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08 講義室の王女たち
講義室の王女たち 8
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「あ。さつきっ」
わたしを見つけてみっこは手を振ったが、となりの中原さんに気がつき、『おや?』という風に小首をかしげた。
「みっこ、彼女は中原由貴さん。さっきの講義でいっしょになったの」
「中原由貴さんね? よろしくね」
みっこは愛想よく微笑みかける。それを見て中原さんも安心したのか、『よろしくお願いします、森田さん』と挨拶すると、テーブルを挟んでみっこの向かいの席に腰をおろし、いきなり本題を切り出してきた。
「わたし、美術部に入ってて、絵画とか、イラストとか描いているんです。あ。これなんですけど…」
そう言って彼女は、手に持っていた大きなバッグから、A3サイズのクリアファイルを取り出して、みっこの前に広げた。
「わぁ。素敵なイラストね~! ねえ、見て見てさつき!」
彼女の絵を見ながら、みっこは感心したように言った。
「わぁ~」
「かわいぃ」
ミキちゃんやナオミもみっこの横からのぞき込んで、歓声をあげる。
中原さんの絵は、絵画もコミックイラストも、ふんわりと優しい色使いで、口に入れるととろける色とりどりの砂糖菓子のような、甘い儚さを漂わせていた。
『みっこが理想』と言っていたように、甘美な官能の中にたゆたう美少女は、どことなく森田美湖に似ている気もする。
絵の技術や画材のことなんてわからないけど、中原さんの描く絵は、魅力的で好感が持てる。みっこも魅せられるように、ページをめくっていった。
「あれ? この絵の女の子…」
そう言って、みっこはページをめくる手を止めて首をかしげた。
それはバレエの衣装を纏った美少女のイラストだった。彼女の言葉に、中原さんはポッと頬を染める。
「それ、実は森田さんをモデルにして描いたイラストなんです」
「え?」
みっこは不思議そうに中原さんを見つめる。彼女はバッグの中からもう一冊、クリアファイルを取り出しながら言った。
「実はわたし、ポーズやイメージの資料に、雑誌の切り抜きとかパンフレットとか、たくさん集めてて、その絵はこの写真を参考にして描いたんです」
クリアファイルのページをめくりながら、彼女は付箋を貼っているページを開く。
チュチュ姿でバレエのポーズをとっている美少女が、そこにはファイルされていた。
えっ?
この美少女って。
もしかして…
「うっそ~おっ。これ、みこちゃん?」
最初に叫んだのはナオミだった。
そう。
まぎれもなく、その印刷物に写っている美少女は、森田美湖だった。
印刷物の中の彼女は、まだ小学校低学年で、レオタードとチュチュ姿で、鏡の前でバレエのポーズをとる姿は、ふわふわしていて透明感があって、ため息が出るほど綺麗。
鏡越しこちらを見つめる瞳も、今と変わらないくらい魅力的で、それこそ天使のような無垢な微笑みを浮かべていた。
写真のはしには企業のキャッチコピーが入っているから、それがなにかの広告の切り抜きだというのはわかった。
「森田さんの写真、わたし偶然切り抜きしてて。他にもあるんですよ」
そう言いながら、中原さんは付箋のついたファイルのページをめくる。化粧品会社や銀行、保険会社と、いろんな表情をしたみっこが、次々と現れた。
わたし、知らなかった。
みっこは実際に、もうこんなに、たくさんのモデルの仕事をこなしていたなんて。
「奇跡です。森田さんはわたしが好きだったモデルさんなんです。それがまさか、同じ大学に通っていて、こうして実際に会えるなんて。あまりの偶然に、わたしほんとにびっくりして、感動しました」
赤い頬をさらに染めて、中原さんは言葉に力を込める。
「…ありがとう」
視線をクリアファイルの自分の写真に落としながら、みっこはひとこと言い、なにかに思いを巡らせるように、瞳を伏せて沈黙した。
「それで… わたし、次に描くイラストに、よかったら森田さんに、モデルしてもらえないかなって思って…」
