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日付が変わってクリスマス。病院にいたけどやることもなくなったので、散歩がてら出掛けることにした。街はキラキラしていて、一人では浮いてしまう。このイベント力を恨みつつ適当に歩いていると、何やら人混みができていた。
デパートの電化製品売り場前。覗いてみると、何台ものテレビに映し出されているのは例の招待客だった。そうか、今日だった。 画面の中で入り口に密集している人の群れ。一握りの人数だけど、こうして見ると五千人は多い。その中から二人を見つけるのは難しそうだ。
画面には当たった人が、嬉しそうに取材に応じていた。それから例の遊園地が空から映し出される。大きな丸いドーム状になっていて、それは全て黒い幕で完全に覆ってあるみたいだ。とりあえず超大型ということに嘘はないらしい。全体を映そうとすると、カメラをかなり引かなければ入らない。
時間は午前九時五十五分。ちょうど十時に開幕だ。今か今かと待ちわびる人々が蠢いている。
針が回った。重い音を響かせながら、背の高いゲートが開く。ゴシック調の厳かなゲートの先、ドームの入口は真っ暗で何も見えない。
画面の中では人という人が我先にと走り出した。その姿は動物の群れのようだ。しかしよく目を凝らすと、追い返されたのか、飛び出すように戻ってくる人がいた。
「なんだろうあれ」
思わず呟くと、隣にいた知らないおじさんがぼそっと呟いた。
「やっぱりチケットがなきゃ駄目なんだなぁ。無理矢理入れはしないんだね。そらーそうか」
なるほど。チケット無しにとりあえず入ってみようと考えたのは、一人や二人じゃないのか。それにしてもどういう仕組みになっているんだろう。見たところチケットを捌くスタッフはおろか、入場客以外の人間は見当たらない。
「それにしても凄いよなぁ。人がゴミのようだってね、見てるだけでお腹いっぱいだよ」
「はは……そうですね」
それからは同じような映像が続き、画面の中で人が少なくなると、こちらもゾロゾロとテレビから離れていった。
あいつら無事に入れたかな……お土産とかくれるだろうか。
イルミネーションを横目に歩いて病院に戻った。母もニュースを見ていたようで、あれは混みすぎだから落ち着いてから行きたいわーなんて、呑気に過ごしていた。おばあちゃんの容体も落ち着いているらしい。
病院で過ごすクリスマスも良いかもしれない。派手ではないけれど、他の部屋では楽しそうな子供の声が響いている。廊下ですれ違った子に、ツリーに付いていたオーナメントを貰った。天使を象ったもので、羽が綺麗だ。今までとは違う穏やかな年の瀬が心地良かった。
このまま順調ならあいつらと一緒に初詣に行って、家でおせちでも食べれるかな。
柔らかな日の当たる椅子に座って、白い室内を眺める。そこは怖いくらいに平和な、穏やかな空間で。それが心地良くも、どこかで何かが過った。それは軸がブレる合図だったのかもしれない。もう手に入らない、一生取り戻すことのできない――そんな日々の終わりを告げるような。
「あちっ……」
自動販売機で買った缶コーヒーが思ったより熱くて、袖で掴む。そのときドッドッと鼓動が加速した。まただ。大したことじゃないはずなのに、変に緊張している。
何かを予感したのか、無意識なのか、首を回してその方向を向く。テレビには混乱を映していた。
「えー皆さん、我々JXテレビは遊園地から出てきた方々に取材をしようと、昨夜から徹夜でここにおりました……が、しかし! 一度も、誰も、外へ出てくる気配がないのです!」
画面の中では沢山の人がゲートに引っ付いていた。息子を返せ、妻をどこへやった! などと必死に叫んでいる。
中には凶器を持って入ろうとする人もいたが、高いゲートは何者も相手せず、上から冷たく見下ろしているだけだった。まさに鉄壁の壁だろうか。オマケにここを超えたとしても、その先の巨大な黒い塊が開く様子もない。
「ペアチケットには一泊分の宿泊が含まれておりますが、それでも正午までには一日の有効期限が切れますので、正午から約一時間経った今、一人も出てこないとはおかしい事態です! 一般人はともかく、遊園地側からも何の連絡はございません。無言を貫いております!」
若い女の子に報道陣のマイクが渡された。悲痛な顔をしながら必死に訴えている。
「昨日の、中に入る十時までは連絡が取れたんです。でもそれきり全く連絡がなくて……。楽しんでるならいいけど、一通ぐらいメールを打つ時間だって……っ」
