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17 しあわせの作り方
しあわせの作り方 3
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でもそれはわたしにとって、『どうでもいいこと』なんかじゃない。
わたしにはないものをみんな持っているみっこと川島君が、わたしの見ていない所で、ふたりっきりで会っているのは、とっても不安。
そもそも、わたしになにも言わずにふたりで連絡をとること自体、もうわたしなんか必要じゃないんだって、思ってしまう。
みっこにしても、『川島君からモデルに誘われた』って、ひと言あってもよさそうなものなのに、なんにも言ってくれなかった。
そんなんじゃ、わたしはふたりを疑うしかないじゃない。
ふたりにとってわたしはもう、いらない存在。
邪魔な存在…
ううん。
そんな風に、悲観的になっちゃいけない。
川島君はわたしのことを『好き』だと言ってくれるし、みっこだって『ずっと、友だちでいようね』って言ってくれる。
その言葉を糧に、わたしは自分の嫉妬心と卑屈さを、なんとか抑え込んでいくしかなかった。
朝からケーキを作りはじめたのも、そんなせめぎあう気持ちを、少しでも紛らそうと思って。
昨日おとといと、いろんなことが重なりすぎて、今はなにも考えたくない。
鬱々とした気持ちとはうらはらに、スポンジケーキは会心の出来。オーブンレンジから出すと、均一にふっくら綺麗に焼き上がっていて、ちょっと嬉しくなる。
どんなケーキにしようかな。
とりあえずスポンジを焼いてはみたものの、衝動的に作りはじめたので、なにをトッピングするかまでは、まったく考えてなかった。
今さらチョコレートケーキなんてできないし、それだったらいろいろバリエーションを作れる、タルト生地にしとけばよかったかも。
「タルトか…」
そう言えば、去年の秋。
わたしがまだ、川島君と再会したばかりの頃、みっことはじめて恋話をしたのは、『森のしらべ』だったな。
あのときわたしは『タルトモンブラン』を頼んで、みっこは『ティラミス』を注文した。
『そういえばあたしね。学校の帰りに喫茶店とかケーキ屋さんに、友達と寄っておしゃべりするのに、ずっと憧れてたの』
みっこは意味ありげに、そんなことを言ってたな。
その頃のわたしは、まだ彼女のことをよく知らなかったから、こんなに綺麗な女の子にどうして彼氏や友だちがいないんだろうと、不思議でならなかった。
あの頃はそうやって、みっこと少しずつ仲良くなっていくのが、とっても嬉しかった。
彼女のことも、いろいろと推理して、その華やかな容姿の裏側にある、ほんとの森田美湖を見つけようと、やっきになってたっけ。
こうしてると、いろいろ思い出してしまう。
去年の秋は、本当にいろんなことがあったな。
今振り返ってみると、み~んな、いい思い出。
あれは…
去年の10月はじめ、九州文化センターでの小説講座がはじまった、最初の日だった。
高校時代に好きだった川島君と、帰りの本屋で偶然再会して、『紅茶貴族』でお茶しながら、はじめてふたりっきりで、ゆっくりと話したんだった。
それまで、男の人とまともに話したこともなかったわたしには、はじめてのできごとばかりで、家に帰り着くまで、足がふわふわと宙に浮いているほど、夢見心地なひとときだった。
それからは、川島君とは少しずつ親しくなっていって、彼が主催している同人誌にも参加することになったっけ。
だけど、川島君と後輩の蘭恵美さんがつきあっていると誤解していたわたしは、同人誌の仲間に彼女がいることに動揺してしまって、お互いのちょっとした気持ちのすれ違いから、ふたりの仲がぎくしゃくしてしまい、もう二度と会わない決心までしたことあったっけ。
川島君に電話をかけて、別れを伝えたあと、みっこと夕方の港を歩いて、元気づけてもらったこともあった。