「ごめんなさい。遠慮しておくわ」
つづく
わたしを見つけてみっこは手を振ったが、となりの中原さんに気がつき、『おや?』という風に小首をかしげた。
「みっこ、彼女は中原由貴さん。さっきの講義でいっしょになったの」
「中原由貴さんね? よろしくね」
みっこは愛想よく微笑みかける。それを見て中原さんも安心したのか、『よろしくお願いします、森田さん』と挨拶すると、テーブルを挟んでみっこの向かいの席に腰をおろし、いきなり本題を切り出してきた。
「わたし、美術部に入ってて、絵画とか、イラストとか描いているんです。あ。これなんですけど…」
そう言って彼女は、手に持っていた大きなバッグから、A3サイズのクリアファイルを取り出して、みっこの前に広げた。
「わぁ。素敵なイラストね~! ねえ、見て見てさつき!」
彼女の絵を見ながら、みっこは感心したように言った。
「わぁ~」
「かわいぃ」
ミキちゃんやナオミもみっこの横からのぞき込んで、歓声をあげる。
中原さんの絵は、絵画もコミックイラストも、ふんわりと優しい色使いで、口に入れるととろける色とりどりの砂糖菓子のような、甘い儚さを漂わせていた。
『みっこが理想』と言っていたように、甘美な官能の中にたゆたう美少女は、どことなく森田美湖に似ている気もする。
絵の技術や画材のことなんてわからないけど、中原さんの描く絵は、魅力的で好感が持てる。みっこも魅せられるように、ページをめくっていった。
「あれ? この絵の女の子…」
そう言って、みっこはページをめくる手を止めて首をかしげた。
それはバレエの衣装を纏った美少女のイラストだった。彼女の言葉に、中原さんはポッと頬を染める。
「それ、実は森田さんをモデルにして描いたイラストなんです」
「え?」
みっこは不思議そうに中原さんを見つめる。彼女はバッグの中からもう一冊、クリアファイルを取り出しながら言った。
「実はわたし、ポーズやイメージの資料に、雑誌の切り抜きとかパンフレットとか、たくさん集めてて、その絵はこの写真を参考にして描いたんです」
クリアファイルのページをめくりながら、彼女は付箋を貼っているページを開く。
チュチュ姿でバレエのポーズをとっている美少女が、そこにはファイルされていた。
えっ?
この美少女って。
もしかして…
「うっそ~おっ。これ、みこちゃん?」
最初に叫んだのはナオミだった。
そう。
まぎれもなく、その印刷物に写っている美少女は、森田美湖だった。
印刷物の中の彼女は、まだ小学校低学年で、レオタードとチュチュ姿で、鏡の前でバレエのポーズをとる姿は、ふわふわしていて透明感があって、ため息が出るほど綺麗。
鏡越しこちらを見つめる瞳も、今と変わらないくらい魅力的で、それこそ天使のような無垢な微笑みを浮かべていた。
写真のはしには企業のキャッチコピーが入っているから、それがなにかの広告の切り抜きだというのはわかった。
「森田さんの写真、わたし偶然切り抜きしてて。他にもあるんですよ」
そう言いながら、中原さんは付箋のついたファイルのページをめくる。化粧品会社や銀行、保険会社と、いろんな表情をしたみっこが、次々と現れた。
わたし、知らなかった。
みっこは実際に、もうこんなに、たくさんのモデルの仕事をこなしていたなんて。
「奇跡です。森田さんはわたしが好きだったモデルさんなんです。それがまさか、同じ大学に通っていて、こうして実際に会えるなんて。あまりの偶然に、わたしほんとにびっくりして、感動しました」
赤い頬をさらに染めて、中原さんは言葉に力を込める。
「…ありがとう」
視線をクリアファイルの自分の写真に落としながら、みっこはひとこと言い、なにかに思いを巡らせるように、瞳を伏せて沈黙した。
「それで… わたし、次に描くイラストに、よかったら森田さんに、モデルしてもらえないかなって思って…」
「ごめんなさい。遠慮しておくわ」
つづく
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