Campus91

茉莉 佳

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01 PERKY JEAN

PERKY JEAN 3

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 みっこはしばらく帰ってこなかった。

「遅かったじゃない。どうしたの?」
15分くらい経って、ようやく2本の缶ジュースを携えて戻ってきたみっこに、わたしは訊いた。
「うん。ちょっと、つまずいちゃって…」
「なにに?」
「ただのゴミ箱」
「?」
はて。
ごみ箱につまずいて遅くなったって言うの?
なにか変。

「それよりお昼にしない? あたしおなかすいちゃった。向こうに海の家みたいなのとかあったけど、なにか食べにいく?」
「まあ、みっこ、待っててよ」
わたしは得意げに、自分のバッグから包みを取り出し、みっこの前に広げる。中には、早起きして作ったサンドイッチ。
「さつき。持ってきてたんだ」
「みっこの分も作っといたのよ。食べてみてよ」
「え? ありがと。いただくわ」
嬉しそうにみっこはサンドイッチをほおばり、ニッコリ微笑む。
「…ん。おいしい! さつきって料理うまいんだ」
「まかせなさい」
「お嫁にほしいな~」
そう言ってみっこは笑う。天真爛漫な笑顔。入学式のときの、あの、厳しくて重苦しい表情が、嘘みたい。
あれはわたしの思い違いだったのかなぁ。

こんなに明るくて華やかな彼女とは、いっしょにいると楽しい。
みっこと知り合えてよかった。
少しわがままで、自分の思い通りに自信を持って生きてるみたいで、たまに引きずられることもあるけど、この子といると毎日が新鮮で、ウキウキしてくる。
彼女とはずっと、友達でいたい。
『女は友情より恋愛の方が大事』だなんていうけど、彼女との友情は、ずっと大切にしていきたい。
わたしはまだ、恋人のいる楽しさなんて知らない。
もちろん、男の人には興味はあるし、高校の頃好きだった人もいる。
結局、告白なんてする勇気もなく、その人とは卒業と同時に会えなくなってしまった。
今どき、内気で彼氏も作れない女の子なんて、天然記念物ものかもしれないけど、気のおけない友達といっしょにいる方が、今はずっと楽しいと思う。

だけど…
みっこはきっと、彼氏いるよね。
彼女とはまだ、そういう深い話はしたことないけど、こんなに綺麗な女の子を、回りの男の人たちが放っておくはずがない。
きっと、恋愛経験豊富なんだろな。

みっこにとってわたしって、どういう存在なんだろう?

気の置けない親友?
まだ、出会って3ヶ月程度だし、深い話もしたことないし、それはないか。
じゃあ…
大学で知り合って、ちょっと仲良くなって、海に遊びに行く程度の、たくさんの取り巻きの中の、ひとり…
多分、そんなところだろう。

なんだかせつない。
片思いの友情って。
わたしはこんなに、彼女に好意を持っているのに、みっこはわたしのこと、たいして気にもとめていないとしたら…
『恋愛的な友情は恋愛よりも美しいが有毒だ。それは傷をつくり、その傷を手当てしないからだ』
という、なにかの本で読んだ言葉が、脳裏をよぎる、
それなら、わたしとみっこの場合、傷つくのはいつもわたし。
…って、わたしはみっこに『恋愛的』なものを抱いてるわけ?

「わ、わたし… ちょっと紅茶買ってくる」

なに、つまんないこと考えているんだろ。
もやもやした気分を吹っ切るように、わたしはその場から離れた。

 海の家の近くにある自動販売機の前に立ち、コインを手にしたまま、わたしはまだ、さっきのとりとめのない気持ちを整理していた。
そのときだった。
「オレがおごってやるよ」
突然、人影で光がさえぎられたかと思うと、自販機がガチャガチャ動いて、わたしの目の前にいきなり缶コーヒーが差し出された。
「え?」
反射的に受け取って振り返る。そこには大学生風の男の人がふたり立っていた。
声をかけてきた方は、背が高くて、サングラスをかけたキザで怖そうな人。もうひとりは頬にニキビがいっぱいあって、ちょっとイモっぽい。わたし、サングラスって、相手の目が見えないから、怖くて好きになれない。
「な、なんですか?」
平静を装ったものの、ドキドキしてうまくしゃべれない。

『ナンパだ!』

友達の話では聞いたことあるけど、自分が経験するのってはじめて。
あんまり好みのタイプでもないし、なんだか不良っぽいし、無視した方がいいかなとは思うけど、断って怒らせたりしたら、やっぱりまずいよね。
いったいどうすれば…

つづく
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