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05 Love Affair
Love Affair 17
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「…そうだな」
気持ちを切り替えるように明るく応えたあと、川島君は言った。
「さつきちゃん。モデルしない?」
「え? モデル? わたしが?!」
あまりに唐突で、冗談か本気なのかわからない。
だけどそれは、蘭さんの代わりに、ってこと?
「わ、わたしなんか、可愛くないし、スタイルもよくないし。モデルなんて無理よ」
戸惑いながら応えるわたしに、川島君は笑顔で言う。
「そんなことないよ。さつきちゃん、可愛いって」
「でもやっぱり、無理」
「どうしても?」
「…うん」
「そう? なら、しかたないか」
そう言って、川島君は取り繕うように笑った。
それこそ、みっこが言っていたように、本当はわたし、川島君のモデルをやってもよかった。
こんな状況でお願いされたのじゃなかったら…
今、このタイミングで誘われるのって、なんだか『ついで』みたい。
それって、蘭さんより下に見られてるようで、かなり不愉快。
やっぱり川島君って、女心がわかってない。
なんだか初めて、この人に対して、軽い苛立ちを覚えた。
「どうしてもモデルがいるんだったら、友達紹介しようか?」
やり返すように、わたしは言った。
「友達?」
「モデル級の子がいるのよ」
「モデル級?」
「すっごい綺麗な子よ。蘭さんなんか比べものにならないくらい。顔もスタイルもとてもいいし、ポーズとるのだって上手いんだから。勝ち気でちょっとワガママだけど、律儀でいい子なの。川島君、ひと目で気に入るわよ」
「そうか。そんなにまで言うなら、今度会わせてほしいかな」
川島君は静かに言った。声のトーンがわずかに下がっている。
まずい。
売り言葉に買い言葉で言ってしまったけど、なんだか雰囲気が悪い方に流されている。
でも、今のわたしには、その流れを止められなかった。
「まぁ… 川島君に好きな人がいるのなら、その子を誘えばいいんじゃない? ポートレート撮影は疑似恋愛っていうし」
…どうしてわたし、追い打ちをかける様なことばかり、言ってしまうんだろ。
川島君はそれっきり、口を閉ざしてしまった。
「・・・はぁ」
おそろしく長い沈黙のあと、川島君は大通りの交差点の赤信号で歩みを止めた。
わたしを見ないまま、信号より遠くのどこかをじっと見つめ、大きなため息をつき、ポツリとつぶやいた。
「……好きな人。いるよ」
「えっ?」
思いもかけなかった言葉。
からだに冷たい戦慄が走り、わたしも立ちすくんで、川島君を見る。
ゆっくり振り返った川島君は、肩越しにじっと、わたしのことを見おろしている。
先週、『紅茶貴族』のテーブルで向けてくれた熱い瞳とは打って変わった、冷ややかな視線。
初めて見る。
彼のこんな、人を拒絶するような瞳。
夜の交差点は色とりどりの傘が行き交い、賑やかで喧噪に満ちていたが、わたしたちふたりの回りだけは、静かな闇に包まれているみたいだった。
「話しても、いいかな? その人のこと」
「えっ? う、うん。どうぞ…」
そう前置きした川島君は、ひとこと、言い放った。
「同級生」
「同…」
「いっしょのクラスになった時から気になっていたけど、その子のことを知るうちに、どんどん好きになっていった」
「…」
「最近は、ふたりっきりで喫茶店行ったり、よく話せる仲になってきたんだ」
「…それは、わたしの知ってる人?」
「言いたくない。『Sさん』ってしとこう」
「S、さん…」
「彼女もぼくに、だんだん打ち解けてきてはくれてたみたいだけど、どうやら恋愛感情はないらしい。
ただの友達としか思ってくれてない。
挙げ句の果てには、他の子がぼくとくっつくのに、協力してくれるんだってさ。完璧にぼくの片想いだろ。
さつきちゃん。どうしたらいいと思う?」
「どうしたらって…」
「そう… そんなこと聞かれても困るよな。全部自分の都合だし。もういいよ」
やめて。
せつなげなまなざしで、そんな風に言わないで。
どうしてわたしに、そんなこと話すの?
『もういいよ』
そんな言葉、わたし、聞きたくない。
川島君のこんな顔、見たくない。
こんな突き放されるような言葉、心臓が凍りつきそうなほど、怖い!
『川島君もさつきのこと、好きなんじゃないかな?』
とか、
『なんだかうまくいく気がしてる』
とか、
そんなみっこの台詞も、吹っ飛んでしまう。
川島君が好きな人…
同級生で…
いっしょに喫茶店行ったりしていて…
片想いで…
協力するって…
『Sさん』って!
専門学校の同級生の、志摩みさとさん…
沢水絵里香さんしか、当てはまらないじゃない!
