Empty land

膕館啻

文字の大きさ
上 下
21 / 135
Empty land

(1)

しおりを挟む
細い道を通って、一般用の広い場所に出た。ここから今来た道を見ると、ただの行き止まりのように見える。本当に詳しくないと、あの場所へは辿り着けないだろう。
自分が使う為だけに作った場所。大事なところなんだろうけど、何か暗号やお宝が隠されていたりはしなさそうだ。

少し歩いただけなのに、いつの間にか辺りの雰囲気が変わっていた。足元は落ち葉が絨毯のようになっていて、元の道が見えない。それなのに、周りの木は緑の葉だった。
「はい、右手に見えますのは~」
手を上げて、それらしく口調を真似ている。妖精の常識は知らないけど、それなりに色々知っているらしい。
「こびとさんのおうちでございま~す」
家を囲むように数本の木々に電飾がつけられている。派手なイルミネーションではなく、さりげなく葉を照らしている程度だ。その下はキノコの形をした椅子や、ドングリの灯りなど、可愛い空間が広がっている。
「せっかくなんで、ちょっとお邪魔しちゃいましょうか。気分は白雪姫ですね」
一際目立つ大きな大樹に、窓やドアがつけられていた。これが家らしい。
勝手に開けてしまったが、誰かいる様子はなさそうだ。ベッドや椅子、スプーンなどの小物までちゃんと小さくなっていた。
天井に頭がつかないから、人間が入っても問題ない広さはある。二階は個室がいくつかあって、その内の一つを物色し始めた。壁についていたハンドルに触れると、躊躇なく回す。
「それって何してるの?」
音がしたと思ったら、頭上から明るい光が差し込んだ。天井の一部分が今ので開いたようだ。なんでこんな仕組みになっているんだろう。
「こっち来て、良いものがあるの!」
目がキラキラと輝いている。ここもリリーのお気に入りのようだ。夢中になると、周りが見えなくなるタイプ。ちょっとおてんばな子っぽいな、なんて笑ってからそっちに行こうとした。これ届くのか? 決してオレが小さいわけじゃない。リリーだって羽があるから行けたのだろうし。
天井に向かって何回か飛び跳ねてたら、指先が微かに触れた。
「うっ、もうちょい……」
これ以上は無理だ。諦めようと思ったとき、スッと体が軽くなった。
「はい、ご到着です」
「うん……ありがと」
そこには二人乗りのぐらいの乗り物があった。見た目はただの木箱に見えるけど。それに乗り込み、紐を引っ張ると、滑車が回り上へと動く。木の最上部に着いた。結構高い位置まで上がれるようで、先ほどの木々の頭が見えている。かなり遠くまで見渡せた。
前はサバイバルができそうなジャングルが広がっている。その真ん中には、美しい湖があることも確認できた。
「こっちからは……って、あ! ごめんなさい。まだ繋いだままでしたね、えへへ」
「いや、こっちこそ夢中で……」
引っ張り上げられた時に繋いでいた手を、ゆっくり離す。顔を見合わせると、思わず二人で笑ってしまった。何がおかしいのかも分からないけど、こんな風に誰かと笑ったのはいつぶりだろう。妖精は不思議なパワーでも持っているのかもしれない。存在自体が凄いけど。
「でね、こっちからは妖精の森が見えるのよ」
ぐるりと後ろを向いたその一角は、ピンクがかった白いもやに包まれていた。なんとなく甘い匂いが漂ってくる。
ここからでも見えるほどの大きな花は、実際に近くで見ると、かなり大きそうだ。巨大な物で囲んで、妖精の気分を味わおうみたいなことらしい。
森の端には滝が流れていて、その下に虹が出ていた。水の色が時々黄色やピンクに変わる。どの色も、黄金色の光が射し込む空に似合っていた。幻想的な空間は、架空の妖精が本当にいると思わせてくれる。
「妖精の森ってことは、あそこに住んでるの?」
「そういう設定……あ、じゃなくてたまに帰ったりするけど。わ、私はちょーっと特別だから基本的にはマスターの側でお仕事をして……いて」
どんどん口調が弱くなり、黙り込んでしまった。
「どうしたの」
「話して良いのか分からないけど……ちょっと前から、マスターに会わせてもらえないの」
「えっ? なんで」
「……分からない。今マスターに会えるのは、あの人達だけみたい。さっきの彼と、もう一人。本当の側近の人。前は私もお手伝いとかしていたのに……理由も聞いても教えてくれない。会えないだけじゃなくて、実は姿も全然見えなくて……外に出ていないみたい。今日だって貴方を案内する係を任されたのは嬉しいけど、その人達に言われただけなの。私心配で……もしマスターがその、ここからいなくなってたりしたら……っ」
「大丈夫だよ。今回俺を招待したのは間違いなくその人なんだから。いないなんてあり得ない。何があったか分からないけど、一緒に会いに行こう」
「……っ、ありがとう……ございます」
「じゃあ次のところも案内してくれる?」
了解しました! 涙を拭いてにこりと笑う彼女は、もう復活したようだ。
その人達の一人は帽子屋だ。内部を詳しく知らなければ、そもそも手間をかけて俺をここまで連れて来たりしない。ここに来れば分かるとか、アリスを知るべきとか、そんな発言をしているのだから彼女はここにいるはずだ。
俺は会って話を聞くつもりだったけど、もしかすると彼女は喋れない状況だったりするのかもしれない。その上で俺を利用して彼らがこの場所をどうにかしようしている? でも、あの時見た帽子屋の目を信じたい。アリスはギリギリの状態で、俺が来ることが最後の望みだったら……もう結構この遊園地やばい感じなんじゃ。
一番最初、サイトに出てきた彼女の言葉は恐らく本物だろう。俺の話に興味を持ったのが嘘ならその時から、本当ならまだ最近のことだ。望みはあるかもしれない。分かったのは、この状況はやっぱり異常事態だということだ。アリスという人だけでなく、もっと大勢、下手すればここがなくなってしまうかもしれないぐらいの。

