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酒井亜希子。
通称『あっこ』。
上原高校1年2組。
硬式テニス部所属。
身長159cm 体重46kg。
座高85cm、B85cm(D)、W58cm、H86cm(BWHは推定)。
つまりヤツは、ぼくのクラブの後輩で、同級生からも先輩からも『あっこ』というニックネームで呼ばれている。
ぼくだって『あっこ』と気安く呼びたいけど、どうしてもできない。
つい、『酒井さん』と、さん付けで呼んでしまうのは、気の強そうなキリリとした眉毛と、釣り上がった猫目。その外見と見事に一致した、気の強い勝ち気な性格にあるのだ。
容姿については、好き嫌いの意見が分かれたとしても、平均よりかなり可愛い方なのは確かだ。
身長はそんなに高くないけど、スタイルはメリハリあって、出るところはちゃんと出てるし、運動神経も抜群で、ショートヘアにヘアバンドを巻いて、コートの中で球を追っている姿は機敏でパワフル。1年生でありながら、もうレギュラーの噂が高い程の、実力の持ち主だ。
なにより、『後輩』といっても、気に入らなければ先輩にもコーチにも遠慮なく、攻撃的に直球勝負で、ズケズケとものを言うところが、周囲の尊敬と畏怖を買っている。
特に、ぼくの事はなぜか嫌っている様子で、なにかにつけて彼女は、ぼくを邪険にしてきた。
『あれでいて案外、おまえに気があるんじゃないか? いわゆるツンデレだよ』
と、冷やかしてくるクラブ仲間もいるけど、それはありえない。
酒井はいつもぼくを見ると、サッと警戒し、緊張した固い表情になる。
『ツン』はあっても、『デレ』るとこなんて、見たことがない。
酒井亜希子はそんなアクの強い女の子で、要するに、ぼくのいちばん苦手としている後輩なのだ。
そんな酒井がこうして時々、テニス部の日誌や授業のプリントなんかを持ってきてくれるんだけど、複雑な気分。
『ジャンケンで負けた』なんて言っていたが、そんなにみんな、ここに来るのを押しつけあっているんだろうか?
そりゃ、このサナトリウムは学校からは遠いし、酒井の言う様に確かに結核は伝染る病気だから、見舞いに来るのも怖いのはわかるけど、入院した時にみんなでお見舞いに来てくれたっきり、ヤツの他は誰も顔を見せてくれないってのは、正直ヘコむ・・・
酒井にしても、義務で仕方なしに来てるみたいだし。
あいにく携帯は、テニス部のレギュラーになった記念に買ってもらう予定だったので、まだ持ってなくて、学校のみんなとは今、隔絶されている状態。
酒井が持ってきてくれる『クラブ連絡帳』に、ぼくへのメッセージがたま~に書かれてるくらいで、それだけが唯一の繋がりなのだ。
入院してはじめて思い知る、人望のなさ…
なんか… 淋しい。
夜。なんにも物音のしない病室で、ひとりで横になっていると、重苦しさで押し潰されそうになる事がある。
このサナトリウムのある場所は、ぼくの住んでいた都会から離れた田園地帯。
窓の外には森が広がっていて、その向こうは田んぼで、ここからは人家の明かりさえ見えない。
まるで、世界中に自分ひとりだけがとり残されて、他の人類は絶滅してしまった様な、絶対的な孤独が押し寄せてくる。
今までやってきた事が、みんなダメになってしまった、喪失感。
これからなにをすればいいのかわからない、空虚感。
そんなものが頭の中をグルグル回ってて、気分がドンドン落ち込んでくる。
そりゃ、テレビをつければお笑いとかバラエティとかもやってるし、携帯ゲームも持って来てるから、それで気を紛らす事もできるだろうけど…
なんか虚しいんだよな~・・・
はぁ…
この、胸の中のポッカリ空いた部分を埋めてくれるのは、きっと、初恋のあの人なんだろう。
彼女の事を考えている時、心臓の鼓動が速くなり、気持ちがはずんでドキドキしてきて、いてもたってもいられない気持ちになってくる。
こうしてあの人の事を考えているだけで、自分自身の魂も浄化されていき、この想いのためだけに、ぼくは生まれてきたのだと、崇高な彼女の存在に運命を感じ、魂が高揚してくるのがわかる。
たった一瞬だったけど、こちらを振り向いて微笑んだ彼女の笑顔が、忘れられない。
ぼくは何度も何度も、彼女の微笑みと言葉を、脳内で再生する。
『来たわ!』
『来たわ!』
『来たわ!』
『来たわ!』
とにかく、ひと目でもいい。
もう一度、彼女に会いたい。
その姿を見たい。
よし!
