Campus91

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
247 / 300
18 Rip Stick ~After side

Rip Stick 26

しおりを挟む
「みっこ、大丈夫かな?
もう少し側にいてやった方が、よかったかもしれないな。
顔にアザができてたけど、仕事には差し支えないかな?」

まだ人通りのほとんどない、白く霞んだ肌寒い朝の街を『フェスティバ』で走りながら、川島祐二はずっと、森田美湖のことを気にかけていて、助手席のわたしに彼女の話ばかりしていた。

「川島君、どうやってみっこを見つけたの?」
「森の側を通りかかったとき、かすかに争うような声が聞こえたんだよ。みっこをあの森のなかで見つけたときは、ふたりの男ともみ合っているところで、押し倒されて服を破かれながらも、必死で抵抗していたんだ」
「…どうやって撃退したの? ふたりもの男を」
「そこらへんの棒切れを振りかざして、『やめろっ!』って後ろからぶん殴ったんだよ。不意をつかれたみたいで、ふたりともびっくりして、あわてて逃げていったよ。まあ、ぼくも必死だったから」
「勇気あるのね」
「そりゃ、みっこがあんな目にあってるのを見れば、だれでもそうするだろ」
「…そう。かもね」
「あと、みっこの名誉のために言っておくけど、ほんとに未遂だったんだよ。もう少し遅かったら危なかったけど、間に合ってよかった」
「…ふ~ん」

なにが『みっこの名誉のため』よ。
『みっこは池に落ちた』って、川島君はみんなを誤魔化そうとしたけど、『未遂だった』ってのも、嘘かもしれない。
みっこのあのショック具合は、やられたとしか思えない。
わたしにまで、嘘をついて…
どうしてそんなに、みっこをかばうの?
そんなにみっこが大事なの?

そりゃ、襲われているのを助けたのは、立派で、素晴らしいことだとは思う。
みっこも本当に気の毒で、なにかできることがあるのなら、わたしも力になってあげたいと思う。
だけど、昨夜からの川島君を見ていると、みっこを守ることばかりに懸命で、わたしのことなんて、これっぽっちも気に留めてくれていない。
ふたりキスして、そのあとだって、みっこにべったりくっついていて。
そんな光景を見せられて、わたしだって傷ついているというのに…
なんだか、不愉快。

「藤村さんとも話したんだけど、いちばんマズいのは、スキャンダルになることだと思うんだよ。こういう話って、たとえ未遂に終わったことでも、噂に尾ひれがついて、ひどい話になっていくからな」
「…」
「みっこのこれからのためにも、それは防がなきゃいけないだろ」
「…」
「幸い、みっこも軽い怪我だけですんだし、このことを知っているのは、ぼくたちと藤村さんと星川先生だけだ。それなら、だれにも知られないですむはずだよ」
「…」
「さつきちゃんも、絶対人に言うんじゃないよ」
「…」
「いいかい?」
「…」
「さつきちゃん。どうしたんだ?」

川島君の話になにも応えず、助手席で黙んまりをきめているわたしを、ようやくおかしいと気づいたのか、川島君は訝しげにわたしを見た。

「さつきちゃん。どうして黙ってるんだ?」
「…」
「さつきちゃん?」
「…」
「なんとか言いなよ」
「…」
「さつきちゃん!」
「川島君… みっこにはやさしいのね」
「え? そりゃ、さつきちゃんの親友だし、こういうときはだれだって、そうするだろ」

皮肉っぽい口調でそう言ったのに、川島君は全然それに気づいていない。
わたしはますますイライラしてきた。

「嘘!」
「え? どうして?」
「…」
川島君の問いには答えず、口をとがらせて、わたしは昨夜のことを振り返る。
確かに、みっこのことは助けてあげないといけないとは思うけど、ふつう、男の人がただの友だちの女の子に、あそこまでする?
みっこの身づくろいをしてあげたり、破れたストッキングを脱がせてあげたり、キスをしたり…
そして…

「川島君。みっこのマンションも、部屋も… 知ってるのね」
「あ…」

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...