ところどころに壊れた柱や石像が倒れていた。その先に、廃墟のような不気味なトンネルがある。
「ここが駅?」
冷気が漂う、暗くじめじめした空間を恐る恐る進んだ。石の階段を登ると、急にちゃんとしたホームが現れた。駅内はどこも壊れていないし、なんなら汚れの一つもない。
「な、なんだこれ……」
ホームに立っていたのは、様々な種類の人形達だった。それらが人間のように電車を待っている。俺の隣では猫が帽子をかぶって、新聞を開いていた。つまらなそうに見ているその表情はただのサラリーマンだ。
他にもプラスチックの人型人形、剥製ほどのリアルなクマ、風船を配ってそうなうさぎの着ぐるみ、ブリキの馬、フランス人形、人体模型、可愛らしい子供用のオモチャ達がジャンルをぐちゃぐちゃに……しかし全員そこが自分の居場所と主張するように、存在していた。
奇妙な空間だ。少し背筋がぞっとする。
「みんな電車を待ってるんでしょうね。彼等が乗ることはないけれど」
「人形が電車に?」
「マスターにとっては意味があることなのよ……まだまだこんな場所は続くけど大丈夫?」
「あ、ああ。慣れるようにする」
改めて、アリスの頭の中を覗きたくなった。アイデアがあったとしても、それを形にしようとする人は一握りだろう。ましてやこんな、一件意味のないものを、大金を使ってまで作ろうとする人は。
やってきた電車は案外普通だった。丸みを帯びた外観は、鮮やかな青一色で塗られている。黄色のラインがアクセントだ。窓はかなり大きく、外からでも中の様子が見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

少年少女たちの日々

原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。 世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。 しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。 世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。 戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。 大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。 その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...