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06 元気を出して
元気を出して 3
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「あたし。そういう考え方… 好かないな」
「え…?」
その言葉に、つい、みっこの方を見上げる。
陽が沈んでいく水平線のかなたを、彼女はじっと見つめている。
少し厳しい横顔。きつく結んだ唇。
まるで咎めるような口調で、彼女は言った。
「だからサークルもやめちゃったの?
川島君にふられたって思ったから?
恋人になれないのなら、友達でもいられないってわけ?
それって、逃げてるだけじゃない。自分でもわかってるみたいだけど」
「ん… わかってる。
だけど、しかたないもん。わたし、これ以上、傷つきたくない」
「さつきは自分のこと、かばいすぎる。傷つくことを怖がってばかりじゃ、なんにも得られないんじゃないの?」
「わかってるわよ! そんなこと」
「…」
予期してなかった、みっこの厳しい言葉。
わたし、心の底では、みっこになぐさめてもらって、いっしょに泣いてもらうのを望んでた。
『そのうち、時が忘れさせてくれるよ』
なんていう、なま優しい言葉を…
でもみっこは、そんな甘い性格の子じゃない。わたしのこと、親身になって怒ってくれる。
だから、それが辛い。
「言い方きつくてごめん。
でも、さつき。はっきりふられたんじゃないなら、とりあえず、彼とつながるところにいた方が、いいんじゃない?
『川島君のことなんか忘れて、新しい恋を探したら?』って励ますのは簡単だけど、そんなにすぐには、気持ちの切り替えなんてできないじゃない。だったら、友だちとしてでも、近くにいる方がいいと思う。
そうすればあなたが想っている限り、いつかチャンスも巡ってくるかもしれない」
「みっこは厳しいことばかり注文するのね。逃げちゃいけないなんて、無理。
サークルにいっしょにいて、絵里香さんと川島君が仲良くしてるとこなんて、見ていれるわけない!
それこそいつかあなたが言ったように、そんなの『拷問』だわ。わたし、そんなに強くない」
「…」
「そりゃ… わたしだってそうしたい。友だちでいたい。
はじめて真剣に恋して、ふられて。それでも逃げちゃいけないなんて、みっこって、残酷すぎる…」
「ほんとに川島君を好きなら、そのくらいのプレミアムは、払った方がいいんじゃない?」
「プレミアム?」
「もしかして… 『恋愛の最終ページ』なんて、ないのかもしれない」
「最終ページ…」
「さつきと話してて、そう思ったの。恋の終止符って、そのときは打ったつもりでいても、心の奥にずっとくすぶってて、ちょっとしたことで甦えってくる。
本の最後みたいに、きちんと終わるものじゃない」
みっこはゆっくりした口調で、わたしに…
というよりは、まるで自分に言い聞かせるように、話しはじめた。
「ひとつの恋が一冊の本だとしたら、はじめての出逢いのページってのは、必ずあるわ。
そのあとにいろんなお話しがあって、泣いたり笑ったりして、ふたりのページを綴っていって…
でも、おしまいのページって、ない。
たとえ、その時ピリオド打ったつもりでも、続きはあるかもしれない。
それがどんなに『奇跡』に近くっても…」
「…」
「未来のことなんか、だれにもわかんない。あたしが… さつきが相手のこと想ってるうちは、ENDマークはつかない。奇跡を信じてもいいんだと思う」
「…」
「さつきはまだ、川島君のこと、好きなんでしょう?」
「…」
みっこの言葉に、黙ってうなずく。
せっかく止まっていた涙なのに、また溢れてきちゃいそう。
つづく
「え…?」
その言葉に、つい、みっこの方を見上げる。
陽が沈んでいく水平線のかなたを、彼女はじっと見つめている。
少し厳しい横顔。きつく結んだ唇。
まるで咎めるような口調で、彼女は言った。
「だからサークルもやめちゃったの?
川島君にふられたって思ったから?
恋人になれないのなら、友達でもいられないってわけ?
それって、逃げてるだけじゃない。自分でもわかってるみたいだけど」
「ん… わかってる。
だけど、しかたないもん。わたし、これ以上、傷つきたくない」
「さつきは自分のこと、かばいすぎる。傷つくことを怖がってばかりじゃ、なんにも得られないんじゃないの?」
「わかってるわよ! そんなこと」
「…」
予期してなかった、みっこの厳しい言葉。
わたし、心の底では、みっこになぐさめてもらって、いっしょに泣いてもらうのを望んでた。
『そのうち、時が忘れさせてくれるよ』
なんていう、なま優しい言葉を…
でもみっこは、そんな甘い性格の子じゃない。わたしのこと、親身になって怒ってくれる。
だから、それが辛い。
「言い方きつくてごめん。
でも、さつき。はっきりふられたんじゃないなら、とりあえず、彼とつながるところにいた方が、いいんじゃない?
『川島君のことなんか忘れて、新しい恋を探したら?』って励ますのは簡単だけど、そんなにすぐには、気持ちの切り替えなんてできないじゃない。だったら、友だちとしてでも、近くにいる方がいいと思う。
そうすればあなたが想っている限り、いつかチャンスも巡ってくるかもしれない」
「みっこは厳しいことばかり注文するのね。逃げちゃいけないなんて、無理。
サークルにいっしょにいて、絵里香さんと川島君が仲良くしてるとこなんて、見ていれるわけない!
それこそいつかあなたが言ったように、そんなの『拷問』だわ。わたし、そんなに強くない」
「…」
「そりゃ… わたしだってそうしたい。友だちでいたい。
はじめて真剣に恋して、ふられて。それでも逃げちゃいけないなんて、みっこって、残酷すぎる…」
「ほんとに川島君を好きなら、そのくらいのプレミアムは、払った方がいいんじゃない?」
「プレミアム?」
「もしかして… 『恋愛の最終ページ』なんて、ないのかもしれない」
「最終ページ…」
「さつきと話してて、そう思ったの。恋の終止符って、そのときは打ったつもりでいても、心の奥にずっとくすぶってて、ちょっとしたことで甦えってくる。
本の最後みたいに、きちんと終わるものじゃない」
みっこはゆっくりした口調で、わたしに…
というよりは、まるで自分に言い聞かせるように、話しはじめた。
「ひとつの恋が一冊の本だとしたら、はじめての出逢いのページってのは、必ずあるわ。
そのあとにいろんなお話しがあって、泣いたり笑ったりして、ふたりのページを綴っていって…
でも、おしまいのページって、ない。
たとえ、その時ピリオド打ったつもりでも、続きはあるかもしれない。
それがどんなに『奇跡』に近くっても…」
「…」
「未来のことなんか、だれにもわかんない。あたしが… さつきが相手のこと想ってるうちは、ENDマークはつかない。奇跡を信じてもいいんだと思う」
「…」
「さつきはまだ、川島君のこと、好きなんでしょう?」
「…」
みっこの言葉に、黙ってうなずく。
せっかく止まっていた涙なのに、また溢れてきちゃいそう。
つづく
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