15 / 35
プロローグ 〜魔王の娘とモンスター育成〜
妹、スキルに目覚める
しおりを挟む次の日、朝目覚めた俺がリビングへと向かうと、ラビーニャが超高速でこちらへと走ってきた。
そしてそのまま、その両手で俺に抱き着いてくる。
寝起きの頭と、いつもよりも素早いその動きを、俺は避けることなどできることない。
その豊満な体と、女の子の臭いは、いくら妹だからと言って脳内に直接刺激を与える。
だから、咄嗟に俺は彼女の肩を掴んで引きはがした。
それでもラビーニャの興奮が止まることはなく、上気した頬と光った瞳が眼前へと迫ってくる。
「兄さん!」
「朝からどうした。近いぞ」
しかし、彼女は俺から離れようとしなかった。それどころから、とても驚くようなことを言うのだった。
「兄さん、なにやらスキルが発現したみたいなのですが」
「えっ」
「包丁を持つと体が勝手に動くのです。いつもよりも切れ味もよく感じます。なんていうんですかね、斬り方が手に取るようにわかるというのですか」
「包丁さばきに関する技能を持ったスキルか……。 料理人あたりか?」
「そうかもしれません、これで兄さんの胃袋もこれ以上にがっちり掴んで見せます」
そんなこんなで朝から大騒ぎしていると、それで目覚めてしまったのかセーラがひょっこりと顔を見せた。
「どういたしましたの?」
「いや、ラビーニャがスキルに目覚めたみたいなんだが」
「呪いが解けて、吸われていた魔力が体に馴染んだのですわね。――鑑定」
セーラはいつものように青い魔法陣を瞳に浮かべる。そして赤い瞳が彼女のことを見通す。
しかし、初めてスキルを身に着けたのだ、自分で確認する必要もあるだろう。
「セーラが見てくれているが、お前も頭の中に集中してみろ、スキルが浮かび上がってくるはずだ」
「えーと、こんな感じですか?」
「見えてきましたわ」
おそらく、ラビーニャのスキルを確認したのは二人とも同時だった。二つの唇は、またもや信じられないことを口にするのだった。
「「スキル<剣聖>」」
「剣聖!?」
剣聖と言えば、歴代の勇者パーティーにも必ずいるスキルである。それがこんな身内にいるなって……。
「レアスキル中のレアスキルじゃないか!」
「勇者パーティーにもいなかったと思っていたのですが、こんなところにいましたのね」
「兄さん、私、どうしましょう!?」
どうしましょうっていってもな。ちらりとセーラのほうを伺うと、鼻の穴をぷくぷくとさせ、何か言いたげにしていた。
だからその目を見ながら、俺は首をひねる。
「どうしましょうって言われてもな……」
「ふふ、決まっていますわ。そのスキルを使いこなした暁には、魔王軍ニュー四天王の座をラビーニャさんに!」
「いりませんわ」
即答であった。すべてを言い終える前に断っていた気がする。
セーラはラビーニャのそんな言葉を予想していなかったのか、驚きの声を上げる。
「えっ」
えっじゃなくて魔王軍の幹部とか人間なら普通嫌がるんだけどな。なんで快諾されると思っていたのかを教えてほしいくらいだ。
ラビーニャは頬をほんのりと染めて、こちらへと視線をよこす。少しもじもじとして見せるが、
そんな悪戯めいた仕草は俺をからかいたいだけだということを俺は心得ている。
彼女には残念なことなんだが。
「私は兄さんと一緒に入れたらそれでいいのですから、それ以上のことなんて求めないのです」
「で、でも四天王になればすごいのですわよ」
「いりません」
セーラはまだあきらめていないみたいだった。価値観の違いが根底にあるということを彼女はわかっていない。
根底にお嬢様的な観念があるのだろう。
だから、こんな具合になってしまう。
「あ、アレとかこれとかできるのですわよ」
「具体例が出てないぞ」
しどろもどろになり始めたころで俺は、セーラとラビーニャの会話に割って入る。
このままだと平行線を迎えそうなので、仕方のないことであった。
とりあえず、今日からの目標を俺は二人に与えることにした。
ラビーニャはいろいろとやることがあって退屈しないであろうが、セーラに関しては放っておいて魔法を使ってしまう可能性がある。
これ以上壊されては破壊に修復が追い付かなくなる。
「まぁ、自衛のためにもスキルは使いこなせた方がいいな」
「そうすれば兄さんの役に立てます?」
「立てる立てる」
「わたくしは役に立てない雑魚女……」
「誰もそんなこと言ってないから」
昨日から少し、セーラは自信を失っているみたいだった。
