ENDLESS SUMMER

茉莉 佳

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29日目

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“ピピピッ ピピピッ ピピピッ…”

 遠くでアラームが鳴り、また新しい一週間がはじまった。
まるで先週と同じ、毎日の繰り返し。
俺は夏の暑い日々を、機械的に消化しているだけだった。
ただ、唯一の生き甲斐は、恋人の仁科ありさと過ごしている時。
その時だけは、俺は生きている喜びを噛みしめられる。
水曜日のテニスクラブの後、ありさの部屋に寄って愛し合い、日曜のデートの約束をする。

「わたし、買い物に行きたいな。式の準備とか新居の準備とか、いろいろあるでしょ。今から少しずつ見ておきたいし」

日曜日は天神で待ち合わせて、その後ショッピング。
イタリアンレストランで昼食をとり、夕方にはありさの部屋に行き、飽きる事なく彼女を求め、彼女からも求められる。

そしてまた新しい一週間が、同じ様に過ぎていき、次の一週間が過ぎていき………

さすがに俺は、なにかがおかしいと感じはじめた。



『わたし、買い物に行きたいな。式の準備とか新居の準備とか、いろいろあるでしょ。今から少しずつ見ておきたいし』

ありさがそう言い出して、もう4週間近く経っている。
なのに一向に、買い物は進んでいない。
日曜日に会っても、いつもいつも天神周辺や博多駅ビルのショップを、ブラブラ回っているだけだ。
そう言えばお昼もいつも、駅ビルのイタリアンだ。

『ほんと、美味しい! さすが稜哉さんの選んだお店ね』

いつもそう言って、ありさははじめてそのレストランに来たかの様に、嬉しそうに食べている。
それだけじゃない。

『今度、稜哉さんの実家に連れていってね』

と言いながら、俺達はいつまで経ってもお互いの実家に、挨拶に行こうとしてないじゃないか。
なにかおかしい。

そもそも、一向に秋の気配がしないってのは、どういうことだ?
少なくとも8月に入って4週間以上たっているはず。
ふつうなら、朝晩は少しは暑さもやわらぐはずなのに、焼ける様に暑い日々が、いまだにずっと続いていて、毎日毎日、受付嬢の篠崎陽菜に、『今日も暑いなぁ~』と声をかけているのだ。
それに、会社の様子だって、なんだかおかしい。

『よう葛西。おまえ来週からの盆休みはどうする?』

出勤の度、同僚の村井はそう言って話しかけてくるが、俺の答えはいつも同じだ。

『まだ考えてないけど、ありさの実家に行かないといけないかも。おまえはどうするんだ?』
『嫁に催促されてぶどう狩りにでも行こうと思うけど、実家に聞いてくれたか?』
『あ、いや。今度聞いとくよ。すまん』
『別にいいって。ヒマな時にでも頼むな』

最初にこの話題を出して、もう4週間。
盆休みなんかとっくの昔に終わっているはずなのに、俺達はいつもこの会話を繰り返している。同じ話しばかりしているのだ。
俺はお盆の間、なにをしてたんだ?
盆休みの記憶が、すっかり消え去っている。
…というより、盆休みが、来てない?

どうして今まで、俺はそれに気づかなかったんだろう?
気づこうとしなかったんだろう?

いくら、毎日なにも考えずに忙しく過ごしているといっても、そのくらい普通に生活していれば、当然わかる事だ。

それになんだ?
この妙な入道雲は。
毎日朝早くから、天にまで届きそうなくらい大きな入道雲が、この街を押し潰すかの様に湧き上がっている。
多少形は変わるものの、入道雲は夕方になっても消えない。

入道雲…

真夏の積乱雲は、地表の湿った空気が熱せられ、上昇気流が発生してできるもので、巨大なものは気温が上がる午後に多く発生するはず。しかも激しい対流で、どんどん形が変わっていくはずじゃないのか?
一日中ずっと変わらない積乱雲って、なにかおかしい。

つづく
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