめん、本当にごめん。何を言ったって、もう許されることじゃないのは分かってる。……失望したよな、本当は全部知ってて、こんなことをする意味が無いのも分かってた。それでもお前はずっと変わらずに、見捨てないでくれた。そんなお前を、俺は汚れた所からしか見ることができなくて……本来俺はお前達と友達なんて……一緒にいて許されるような存在じゃないのに……っ」
「お前達は意味分かんないんだよ……! なんでお前もジョーカーも、一番苦しそうなんだ。黒幕ならそれらしく、俺達をバカにして楽しんでたら……こっちとしてもしっかり恨めたのに、そんな片鱗はどこにも見えないし……。お前も俺達と同じだよ。いや一番の被害者はお前達かもしれない……だからもう謝らなくていいんだ。苦しむ必要はない。悪いのは、篠宮じゃないんだから」
顔の前に手を出した。戸惑うように瞳が揺れている。
「いいのか……?」
しっかり頷いてみせると、少しずつ苦しそうな顔が晴れていった。熱い手が触れる。
「……今残っている人は、全員ここから出すと誓おう」
「ああ、頼む。でも俺も、協力するからな」
やっと篠宮の顔に笑顔が戻った。初めはしっかりしていたのに、だんだんと崩れていく。ふにゃりと笑った顔は、取り繕った仮面が剥がれたような自然な表情だった。
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