200 / 300
16 Double Game
Double Game 5
しおりを挟む「もうすぐ文化祭かぁ」
衣装合わせが終わり、アリーナでのリハーサルまでは少し時間があったので、わたしとみっこはいつものカフェテリアで、暇をつぶしていた。
『午後の紅茶』を飲みながら、みっこはテーブルに肘をついて窓の外の紅葉を眺め、感慨深げに言う。
「あれから一年、か…」
「去年、みっこが小池さんのモデルを断ってから、一年よね」
「…あの頃はあたし『絶対モデルなんかやらない!』って、意地になってたから」
「去年の秋は、ほんとにいろんなことがあったわね~」
「そうね。あたしにも… さつきにも」
「うん…」
「さつきは去年の今頃、『川島君とはもう会わない』って大騒ぎしてたわね」
「ううっ。それを言わないでよ。恥ずかしいじゃない」
「ふふ。まあ、いいじゃない。そういうのを乗り越えて、今はこうしてラブラブなんだから」
「ラブラブ、かぁ…」
「なにか、不満でもあるの?」
わたしがため息つくのを見て、みっこは訝しげに訊く。
「う、ううん。別に…」
「そう。ならいいけど…」
「でも、最近は川島君、卒業制作とかで忙しくて、あまりデートできてないの」
「そうなの?」
「うん」
「川島君、もうすぐ卒業だしね。就職活動とかで、忙しいんでしょうね」
「…みたい」
「これからみんな、どうなるのかなぁ…」
みっこはちょっと憂いのある表情で、窓の外の夕暮れを見ながら、ひとりごとのようにつぶやいた。
「そう言えば、最近はみっこもすっかり忙しくなっちゃって、学校にもあまり出てこなくなったね」
「そうね」
「モデルの仕事、大変なんでしょ?」
「ええ。週に二日くらいは東京に戻ってるし、向こうのアクターズスクールにも通ってるし、忙しくって、目が回りそうよ」
「でも、ちゃんと学校に来ないと、卒業できないわよ」
「…ん。そうね」
みっこはそう言いながら、『午後の紅茶』をコクンと一口飲み、なにかの想いに耽るかのように、しばらく黙った。
「実は… そのことであたし、考えてることがあるの」
しばらく間を置いて、みっこは切り出した。
「なにを?」
「…まだ、話せる段階じゃないけど…」
「いいじゃない。言ってよ」
わたしの言葉に目を伏せながら、みっこは迷うようにつぶやく。
「そう… もう少し自分で考えて、相談した方がいいかも…
ショーが終わるまでは慌ただしいし、そんなに急ぐことでもないから、文化祭が終わって、ゆっくりしたときに話すね。
他にもいろいろ、話したいこと… ううん。話しておかなきゃいけないこともあるし…」
「…話しておかなきゃいけないこと?」
「…ええ」
みっこはそう答えて、視線を窓の外に移す。
釣られてわたしも、外の景色を見ながら考えた。
みっこの『話しておかなきゃいけないこと』って、なんだろ?
窓の外のキャンパスには、色とりどりに着飾った女子大生たちが、行き交っている。
その中で、数人の女の子が黄金色の銀杏の樹の下に立って、なにごとかささやきながら、チラチラとこちらを見ている。
そう言えば最近、そういう女の子が増えたな。
モルディブで撮った、森田美湖のアルディア化粧品サマーキャンペーンCMが、巷で注目を浴び、彼女の出演してるコマーシャルや広告が、ブラウン管や街角、雑誌のページを華やかに飾るようになってくると、学校のみんなのみっこに対する反応も、微妙になってきた。
学校に雑誌のインタビューやカメラマンが来たりすると、女の子たちはみっこのことを、遠くから指さして噂話をし、なかにはサインを求めにやってくる子もいる。
いっしょに講義を受けている女の子たちにも、みっこがモデルをやってることは、すっかり知れ渡ってしまい、今まで気安く話しかけてきていた子が、近寄り難そうに遠巻きにしていたり、話したこともなかった子が、やけに馴れ馴れしく近寄ってきたりと、みっこのまわりもなんだかギクシャクしてきた感じ。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
【完結】失恋した者同士で傷を舐め合っていただけの筈だったのに…
ハリエニシダ・レン
恋愛
同じ日に失恋した彼と慰めあった。一人じゃ耐えられなかったから。その場限りのことだと思っていたのに、関係は続いてーー
※第一話だけふわふわしてます。
後半は溺愛ラブコメ。
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ホット入りしたのが嬉しかったので、オマケに狭山くんの話を追加しました。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる