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07 Carnival Night
Carnival Night 20
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「お願い。わたしから先に言わせて。わたし… 川島君が好き! ずっとずっと、好きだったの!」
「…さつきちゃん」
「わたし、傷つくのが怖かった。
川島君が好きな人がだれなのか、知るのが怖かった。
川島君が別のだれかを好きで、その人のことを優しく見るのを、目の当たりにするのがイヤだった。
だからサークルをやめるしかなかった。
お別れを言うしかなかった。
でもわたし、ずっと後悔してたの」
「…」
「わたし、逃げてた。
傷つく怖さに、川島君を好きな気持ちが勝てなかった。
わたしは臆病で、壁を越える勇気がなかった。
でも、もういい。
わたしにとって川島君は、だれよりも大切な人。
それだけを川島君に知っていてもらえれば、もう、それで… いい」
「…はぁ~~っ」
大きなため息をついて、川島君はわたしを思いっきり抱きしめた。
全身が彼のからだの中に包まれてしまう。
じんわりと伝わってくる、川島君の体温。
あったかい。
人の肌のぬくもりって。
好きな人の体温って。
どうしてこんなに安心できるんだろう。
わたしの髪をやさしく撫でながら、川島君は残念そうに言った。
「全部、先に言われてしまったな」
「え?」
「あの時もそうだった」
「あの時?」
「卒業式の日に、お互いのノートにサインしたの、覚えてる?」
「ええ」
「あの時、さつきちゃんと話がしたくて、ずっとひとりになるチャンスをねらってたけど、なかなかなくて。
でも下校寸前に、さつきちゃんが教室の奥の方にひとりでいるのを見つけて、声かけに行ったんだ」
「え?」
「高校の間は、ろくに話もしたことなかっただろ。だから最後くらい、ゆっくり話をしてみたかった」
「そうだったの?!」
「ああ。さつきちゃんのことは、ずっと気になる存在で、話をすることで、自分の気持ちを確かめてみたかったから」
「…」
「でも、ぼくが話しかける前に、さつきちゃんはいきなりサイン帳を差し出してきて。なんだかそれで、『もう終わったんだな』って、漠然と感じて…
『元気でね』って、握手するしかできなかった」
「…」
「思えばずっと、回り道ばかりしてきたよな」
「ごっ、ごめんなさい」
「いや。責めてるんじゃない。ぼくがグズなだけなんだ」
「川島君…」
「あの電話はショックだったけど、逆に一か八かの賭けに出る勇気をくれたよ。
…まあ、さつきちゃんに、先に言われてしまったけどね」
「…」
「ぼくからも、ちゃんと言わせてくれ」
「…」
「さつきちゃんのこと、好きだ」
「…」
「ぼくと、つきあってほしい」
そう言ってもう一度,川島君はわたしをぎゅっと抱きしめた。
夢にまで見て、ずっと待ちわびていたその言葉。
わたしは彼の胸に顔を埋め、ただうなずくだけだった。
カーニバルの夜は、終わらない。
END
22th Mar. 2011
30th May 2017
1st Oct.2017
30th Dec.2019
「…さつきちゃん」
「わたし、傷つくのが怖かった。
川島君が好きな人がだれなのか、知るのが怖かった。
川島君が別のだれかを好きで、その人のことを優しく見るのを、目の当たりにするのがイヤだった。
だからサークルをやめるしかなかった。
お別れを言うしかなかった。
でもわたし、ずっと後悔してたの」
「…」
「わたし、逃げてた。
傷つく怖さに、川島君を好きな気持ちが勝てなかった。
わたしは臆病で、壁を越える勇気がなかった。
でも、もういい。
わたしにとって川島君は、だれよりも大切な人。
それだけを川島君に知っていてもらえれば、もう、それで… いい」
「…はぁ~~っ」
大きなため息をついて、川島君はわたしを思いっきり抱きしめた。
全身が彼のからだの中に包まれてしまう。
じんわりと伝わってくる、川島君の体温。
あったかい。
人の肌のぬくもりって。
好きな人の体温って。
どうしてこんなに安心できるんだろう。
わたしの髪をやさしく撫でながら、川島君は残念そうに言った。
「全部、先に言われてしまったな」
「え?」
「あの時もそうだった」
「あの時?」
「卒業式の日に、お互いのノートにサインしたの、覚えてる?」
「ええ」
「あの時、さつきちゃんと話がしたくて、ずっとひとりになるチャンスをねらってたけど、なかなかなくて。
でも下校寸前に、さつきちゃんが教室の奥の方にひとりでいるのを見つけて、声かけに行ったんだ」
「え?」
「高校の間は、ろくに話もしたことなかっただろ。だから最後くらい、ゆっくり話をしてみたかった」
「そうだったの?!」
「ああ。さつきちゃんのことは、ずっと気になる存在で、話をすることで、自分の気持ちを確かめてみたかったから」
「…」
「でも、ぼくが話しかける前に、さつきちゃんはいきなりサイン帳を差し出してきて。なんだかそれで、『もう終わったんだな』って、漠然と感じて…
『元気でね』って、握手するしかできなかった」
「…」
「思えばずっと、回り道ばかりしてきたよな」
「ごっ、ごめんなさい」
「いや。責めてるんじゃない。ぼくがグズなだけなんだ」
「川島君…」
「あの電話はショックだったけど、逆に一か八かの賭けに出る勇気をくれたよ。
…まあ、さつきちゃんに、先に言われてしまったけどね」
「…」
「ぼくからも、ちゃんと言わせてくれ」
「…」
「さつきちゃんのこと、好きだ」
「…」
「ぼくと、つきあってほしい」
そう言ってもう一度,川島君はわたしをぎゅっと抱きしめた。
夢にまで見て、ずっと待ちわびていたその言葉。
わたしは彼の胸に顔を埋め、ただうなずくだけだった。
カーニバルの夜は、終わらない。
END
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