「ここにいる方は家族や友人に当たった方がいて、その人を迎える為に待っていた方が多いですね。実はここのスタッフにも一人当たった奴がいまして……そいつに一日経ったらどこよりも早く情報を出させる為に早く出てこいと伝えたのに……ああっ昨日から全く連絡がつかない! あれだけ……言っておいたのにっ!」
「何時間の特番を用意したと思ってるんだ! どうするんだよ、今更普通の番組で数字が取れるわけねーだろ!」
どこかから怒声が飛んできた。カメラの前だということを忘れるぐらい興奮しているリポーターは、人の波に飲まれていった。
何か対策は無いのかと叫ぶ者たちの後ろから、低い音を響かせた大型トラックがゆっくりと走ってきた。まさかこれごとぶつかるつもりなのか。そんなもので突っ込んだら危ないんじゃと思ったけど、人々が避けた道をお構いなしに加速する。そしてそのまま門へ。トラックのぐちゃぐちゃになった姿を想像して思わず目を閉じた……が音は聞こえてこない。恐る恐る見てみると、車はボロボロになっていた。無人走行だったみたいだけど、煙が噴いて前方が潰された無残な姿はちょっと可哀想だ。そして門の方は一切傷がついていない。
そのまま画面を見ていると、パッと映像が切り替わった。総理の顔だ。
「あー……この放送は今、同時生中継している。中にいるのは日本人だけではないだろうから、各国にも向けての放送だ。民衆の為に私が立ち上がろう! 我々が勢力を上げ立ち向かうのだ! いま事態は一刻を争う。この遊園地には世界中から集められた五千人が閉じ込められている。遊園地側から返答がなければ、今すぐ取り壊しを行う!」
あまりの急展開に、息をするのも忘れていた。どうしてこんな事態になっているんだ。そういえばこの遊園地ができることによって、他の娯楽施設が経営難になると予想されていた。その他にも様々な理由から目をつけられていたということは間違いない。遊園地側はあのサイト以外は無言を貫いていて、実際に何の情報も漏れていないということは、身分が上の人間でも関わることができなかったのだろう。
素性の知れない勝手な遊園地など開発を中止にさせれば良かったのに、騒ぎが大きすぎた。この状態で止めても暴動が起きるだけだろう。だったら始まってからだ。何かをやらかした後、徹底的に追い込んで破滅させる。その機会を狙っていたのではないか。
デパートの電化製品売り場前。覗いてみると、何台ものテレビに映し出されているのは例の招待客だった。そうか、今日だった。 画面の中で入り口に密集している人の群れ。一握りの人数だけど、こうして見ると五千人は多い。その中から二人を見つけるのは難しそうだ。
画面には当たった人が、嬉しそうに取材に応じていた。それから例の遊園地が空から映し出される。大きな丸いドーム状になっていて、それは全て黒い幕で完全に覆ってあるみたいだ。とりあえず超大型ということに嘘はないらしい。全体を映そうとすると、カメラをかなり引かなければ入らない。
時間は午前九時五十五分。ちょうど十時に開幕だ。今か今かと待ちわびる人々が蠢いている。
針が回った。重い音を響かせながら、背の高いゲートが開く。ゴシック調の厳かなゲートの先、ドームの入口は真っ暗で何も見えない。
画面の中では人という人が我先にと走り出した。その姿は動物の群れのようだ。しかしよく目を凝らすと、追い返されたのか、飛び出すように戻ってくる人がいた。
「なんだろうあれ」
思わず呟くと、隣にいた知らないおじさんがぼそっと呟いた。
「やっぱりチケットがなきゃ駄目なんだなぁ。無理矢理入れはしないんだね。そらーそうか」
なるほど。チケット無しにとりあえず入ってみようと考えたのは、一人や二人じゃないのか。それにしてもどういう仕組みになっているんだろう。見たところチケットを捌くスタッフはおろか、入場客以外の人間は見当たらない。
「それにしても凄いよなぁ。人がゴミのようだってね、見てるだけでお腹いっぱいだよ」
「はは……そうですね」
それからは同じような映像が続き、画面の中で人が少なくなると、こちらもゾロゾロとテレビから離れていった。
あいつら無事に入れたかな……お土産とかくれるだろうか。
イルミネーションを横目に歩いて病院に戻った。母もニュースを見ていたようで、あれは混みすぎだから落ち着いてから行きたいわーなんて、呑気に過ごしていた。おばあちゃんの容体も落ち着いているらしい。