つづく
気持ちを切り替えるように明るく応えたあと、川島君は言った。
「さつきちゃん。モデルしない?」
「え? モデル? わたしが?!」
あまりに唐突で、冗談か本気なのかわからない。
だけどそれは、蘭さんの代わりに、ってこと?
「わ、わたしなんか、可愛くないし、スタイルもよくないし。モデルなんて無理よ」
戸惑いながら応えるわたしに、川島君は笑顔で言う。
「そんなことないよ。さつきちゃん、可愛いって」
「でもやっぱり、無理」
「どうしても?」
「…うん」
「そう? なら、しかたないか」
そう言って、川島君は取り繕うように笑った。
それこそ、みっこが言っていたように、本当はわたし、川島君のモデルをやってもよかった。
こんな状況でお願いされたのじゃなかったら…
今、このタイミングで誘われるのって、なんだか『ついで』みたい。
それって、蘭さんより下に見られてるようで、かなり不愉快。
やっぱり川島君って、女心がわかってない。
なんだか初めて、この人に対して、軽い苛立ちを覚えた。
「どうしてもモデルがいるんだったら、友達紹介しようか?」
やり返すように、わたしは言った。
「友達?」
「モデル級の子がいるのよ」
「モデル級?」
「すっごい綺麗な子よ。蘭さんなんか比べものにならないくらい。顔もスタイルもとてもいいし、ポーズとるのだって上手いんだから。勝ち気でちょっとワガママだけど、律儀でいい子なの。川島君、ひと目で気に入るわよ」
「そうか。そんなにまで言うなら、今度会わせてほしいかな」
川島君は静かに言った。声のトーンがわずかに下がっている。
まずい。
売り言葉に買い言葉で言ってしまったけど、なんだか雰囲気が悪い方に流されている。
でも、今のわたしには、その流れを止められなかった。
「まぁ… 川島君に好きな人がいるのなら、その子を誘えばいいんじゃない? ポートレート撮影は疑似恋愛っていうし」
…どうしてわたし、追い打ちをかける様なことばかり、言ってしまうんだろ。
川島君はそれっきり、口を閉ざしてしまった。
「・・・はぁ」
おそろしく長い沈黙のあと、川島君は大通りの交差点の赤信号で歩みを止めた。
わたしを見ないまま、信号より遠くのどこかをじっと見つめ、大きなため息をつき、ポツリとつぶやいた。
「……好きな人。いるよ」
「えっ?」
思いもかけなかった言葉。
からだに冷たい戦慄が走り、わたしも立ちすくんで、川島君を見る。
ゆっくり振り返った川島君は、肩越しにじっと、わたしのことを見おろしている。
先週、『紅茶貴族』のテーブルで向けてくれた熱い瞳とは打って変わった、冷ややかな視線。
初めて見る。
彼のこんな、人を拒絶するような瞳。
夜の交差点は色とりどりの傘が行き交い、賑やかで喧噪に満ちていたが、わたしたちふたりの回りだけは、静かな闇に包まれているみたいだった。
「話しても、いいかな? その人のこと」
「えっ? う、うん。どうぞ…」
そう前置きした川島君は、ひとこと、言い放った。
「同級生」
「同…」
「いっしょのクラスになった時から気になっていたけど、その子のことを知るうちに、どんどん好きになっていった」
「…」
「最近は、ふたりっきりで喫茶店行ったり、よく話せる仲になってきたんだ」
「…それは、わたしの知ってる人?」
「言いたくない。『Sさん』ってしとこう」
「S、さん…」
「彼女もぼくに、だんだん打ち解けてきてはくれてたみたいだけど、どうやら恋愛感情はないらしい。
ただの友達としか思ってくれてない。
挙げ句の果てには、他の子がぼくとくっつくのに、協力してくれるんだってさ。完璧にぼくの片想いだろ。
さつきちゃん。どうしたらいいと思う?」
「どうしたらって…」
「そう… そんなこと聞かれても困るよな。全部自分の都合だし。もういいよ」
やめて。
せつなげなまなざしで、そんな風に言わないで。
どうしてわたしに、そんなこと話すの?
『もういいよ』
そんな言葉、わたし、聞きたくない。
川島君のこんな顔、見たくない。
こんな突き放されるような言葉、心臓が凍りつきそうなほど、怖い!
『川島君もさつきのこと、好きなんじゃないかな?』
とか、
『なんだかうまくいく気がしてる』
とか、
そんなみっこの台詞も、吹っ飛んでしまう。
川島君が好きな人…
同級生で…
いっしょに喫茶店行ったりしていて…
片想いで…
協力するって…
『Sさん』って!
専門学校の同級生の、志摩みさとさん…
沢水絵里香さんしか、当てはまらないじゃない!
つづく
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