Campus91

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
217 / 300
17 しあわせの作り方

しあわせの作り方 8

しおりを挟む
「…あたしが、好きなのは…」
「え?」
「あたしが好きなのは………   文哉さん」

消え入りそうな声で、みっこは告白した。

…意外。
あれほどかたくなに口を閉ざしていたみっこだったのに。
しかも相手は、予想どおりというか、望んだとおりというか…
とにかく、川島君じゃなかった。

「文哉さんって… 藤村文哉さん?」
「ええ」
「プロデューサーの?」
「そう」
「藤村さんって…」
「そう。結婚してる。だから… さつきにも言いづらかったの」
「わたし… モルディブで、みっこと藤村さんが、夜、外にいるのを見たわ」
「えっ?!」
わたしの言葉にみっこは目を丸くして、大袈裟な反応を見せた。
「実は最後の夜、わたしと川島君も夜の海で泳いでいて、わたしたちが帰るとき、藤村さんとみっこがホテルから出てくるのが、遠くからチラッと見えたのよ」
彼女の過敏な反応から、見たことを全部話してしまうのはやっぱりまずいと思い、適当にボカしておく。
「そ、そう…」
濡れ場を見られていなかったことに安堵したのか、彼女はほっと胸を撫で下ろした。わたしはカマをかけてみた。
「あのあと、みっこと藤村さんは、どこかに行ったの?」
「ええ… その辺でちょっとおしゃべりして、しばらくふたりで、夜の海を見てたの」
「それだけ?」
「ええ」
「ふ~ん…」

ちょっとショック。
みっこはわたしに、嘘をついた。

確かに厳密には、それは『嘘』とは違うかもしれない。
彼女お得意の、『嘘をついてるわけじゃないけど、ほんとのことも言ってない』っていう、はぐらし方。
そりゃあ、『藤村さんと夜の海を見てエッチした』なんて、言いづらいのはわかるけど、わたしたちは『親友』なんだから、彼女の口から、本当のことを打ち明けてほしかった。
なんとなく、奥歯にものがはさまったようなじれったさが残り、わたしの口調も辛辣になってくる。

「これから、みっこは藤村さんと、どうするつもり?」
「前にも言ったわ。『見込みはない』って」
「みっこはそれでいいの?」
「よくはないけど…」
「じゃあ、奪っちゃえば? 『恋と戦争は手段を選ばない』なんていうじゃない」
「相手のひとの気持ちを考えると、そんなこと、できない」
「どうしてそんなに、いい子ぶるの?」
「そんな… いい子ぶってるわけじゃないわ」
「だったら、そんな八方塞がりの恋なんて、もうやめちゃえばいいのに。不毛じゃない」
「不毛だなんて… ひどい!」
「素直な感想言っただけよ。男なんていくらでもいるんだから、さっさと新しい恋探せばいいのよ。みっこならできると思うけどな」

その言葉で火がついたように、みっこは口をとがらせる。
「そんな簡単に言わないでよ。そうできるんだったら、あたしだってそうしたいわよ!」
感情をたかぶらせ、切羽詰まった顔で、彼女は一気に話しはじめた。

「そうしたいわよ! でもダメ。理性とはうらはらに、彼のこと、どんどん好きになっちゃって。
手に入れられない人だって… 入れちゃいけない人だって思うと、逆に想いが募ってきて、苦しいのよ。
会う度に、伝えたくなるこの気持ちを呑み込んで、胸がつかえて苦しくて、泣き出してしまいそうになるのを必死に抑えて、ふつうに接しているしかないのよ。
いっしょにどこかに行っても、いっしょになにかをしていても、ずっと相手のひとの影を、彼のとなりにどうしても見ちゃって、申し訳ない気持ちと、罪悪感でいっぱいになって、何度も『もう会うまい』って心に決めるんだけど、それでも会えない苦しさの方が辛くて、他のなにでもその気持ちは埋められないのよ。
どうしようもないの。
どうしようもないのよ!」

溜まりに溜まった心のつかえを一気に出し終えると、みっこはその場にしゃがみ込み、ひざに顔を埋めて肩を震わせた。

「…」
わたしは黙ったまま、しゃがみこんでいるみっこの側に、立っていた。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【完結】失恋した者同士で傷を舐め合っていただけの筈だったのに…

ハリエニシダ・レン
恋愛
同じ日に失恋した彼と慰めあった。一人じゃ耐えられなかったから。その場限りのことだと思っていたのに、関係は続いてーー ※第一話だけふわふわしてます。 後半は溺愛ラブコメ。 ◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎ ホット入りしたのが嬉しかったので、オマケに狭山くんの話を追加しました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...