あのときみっこが、ささやくように歌ってくれた『元気をだして』が、耳を澄ませば、今でも聴こえてくるような気さえする。
つづく
わたしにはないものをみんな持っているみっこと川島君が、わたしの見ていない所で、ふたりっきりで会っているのは、とっても不安。
そもそも、わたしになにも言わずにふたりで連絡をとること自体、もうわたしなんか必要じゃないんだって、思ってしまう。
みっこにしても、『川島君からモデルに誘われた』って、ひと言あってもよさそうなものなのに、なんにも言ってくれなかった。
そんなんじゃ、わたしはふたりを疑うしかないじゃない。
ふたりにとってわたしはもう、いらない存在。
邪魔な存在…
ううん。
そんな風に、悲観的になっちゃいけない。
川島君はわたしのことを『好き』だと言ってくれるし、みっこだって『ずっと、友だちでいようね』って言ってくれる。
その言葉を糧に、わたしは自分の嫉妬心と卑屈さを、なんとか抑え込んでいくしかなかった。
朝からケーキを作りはじめたのも、そんなせめぎあう気持ちを、少しでも紛らそうと思って。
昨日おとといと、いろんなことが重なりすぎて、今はなにも考えたくない。
鬱々とした気持ちとはうらはらに、スポンジケーキは会心の出来。オーブンレンジから出すと、均一にふっくら綺麗に焼き上がっていて、ちょっと嬉しくなる。
どんなケーキにしようかな。
とりあえずスポンジを焼いてはみたものの、衝動的に作りはじめたので、なにをトッピングするかまでは、まったく考えてなかった。
今さらチョコレートケーキなんてできないし、それだったらいろいろバリエーションを作れる、タルト生地にしとけばよかったかも。
「タルトか…」
そう言えば、去年の秋。
わたしがまだ、川島君と再会したばかりの頃、みっことはじめて恋話をしたのは、『森のしらべ』だったな。
あのときわたしは『タルトモンブラン』を頼んで、みっこは『ティラミス』を注文した。
『そういえばあたしね。学校の帰りに喫茶店とかケーキ屋さんに、友達と寄っておしゃべりするのに、ずっと憧れてたの』
みっこは意味ありげに、そんなことを言ってたな。
その頃のわたしは、まだ彼女のことをよく知らなかったから、こんなに綺麗な女の子にどうして彼氏や友だちがいないんだろうと、不思議でならなかった。
あの頃はそうやって、みっこと少しずつ仲良くなっていくのが、とっても嬉しかった。
彼女のことも、いろいろと推理して、その華やかな容姿の裏側にある、ほんとの森田美湖を見つけようと、やっきになってたっけ。
こうしてると、いろいろ思い出してしまう。
去年の秋は、本当にいろんなことがあったな。
今振り返ってみると、み~んな、いい思い出。
あれは…
去年の10月はじめ、九州文化センターでの小説講座がはじまった、最初の日だった。
高校時代に好きだった川島君と、帰りの本屋で偶然再会して、『紅茶貴族』でお茶しながら、はじめてふたりっきりで、ゆっくりと話したんだった。
それまで、男の人とまともに話したこともなかったわたしには、はじめてのできごとばかりで、家に帰り着くまで、足がふわふわと宙に浮いているほど、夢見心地なひとときだった。
それからは、川島君とは少しずつ親しくなっていって、彼が主催している同人誌にも参加することになったっけ。
だけど、川島君と後輩の蘭恵美さんがつきあっていると誤解していたわたしは、同人誌の仲間に彼女がいることに動揺してしまって、お互いのちょっとした気持ちのすれ違いから、ふたりの仲がぎくしゃくしてしまい、もう二度と会わない決心までしたことあったっけ。
川島君に電話をかけて、別れを伝えたあと、みっこと夕方の港を歩いて、元気づけてもらったこともあった。
あのときみっこが、ささやくように歌ってくれた『元気をだして』が、耳を澄ませば、今でも聴こえてくるような気さえする。
つづく
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