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13 Rainy Resort
Rainy Resort 10
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わたしが短足のドタ足で、バタバタとコートの中を走っているのを見て、川島君はどう思っているだろう?
どうひいき目に見たって、みっこの方がカッコいいし、魅かれるに決まっている。
実際、となりのコートでプレイしていたカップルの男性は、さっきからチラチラとみっこを横目で追っている。そのうち彼女がそれに気づいて、彼氏にペシッと平手打ちを食わせてしまった。
自分の彼女を放ったらかして見つめてしまうくらい、みっこがプレイしている姿って、魅力あるんだ。
とたんに気分が萎えて、わたしは走るのをやめた。
「どうしたんだい? さつきちゃん」
そばで跳ねたボールを見送ったわたしを見て、川島君は訝しげに訊ねる。
「うん… ちょっと、疲れちゃって… わたし、少し休んでいい?」
そう言ってわたしはコートから出てベンチに座り、タオルを頭からかぶった。川島君は一瞬、『どうしようか』という顔をしたが、すぐにみっこを見て言った。
「じゃあ、みっこちゃん。試合しようか? ワンセット・マッチ」
「いいけど…」
そう答えながら、みっこはわたしをチラッと振り返る。
わたしを放ったらかして自分だけ川島君と楽しむのは、律儀なみっことしては、気が引けるのかもしれない。
ほんとはわたしも、川島君とみっこが楽しそうにテニスをする姿を端から見るのは、あまりいい気はしないけど、今回の旅行はみっこのためなので、わがままばかりも言ってられない。
「わかった。じゃ、わたし審判するね!」
努めて明るく振る舞い、わたしはジャッジ台に上がった。
みっこと川島君は実力が伯仲していて、なかなかいい試合を展開した。
パワーはもちろん川島君の方が上だけど、みっこは正確なストロークをコーナーに散らして、川島君をさんざん走らせ、ミスを誘う。試合は6-3で、かろうじて川島君が勝った。
「いやぁ。みっこちゃんはうまいよ。もうこっちは走らされてばかりでクタクタ。汗びっしょりだよ」
「川島君こそ、やっぱり男の人ね。サーブなんか速くて、とても手が出なかったわ」
コートをはさんでふたりは握手し、ベンチに戻ってタオルで汗を拭った。
“ポツ ポツ…”
そのとき、厚く立ちこめた薄暗い雲から、とうとう雨粒が落ちはじめてきた。
「降りだしたな。しかたない。ペンションに戻ろう」
そう言った川島君は急いで、ベンチに出していたタオルやラケットをバッグにしまう。雨はどんどん勢いを増していき、霧のカーテンのように白く、あたりの景色を包み込んでいった。
こうして残念なことに、わたしたちのバカンスの後半は、ペンションの中で過ごすことになった。
「なんか残念ね~。せっかくのバカンスなのに」
「まあ、いいわよ。湯布院とか九重とか、見たかったところは昨日行ったし、雨の九重を温泉から眺めるなんてのも、風情があっていいんじゃない?」
リビングルームのソファーに座って、窓の外の雨景色を見ているわたしに、みっこはそう言い、鞄からお風呂セットを取り出す。
「テニスして汗かいちゃったから、温泉につかりたいわ。さつきと川島君も行かない?」
「そうね。行こか」
「混浴かな」
「いいわよ。テニスに勝ったご褒美に、あたしが背中を流してあげる」
川島君のジョークに、みっこは笑いながら応えた。
「え? みっこちゃん、冗談だろ?」
「もちろん冗談よ。そんなことしちゃ、さつきに怒られるしね」
「あはは、みっこ。またそんなことを…」
軽く流したわたしだったけど、ほんのちょっぴり、心に引っかかるものが残った。
『わたしが怒らなかったら、みっこは川島君に、そうしてあげてもいい』
って思ってるのかな、なんて…
つづく
どうひいき目に見たって、みっこの方がカッコいいし、魅かれるに決まっている。
実際、となりのコートでプレイしていたカップルの男性は、さっきからチラチラとみっこを横目で追っている。そのうち彼女がそれに気づいて、彼氏にペシッと平手打ちを食わせてしまった。
自分の彼女を放ったらかして見つめてしまうくらい、みっこがプレイしている姿って、魅力あるんだ。
とたんに気分が萎えて、わたしは走るのをやめた。
「どうしたんだい? さつきちゃん」
そばで跳ねたボールを見送ったわたしを見て、川島君は訝しげに訊ねる。
「うん… ちょっと、疲れちゃって… わたし、少し休んでいい?」
そう言ってわたしはコートから出てベンチに座り、タオルを頭からかぶった。川島君は一瞬、『どうしようか』という顔をしたが、すぐにみっこを見て言った。
「じゃあ、みっこちゃん。試合しようか? ワンセット・マッチ」
「いいけど…」
そう答えながら、みっこはわたしをチラッと振り返る。
わたしを放ったらかして自分だけ川島君と楽しむのは、律儀なみっことしては、気が引けるのかもしれない。
ほんとはわたしも、川島君とみっこが楽しそうにテニスをする姿を端から見るのは、あまりいい気はしないけど、今回の旅行はみっこのためなので、わがままばかりも言ってられない。
「わかった。じゃ、わたし審判するね!」
努めて明るく振る舞い、わたしはジャッジ台に上がった。
みっこと川島君は実力が伯仲していて、なかなかいい試合を展開した。
パワーはもちろん川島君の方が上だけど、みっこは正確なストロークをコーナーに散らして、川島君をさんざん走らせ、ミスを誘う。試合は6-3で、かろうじて川島君が勝った。
「いやぁ。みっこちゃんはうまいよ。もうこっちは走らされてばかりでクタクタ。汗びっしょりだよ」
「川島君こそ、やっぱり男の人ね。サーブなんか速くて、とても手が出なかったわ」
コートをはさんでふたりは握手し、ベンチに戻ってタオルで汗を拭った。
“ポツ ポツ…”
そのとき、厚く立ちこめた薄暗い雲から、とうとう雨粒が落ちはじめてきた。
「降りだしたな。しかたない。ペンションに戻ろう」
そう言った川島君は急いで、ベンチに出していたタオルやラケットをバッグにしまう。雨はどんどん勢いを増していき、霧のカーテンのように白く、あたりの景色を包み込んでいった。
こうして残念なことに、わたしたちのバカンスの後半は、ペンションの中で過ごすことになった。
「なんか残念ね~。せっかくのバカンスなのに」
「まあ、いいわよ。湯布院とか九重とか、見たかったところは昨日行ったし、雨の九重を温泉から眺めるなんてのも、風情があっていいんじゃない?」
リビングルームのソファーに座って、窓の外の雨景色を見ているわたしに、みっこはそう言い、鞄からお風呂セットを取り出す。
「テニスして汗かいちゃったから、温泉につかりたいわ。さつきと川島君も行かない?」
「そうね。行こか」
「混浴かな」
「いいわよ。テニスに勝ったご褒美に、あたしが背中を流してあげる」
川島君のジョークに、みっこは笑いながら応えた。
「え? みっこちゃん、冗談だろ?」
「もちろん冗談よ。そんなことしちゃ、さつきに怒られるしね」
「あはは、みっこ。またそんなことを…」
軽く流したわたしだったけど、ほんのちょっぴり、心に引っかかるものが残った。
『わたしが怒らなかったら、みっこは川島君に、そうしてあげてもいい』
って思ってるのかな、なんて…
つづく
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