まぁ、自信満々に宣言しておいて盛大に魔法を失敗したのだから仕方のないことである。
同じ目にあったら俺だって自信を失うこと間違いないだろう。
と思っていたのだが、彼女はたくましかった。
瞳を輝かせた彼女は元気よくこちらへと近づいてくる。
「でしたら今日こそ、魔法でお手伝いを!」
「あーそれは今日はいいかな、あと近い」
「やっぱりいらない子なのですわ、しょせん血だけの女ですわ」
「ふっこれで兄さんの隣は私のものに……」
またもや収拾がつかなくなってきたので俺は手をぱんぱんと叩いた。
「とりあえずだ、今日のうちに訓練場を作るから、それが終わったら各々スキルの練習だ」
「兄さん、任せてください。私にかかればすぐに習得してみせます!」
「うぅ、わたくしも役に立ちたい……」
これ以上ここにいたらまた巻き込まれ枯れないな。とりあえずが機能の続きを行って体。
俺は逃げるように玄関を開けて、そこで待っていた魔物二匹に声をかける。
「というわけで、いくぞゴブたろう、ポチ太」
そして、昨日よろしくポチ太の背中に乗り、訓練場予定跡地へと向かうのだった。
***
作業は意外と早く終わった。
それは俺自身の慣れもあるのだろうが、それ以上にゴーレムからゴブリンに進化した彼らの作業速度が速くなっていたことが一番の理由だろう。
見栄えのしない殺風景な訓練場を見渡して、俺は額の汗をぬぐう。
「まぁ、こんな感じかな」
「そうですな、主様」
隣でゴブたろうと、その他牧場ゴブリンたちが頷く。さすがは同じスキルから生まれただけあって、動きがシンクロしていた。
「まぁ、魔物の訓練場だしな、そこまで本格的なものは作らなくていいだろう。」
適当な岩に、人や魔物を模した的、それに闘技場的なフィールドを用意して、それで終わりである。
あとは必要に応じて拡張していけば問題ないだろう。
種族によって欲しいものとかは違ってくるしな。
俺がうんうんと頷いていると、ゴブたろうは牙の生えた口をにたりとゆがめて見せる。
「でしたら、一つ、われわれと手合わせはいかがですか? 見たところ、少しストレスが溜まっているようですし」
「あー、確かにっていうと怒られそうだ」
「ですから、ここで一つ、暴れていくのはどうでしょう。それにゴーレムから進化した我々の力もお目に入れて差し上げます」
ゴーレムの時でも、多少の魔物ならば対処できていた。
だとすれば進化した今、彼らはどれだけの力を手にしているのだろうか。そんなことを純粋に気に合っている自分がいた。
だけれども、自分のスキルと戦うというのも少しむなしい気がする。
「比べる対象が戦闘スキルのない俺ってのもな」
「ふふ、畜産スキルの進化具合もきっと気づかれることでしょう」
しかし俺とは反対に彼らはやる気満々のようにみえた。
どうやら、暴れたいのは彼らも同じらしい。どうやら俺の感情の一部を共有しているみたいだった。さすがはスキルである。
俺は地面に置いていた木の棒を手に取り、一、二回振って見せる。
「……そこまで言うのなら、お前らに甘えることにするよ」
そう言うと、彼らも又、各々に棒を握り、簡単に構えをとる。
「では、参りますぞ」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
解体の勇者の成り上がり冒険譚
無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される
とあるところに勇者6人のパーティがいました
剛剣の勇者
静寂の勇者
城砦の勇者
火炎の勇者
御門の勇者
解体の勇者
最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。
ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします
本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした
そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります
そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。
そうして彼は自分の力で前を歩きだす。
祝!書籍化!
感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる