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プロローグ 〜魔王の娘とモンスター育成〜

無能冒険者、鑑定する

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 俺は周りの魔物たちを見まわして考えた。必要なものは何だろうかと。
 まずは食料、そして宿舎だった。

「とりあえず、魔物舎は欲しいな」
「主様、訓練場の方も欲しいです」

 ゴブリンが手を挙げてそう言った。それに合わせてセーラも頷いてみせる。
 よく見たらセーラとゴブリンだけじゃなく魔物たち全員がキラキラした瞳でこちらを見つめていた。

「訓練場? お前らも訓練をするのか?」
「当り前ですわ、魔王の配下たるもの日々の訓練が大事ですわ。 それに訓練をすることで魔物たちの士気も高まりますし、普段の不満もそこで発散できますわ」
「なるほどね」
「わふっ」

 最後にポチ太が高く鳴いた。俺はいつから魔王になったのか、それに突っ込みたかったが、今は後回しだ。
 それよりも、色々と作業を決めないといけないな。
 効率よく、最低限のものは今日中にでも用意しておきたい。
 なので、俺はポチ太を撫でながら指示を出す。

「そうだな、お前は家畜たちを見張っててくれ」
「わふっ!」

 そして同じように撫でてほしそうな鳥がこちらにすり寄ってきたので、俺は片手間に撫でながら語りかける。

「あー、極楽鳥はその辺でなんかしていいよ」

 そう言うと、極楽鳥はいつものように牧場の中を闊歩しに行くのだった。
 うむ、きちんと魔物配下となってからも自由な存在だ。

 それを追いかけるようにポチ太も仕事へと。残ったゴブリン達がこちらを仰いでいた。
「……それでは我々は、魔物舎と訓練場の建設でいいでしょうか?」
「いや、一体は飼料作りに回ってくれ。 モンスター用の飼料はちゃんと作ってないからな」
「わかりました、すぐに作業に当たらせます」
 極楽鳥は普通に家畜用のものを一緒に食べていたが、この際きちんと分けてもいいだろう。
 いつも喋っているゴブリンがちらりと一匹を見ると、そいつは倉庫のほうへと向かっていった。

 そして四匹と二人だけが家の前に残っていた。
 さてと、どの場所に魔物舎を建設するか……。

 そう悩んでいると、最後にセーラがこちらを伺った。

「……それでは、わたくしは?」
「セーラは休憩だ。 病み上がりだろ? 一応」

 そう言うと、彼女は胸を張る。
 しかし、その慎ましやかなその体系ではあまり迫力が出ていなかった。

「わたくしだってできることだってありますのよ」
「例えば?」
「そうですわね――――――そうですわね……」
「とりあえず、それを考えるのも含めて休んでいろ」

 自分に何ができるのか、それを知ることは難しい。
 スキルという概念があるものの、それを役立てられるかどうかはその人しだいだ。
 魔王城から出ていなかったと言っていた彼女が戸惑うのも無理はない。

「ウォレンは何をするのかしら?」
「そうだな、ゴブリンたちを手伝ってくるよ」

 そう言って、俺は頭の中で図面を引く。と言っても大まかな場所とイメージだけでしかないのだが。
 そして驚いたのは、そのイメージがゴブリンたちと共有できるということだった。
 まぁ、ゴーレムが変化したものだしな。その時できることは変わらずにできるということなのだろう。

 俺のその予測は間違いはなく、ゴブリンたちはゴーレムの時と変わらなく働いていた。いや、それ以上に効率が上がっているようだった。
 そのおかげか、四体と一人という少ない人数ながらも、魔物舎を一日で完成することができた。掘っ立て小屋みたいなものだが、これから拡張していけばいいだろう。

「とりあえず、これくらいにして今日は休むか」

 藁の寝床と給水スペース、簡単なしきりに屋根。出来栄えはあまりよくないが、これで管理していけるだろう。
 まぁ、魔物なんて普段外で寝ているのだから最悪外で寝ても問題ないだろう。

 そして、俺たちが家へと引き返そうとしていた時だった。
 セーラがこちらに走りながらやってくる。

 お団子を作ってそこから垂らしたツインテールと、赤い髪は遠くから見ても特徴的なのですぐにわかった。
 そして、近くにまでやってきた彼女は息を切らしながら、うれしそうな表情を浮かべる。

「ウォレン! 見つかったわよっ! わたくしのできること!」
「お、こっちも今作業終わったところだぞ」
「わたくし考えましたの。 魔術を使って建築資材を運んだりとか!」
「……その作業、全部終わったんだ」

