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03 Sweet Memories
Sweet Memories 7
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川島君と相合傘で帰った下級生は、「蘭 恵美」って子だとわかった。
『あららぎ、えみ… さん』
心のなかで名前を呼ぶと、イヤでも、あのときの川島君の優しそうな表情が、目に浮かんでしまう。
蘭さんは、ほっそりとした色白の童顔で、瞳に色気のある、栗色の長く柔らかな猫っ毛がとっても可愛い、甘ったるい雰囲気の女の子だった。
川島君が入っている写真部の後輩で、最近急接近していたらしい。
「あの下級生、クラブでも川島君にそうとう色目使ってたんだって」
「彼女をモデルにして、写真撮ったりしてるらしいし」
「川島君が写真部に入ったのって、あの子がいたからじゃないの? ずっと目をつけてたのかもね」
「川島君も意外と女ったらしかもね~。彼女以外にもつきあってた人、何人もいたらしいじゃない」
「蘭さんって確かに可愛いけど、あんまりいい噂聞かないわね」
「男子の前じゃ、話し方がまったく違うって評判じゃない」
「クラスの女子からはあまり好かれてないんだって」
「ぶりっ子って、女子からは嫌われるよね~」
「でも、美味しい所をちゃっかりさらっていくのは、やっぱりああいうフェロモン系の美少女かぁ」
川島君のことはもう諦めたはずなのに…
そんな、嘘かほんとかもわからない噂話を聞かされる度に、気持ちはざわついた。
幸いなことに、学校はそれからすぐに自宅学習期間に入って、登校しなくていいようになり、川島君とも蘭恵美さんとも、顔を合わせることもなくなった。
そして、そのまま卒業式を迎え、川島君への恋はいつしか、『ほろ苦くても、いい思い出』に風化していった… はずだった。
「どうした? 弥生さん、なんだか元気ないな」
うつむいて黙りこくっていたわたしの顔を、川島君は訝しがるように覗き込む。
いけない。
わたしったら、昔の思い出に引きずられちゃってる。
今、この瞬間は、川島君がとなりにいるっていうのに。
「ちょっと… 卒業式のこと。思い出しちゃって」
そう言って取り繕う。
「卒業式か。あの日は式のあとでみんなでノートに、別れのメッセージのサインを交換したな」
「うん。わたしも、川島君にサインしてもらった」
うつむいたまま、わたしは応えた。
あのときだって、川島君に頼むのに、大変な勇気がいったんだから。
たくさんのクラスメイトの輪のなかにいた川島君に、わたしはなかなか近寄れなくて、ただ、遠くから見ているだけだった。
『失恋しちゃったけど、最後のけじめくらいつけたい』
そう思っていたものの、チャンスは来ない。
下校の時間が迫り、別れの時が近づくにつれて、わたしは焦ってきた。
そうしてるうちに、人の輪から離れて、川島君がこちらにやってくるのが見えた。
最後のチャンスだった。
「これ…」
心臓が激しく高鳴って息が詰まり、わたしはそれ以上言うことができず、黙ってサイン帳を差し出しただけだった。
そんなわたしを見て、川島君は驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔になって、自分のノートを差し出した。
「じゃあ… ぼくのにもサインして」
「川島君のノート。いいの?」
「ぜひ」
「…」
そう言って、わたしたちは黙ったまま、お互いのノートにサインしあった。
「…元気でね」
最後にひとことだけ言って、川島君は左手を差し出した。
『左手の握手は永遠の別れ』
そんな言葉を、わたしは思い出した。
『もう、会えないんだ』
そう思いながら、わたしは川島君の手を握り返した。
川島君はギュッと、ダンスのとき以上に力を込めた。
力強くて痛い… 高校時代の最後のい・た・み・・
つづく
『あららぎ、えみ… さん』
心のなかで名前を呼ぶと、イヤでも、あのときの川島君の優しそうな表情が、目に浮かんでしまう。
蘭さんは、ほっそりとした色白の童顔で、瞳に色気のある、栗色の長く柔らかな猫っ毛がとっても可愛い、甘ったるい雰囲気の女の子だった。
川島君が入っている写真部の後輩で、最近急接近していたらしい。
「あの下級生、クラブでも川島君にそうとう色目使ってたんだって」
「彼女をモデルにして、写真撮ったりしてるらしいし」
「川島君が写真部に入ったのって、あの子がいたからじゃないの? ずっと目をつけてたのかもね」
「川島君も意外と女ったらしかもね~。彼女以外にもつきあってた人、何人もいたらしいじゃない」
「蘭さんって確かに可愛いけど、あんまりいい噂聞かないわね」
「男子の前じゃ、話し方がまったく違うって評判じゃない」
「クラスの女子からはあまり好かれてないんだって」
「ぶりっ子って、女子からは嫌われるよね~」
「でも、美味しい所をちゃっかりさらっていくのは、やっぱりああいうフェロモン系の美少女かぁ」
川島君のことはもう諦めたはずなのに…
そんな、嘘かほんとかもわからない噂話を聞かされる度に、気持ちはざわついた。
幸いなことに、学校はそれからすぐに自宅学習期間に入って、登校しなくていいようになり、川島君とも蘭恵美さんとも、顔を合わせることもなくなった。
そして、そのまま卒業式を迎え、川島君への恋はいつしか、『ほろ苦くても、いい思い出』に風化していった… はずだった。
「どうした? 弥生さん、なんだか元気ないな」
うつむいて黙りこくっていたわたしの顔を、川島君は訝しがるように覗き込む。
いけない。
わたしったら、昔の思い出に引きずられちゃってる。
今、この瞬間は、川島君がとなりにいるっていうのに。
「ちょっと… 卒業式のこと。思い出しちゃって」
そう言って取り繕う。
「卒業式か。あの日は式のあとでみんなでノートに、別れのメッセージのサインを交換したな」
「うん。わたしも、川島君にサインしてもらった」
うつむいたまま、わたしは応えた。
あのときだって、川島君に頼むのに、大変な勇気がいったんだから。
たくさんのクラスメイトの輪のなかにいた川島君に、わたしはなかなか近寄れなくて、ただ、遠くから見ているだけだった。
『失恋しちゃったけど、最後のけじめくらいつけたい』
そう思っていたものの、チャンスは来ない。
下校の時間が迫り、別れの時が近づくにつれて、わたしは焦ってきた。
そうしてるうちに、人の輪から離れて、川島君がこちらにやってくるのが見えた。
最後のチャンスだった。
「これ…」
心臓が激しく高鳴って息が詰まり、わたしはそれ以上言うことができず、黙ってサイン帳を差し出しただけだった。
そんなわたしを見て、川島君は驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔になって、自分のノートを差し出した。
「じゃあ… ぼくのにもサインして」
「川島君のノート。いいの?」
「ぜひ」
「…」
そう言って、わたしたちは黙ったまま、お互いのノートにサインしあった。
「…元気でね」
最後にひとことだけ言って、川島君は左手を差し出した。
『左手の握手は永遠の別れ』
そんな言葉を、わたしは思い出した。
『もう、会えないんだ』
そう思いながら、わたしは川島君の手を握り返した。
川島君はギュッと、ダンスのとき以上に力を込めた。
力強くて痛い… 高校時代の最後のい・た・み・・
つづく
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