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16 Double Game
Double Game 10
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「…ごめんな」
石垣の続く家の角を曲がって、うちの明かりが見えてきた所で、川島君がぽつりと言った。
「ぼくの言い方が悪かったよ。さつきちゃんが真剣に、小説書きに取り組んでるってのは、すごくよくわかってるさ。それに、ぼくの言葉を全部まともに受け止めるってのも」
「…川島君」
「こんな気持ちのままじゃ、あと味悪過ぎて、帰れないよ」
そう言いながら、川島君はわたしの手をつないで、指をからめてくる。なんだか、ほっとするあたたかさ。
「来週末の3日は文化祭だろ? 今年こそはさつきちゃんとたくさん回って、9月に約束したように、あの丘の上のもみの木に行こうな」
そう言いながら、川島君は明るく笑う。
川島君、気持ちの切り替えが早い。
わたしはまだ、さっきまでの会話を引きずって、うじうじと悩んでいるっていうのに、もうこんなに明るく話ができる。そのメンタルの強さが羨ましい。
そう言えばみっこもこんな風に、感情のコントロールが上手だったな。
いつか、川島君の恋愛相談で不穏な空気になったときも、『ごめん』って先にあやまってくれて、場を取り繕ってくれた。
わたしって、ふたりに対して、いつも甘えてばかり。
いつでも意地を張って、自分から謝ったりできない。
こんなんじゃ、ほんとにいつか、愛想尽かされてしまうわよね。
川島君にもみっこにも。
「…わたしこそ、ごめんね」
からめている指をギュッと握り返しながら、わたしはつぶやいた。
「わたし、意地っ張りで… 今度の小説コンクールで川島君に負けたのが、とってもショックだったの。プライドがボロボロになっちゃった」
「わかるよ。自分の得意なもので負けるのって、ダメージくらうよな」
「ん。すごい落ち込んじゃって」
歩きながら川島君はわたしの肩を抱いて、自分の方へ寄せる。
「ぼくだってもう何度も、カメラマンになるのを諦めかけたことがあるよ。小説書きなんて、先の長い仕事じゃないか。一度や二度のつまづきでめげてちゃ、疲れるばかりだよ。地道に書き続けていれば、きっといいことがあるさ。頑張れよ。ずっと応援してるから」
「…うん」
「さつきちゃんのこと、好きだよ」
「…ん」
そう言いながら、家の前で別れ際、川島君はわたしをぎゅっと、抱きしめてくれた。
やっぱり川島君、やさしい。
このやさしさは、『本物』だって思える。
彼のこの暖かさがあるから、わたしは頑張っていける気がする。
よかった。
今夜、ちゃんと仲直りができて。
つきあいはじめの頃より、今はいろいろあって、川島君とケンカすることもあるけど、こうやってお互い、相手のことを思いやっていれば、ちゃんとうまくやっていけるわよね。
そう言えば去年、『Moulin Rouge』で、川島君は言ってたな。
『お互いが相手のことを思いやってさえいれば、ターニング・ポイントなんて、来やしないよ』
って。
わたしはその言葉を信じている。
キスのあと、わたしは心の中で、『好き』とつぶやいた。
だけどその翌日、小説コンクールのショックも冷めないうちに、まるで追い打ちをかけるように、もっとショックなできごとが起きてしまった。
わたしはこの二日間のことを、きっと一生忘れないだろう。
つづく
石垣の続く家の角を曲がって、うちの明かりが見えてきた所で、川島君がぽつりと言った。
「ぼくの言い方が悪かったよ。さつきちゃんが真剣に、小説書きに取り組んでるってのは、すごくよくわかってるさ。それに、ぼくの言葉を全部まともに受け止めるってのも」
「…川島君」
「こんな気持ちのままじゃ、あと味悪過ぎて、帰れないよ」
そう言いながら、川島君はわたしの手をつないで、指をからめてくる。なんだか、ほっとするあたたかさ。
「来週末の3日は文化祭だろ? 今年こそはさつきちゃんとたくさん回って、9月に約束したように、あの丘の上のもみの木に行こうな」
そう言いながら、川島君は明るく笑う。
川島君、気持ちの切り替えが早い。
わたしはまだ、さっきまでの会話を引きずって、うじうじと悩んでいるっていうのに、もうこんなに明るく話ができる。そのメンタルの強さが羨ましい。
そう言えばみっこもこんな風に、感情のコントロールが上手だったな。
いつか、川島君の恋愛相談で不穏な空気になったときも、『ごめん』って先にあやまってくれて、場を取り繕ってくれた。
わたしって、ふたりに対して、いつも甘えてばかり。
いつでも意地を張って、自分から謝ったりできない。
こんなんじゃ、ほんとにいつか、愛想尽かされてしまうわよね。
川島君にもみっこにも。
「…わたしこそ、ごめんね」
からめている指をギュッと握り返しながら、わたしはつぶやいた。
「わたし、意地っ張りで… 今度の小説コンクールで川島君に負けたのが、とってもショックだったの。プライドがボロボロになっちゃった」
「わかるよ。自分の得意なもので負けるのって、ダメージくらうよな」
「ん。すごい落ち込んじゃって」
歩きながら川島君はわたしの肩を抱いて、自分の方へ寄せる。
「ぼくだってもう何度も、カメラマンになるのを諦めかけたことがあるよ。小説書きなんて、先の長い仕事じゃないか。一度や二度のつまづきでめげてちゃ、疲れるばかりだよ。地道に書き続けていれば、きっといいことがあるさ。頑張れよ。ずっと応援してるから」
「…うん」
「さつきちゃんのこと、好きだよ」
「…ん」
そう言いながら、家の前で別れ際、川島君はわたしをぎゅっと、抱きしめてくれた。
やっぱり川島君、やさしい。
このやさしさは、『本物』だって思える。
彼のこの暖かさがあるから、わたしは頑張っていける気がする。
よかった。
今夜、ちゃんと仲直りができて。
つきあいはじめの頃より、今はいろいろあって、川島君とケンカすることもあるけど、こうやってお互い、相手のことを思いやっていれば、ちゃんとうまくやっていけるわよね。
そう言えば去年、『Moulin Rouge』で、川島君は言ってたな。
『お互いが相手のことを思いやってさえいれば、ターニング・ポイントなんて、来やしないよ』
って。
わたしはその言葉を信じている。
キスのあと、わたしは心の中で、『好き』とつぶやいた。
だけどその翌日、小説コンクールのショックも冷めないうちに、まるで追い打ちをかけるように、もっとショックなできごとが起きてしまった。
わたしはこの二日間のことを、きっと一生忘れないだろう。
つづく
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