 嬉しそうに話す彼女に対して、俺はそう苦々しい言葉を話すしかなかった。
 セーラの表情が一気に青くなる。
 彼女の仕事を残しておくべきだったか……。

「え? もう建ちましたの?」
「あぁ、ゴブリンが頑張ってくれたからな」
「は、早すぎません?」

 そう言われるも、俺は首をひねる。
 確かにゴーレムの時よりも早かったが、そこまで早かったとは言えないな。
 ゴーレムなら最低人数でずっと働かせばいいわけだし、結局的には明日の朝には完成していただろう。

「こんなものだろ」
「じゃ、じゃあわたくしは……」

 仕事がなし、ということになるな。
 だけれども、それを面と向かって言うほどに俺は残酷ではない。

「休むのが仕事ってことだ」
「あ、明日は……」
「明日は訓練場を作る、だから」
「その時に手伝えばいいわね!」
「そういうことだ」

 彼女の頬が髪の毛と一緒のように赤に染まる。
 どうやら頼られるのがうれしいみたいだった。おそらく、大切に育てられたのだろう。それこそ、箱入りに育てられ、危険に合わせないように――――――

 だから、きっとこういった状況にワクワクを感じているのだ。
 彼女はしたり顔で微笑んで見せる。 
「任せてくださいまし、魔王の娘の力を見せてあげますわ」

 彼女の笑顔は眩しく、魔王の娘なんてそんなことは一切感じさせないのだった。

 俺はセーラとゴブリンと一緒に、牧場から帰還するのだった。
 家への扉を開くと、そこにはエプロン姿のラビーニャが待ち構えていた。

「おかえりなさい、兄さん。 今日もご苦労様でした。 何にいたしますか? 食事? お風呂? それとも――」

 そんなことを言いながらこちらへ駆け寄ってくるので、俺はさらりと身をかわす。
 後ろを見ると、俺の代わりにゴブリンが彼女に抱き着かれていた。
 そんな光景を見て、呆れながらもセーラが妹に尋ねる。

「もう体調はいいんですの?」
「えぇ、もうすっかり完全回復です。 嘘みたいに体が軽いのです」

 ラビーニャは嬉しそうに跳ねて見せた。
 彼女が飛ぶのと、同じタイミングで色々なところが揺れるので目に良いような悪いような……。
 本当に、妹を一人で街に送り出すのが怖くて仕方ない。

 ラビーニャが無理しているかもしれないのが気になったのだろう、セーラはその赤の瞳に青の魔法陣を宿らせる。
「――鑑定アナライズッ!」

 そのスキルは相手のすべてを見通せると言う。
 それを隠す術をラビーニャが持ち合わせているはずもなかった。

「どうだ、鑑定結果は?」
「本当に回復してますわね……、一週間ぐらいかかると思っていましたのですが」

 彼女は驚きとともに声を漏らす。それに俺も同じ気持ちを抱きながらも、こういわずにはいられない。

「さすがは俺の自慢の妹だな」
「そ、そんな私を食べたいだなんて、それでは奥の私の部屋に……」

 ふむ、我が妹は変に解釈したみたいだな。
 奥には調理場はあるが、俺に食人の気はないのだ。そもそも、何でそんな解釈になる。

 またもやこちらへと彼女は駆け寄ってくるので、俺は新たなる生贄を彼女に差し出すのだった。

「ちょっとウォレン、わたくしを身代わりにするなんてひどいですわ!」
「それはそうと、お前はいつまでついてくるつもりだ?」

 彼女たちを玄関に置いてけぼりにした俺は後ろを歩く一人のゴブリンに声をかけた。
 ほかのゴブリンたちは牧場の警護や、家畜の世話に当たっている。
 だけれども、このゴブリンは喋れるうえについてくるのだった。

 そのゴブリンはしたり顔でこんなことを言って見せる。
「我は主様の剣であり、盾でありますぞ。 どこでもお供いたします」
「……わかったよ、俺のスキルに文句を言っても仕方ないか」

 おそらく、強く命令したらそうしてくれるのだろうが、試したいこともあるしついてこさせておくか。

「召喚獣のようなものと思ってくだされ、われわれゴブリン共は主様から恩恵を受け取っているので不眠不休で働けます」
「で、名前はあるのか?」
「名前なんて我にはもったいなさすぎますぞ」

 いや、個体別に判別できなければ不便なところも出てくるだろう。

「いや、そんなことはないだろう。 そうだな、ゴブリンだからな」
「ちょ、ウォレン、待って!」
「ゴブたろうはどうだ?」

 追いついたセーラが何か叫んでいるのもつかの間に俺はゴブリンのリーダ―に名前を授けた。そして、鑑定のスキルを発動している彼女は、その様子を見て、不思議そうに首をひねるのだった。
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