病院で過ごすクリスマスも良いかもしれない。派手ではないけれど、他の部屋では楽しそうな子供の声が響いている。廊下ですれ違った子に、ツリーに付いていたオーナメントを貰った。天使を象ったもので、羽が綺麗だ。今までとは違う穏やかな年の瀬が心地良かった。
このまま順調ならあいつらと一緒に初詣に行って、家でおせちでも食べれるかな。
柔らかな日の当たる椅子に座って、白い室内を眺める。そこは怖いくらいに平和な、穏やかな空間で。それが心地良くも、どこかで何かが過った。それは軸がブレる合図だったのかもしれない。もう手に入らない、一生取り戻すことのできない――そんな日々の終わりを告げるような。
「あちっ……」
自動販売機で買った缶コーヒーが思ったより熱くて、袖で掴む。そのときドッドッと鼓動が加速した。まただ。大したことじゃないはずなのに、変に緊張している。
何かを予感したのか、無意識なのか、首を回してその方向を向く。テレビには混乱を映していた。
「えー皆さん、我々JXテレビは遊園地から出てきた方々に取材をしようと、昨夜から徹夜でここにおりました……が、しかし! 一度も、誰も、外へ出てくる気配がないのです!」
画面の中では沢山の人がゲートに引っ付いていた。息子を返せ、妻をどこへやった! などと必死に叫んでいる。
中には凶器を持って入ろうとする人もいたが、高いゲートは何者も相手せず、上から冷たく見下ろしているだけだった。まさに鉄壁の壁だろうか。オマケにここを超えたとしても、その先の巨大な黒い塊が開く様子もない。
「ペアチケットには一泊分の宿泊が含まれておりますが、それでも正午までには一日の有効期限が切れますので、正午から約一時間経った今、一人も出てこないとはおかしい事態です! 一般人はともかく、遊園地側からも何の連絡はございません。無言を貫いております!」
若い女の子に報道陣のマイクが渡された。悲痛な顔をしながら必死に訴えている。
「昨日の、中に入る十時までは連絡が取れたんです。でもそれきり全く連絡がなくて……。楽しんでるならいいけど、一通ぐらいメールを打つ時間だって……っ」
「ここにいる方は家族や友人に当たった方がいて、その人を迎える為に待っていた方が多いですね。実はここのスタッフにも一人当たった奴がいまして……そいつに一日経ったらどこよりも早く情報を出させる為に早く出てこいと伝えたのに……ああっ昨日から全く連絡がつかない! あれだけ……言っておいたのにっ!」
「何時間の特番を用意したと思ってるんだ! どうするんだよ、今更普通の番組で数字が取れるわけねーだろ!」
どこかから怒声が飛んできた。カメラの前だということを忘れるぐらい興奮しているリポーターは、人の波に飲まれていった。
何か対策は無いのかと叫ぶ者たちの後ろから、低い音を響かせた大型トラックがゆっくりと走ってきた。まさかこれごとぶつかるつもりなのか。そんなもので突っ込んだら危ないんじゃと思ったけど、人々が避けた道をお構いなしに加速する。そしてそのまま門へ。トラックのぐちゃぐちゃになった姿を想像して思わず目を閉じた……が音は聞こえてこない。恐る恐る見てみると、車はボロボロになっていた。無人走行だったみたいだけど、煙が噴いて前方が潰された無残な姿はちょっと可哀想だ。そして門の方は一切傷がついていない。
そのまま画面を見ていると、パッと映像が切り替わった。総理の顔だ。
「あー……この放送は今、同時生中継している。中にいるのは日本人だけではないだろうから、各国にも向けての放送だ。民衆の為に私が立ち上がろう! 我々が勢力を上げ立ち向かうのだ! いま事態は一刻を争う。この遊園地には世界中から集められた五千人が閉じ込められている。遊園地側から返答がなければ、今すぐ取り壊しを行う!」
あまりの急展開に、息をするのも忘れていた。どうしてこんな事態になっているんだ。そういえばこの遊園地ができることによって、他の娯楽施設が経営難になると予想されていた。その他にも様々な理由から目をつけられていたということは間違いない。遊園地側はあのサイト以外は無言を貫いていて、実際に何の情報も漏れていないということは、身分が上の人間でも関わることができなかったのだろう。
素性の知れない勝手な遊園地など開発を中止にさせれば良かったのに、騒ぎが大きすぎた。この状態で止めても暴動が起きるだけだろう。だったら始まってからだ。何かをやらかした後、徹底的に追い込んで破滅させる。その機会を狙っていたのではないか。
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