明日も早起きして、『中谷2丁目』バス停で彼女を待ってみよう!
何かが起きる予感がして、その夜のぼくは、なかなか寝つけなかった。
つづく
通称『あっこ』。
上原高校1年2組。
硬式テニス部所属。
身長159cm 体重46kg。
座高85cm、B85cm(D)、W58cm、H86cm(BWHは推定)。
つまりヤツは、ぼくのクラブの後輩で、同級生からも先輩からも『あっこ』というニックネームで呼ばれている。
ぼくだって『あっこ』と気安く呼びたいけど、どうしてもできない。
つい、『酒井さん』と、さん付けで呼んでしまうのは、気の強そうなキリリとした眉毛と、釣り上がった猫目。その外見と見事に一致した、気の強い勝ち気な性格にあるのだ。
容姿については、好き嫌いの意見が分かれたとしても、平均よりかなり可愛い方なのは確かだ。
身長はそんなに高くないけど、スタイルはメリハリあって、出るところはちゃんと出てるし、運動神経も抜群で、ショートヘアにヘアバンドを巻いて、コートの中で球を追っている姿は機敏でパワフル。1年生でありながら、もうレギュラーの噂が高い程の、実力の持ち主だ。
なにより、『後輩』といっても、気に入らなければ先輩にもコーチにも遠慮なく、攻撃的に直球勝負で、ズケズケとものを言うところが、周囲の尊敬と畏怖を買っている。
特に、ぼくの事はなぜか嫌っている様子で、なにかにつけて彼女は、ぼくを邪険にしてきた。
『あれでいて案外、おまえに気があるんじゃないか? いわゆるツンデレだよ』
と、冷やかしてくるクラブ仲間もいるけど、それはありえない。
酒井はいつもぼくを見ると、サッと警戒し、緊張した固い表情になる。
『ツン』はあっても、『デレ』るとこなんて、見たことがない。
酒井亜希子はそんなアクの強い女の子で、要するに、ぼくのいちばん苦手としている後輩なのだ。
そんな酒井がこうして時々、テニス部の日誌や授業のプリントなんかを持ってきてくれるんだけど、複雑な気分。
『ジャンケンで負けた』なんて言っていたが、そんなにみんな、ここに来るのを押しつけあっているんだろうか?
そりゃ、このサナトリウムは学校からは遠いし、酒井の言う様に確かに結核は伝染る病気だから、見舞いに来るのも怖いのはわかるけど、入院した時にみんなでお見舞いに来てくれたっきり、ヤツの他は誰も顔を見せてくれないってのは、正直ヘコむ・・・
酒井にしても、義務で仕方なしに来てるみたいだし。
あいにく携帯は、テニス部のレギュラーになった記念に買ってもらう予定だったので、まだ持ってなくて、学校のみんなとは今、隔絶されている状態。
酒井が持ってきてくれる『クラブ連絡帳』に、ぼくへのメッセージがたま~に書かれてるくらいで、それだけが唯一の繋がりなのだ。
入院してはじめて思い知る、人望のなさ…
なんか… 淋しい。
夜。なんにも物音のしない病室で、ひとりで横になっていると、重苦しさで押し潰されそうになる事がある。
このサナトリウムのある場所は、ぼくの住んでいた都会から離れた田園地帯。
窓の外には森が広がっていて、その向こうは田んぼで、ここからは人家の明かりさえ見えない。
まるで、世界中に自分ひとりだけがとり残されて、他の人類は絶滅してしまった様な、絶対的な孤独が押し寄せてくる。
今までやってきた事が、みんなダメになってしまった、喪失感。
これからなにをすればいいのかわからない、空虚感。
そんなものが頭の中をグルグル回ってて、気分がドンドン落ち込んでくる。
そりゃ、テレビをつければお笑いとかバラエティとかもやってるし、携帯ゲームも持って来てるから、それで気を紛らす事もできるだろうけど…
なんか虚しいんだよな~・・・
はぁ…
この、胸の中のポッカリ空いた部分を埋めてくれるのは、きっと、初恋のあの人なんだろう。
彼女の事を考えている時、心臓の鼓動が速くなり、気持ちがはずんでドキドキしてきて、いてもたってもいられない気持ちになってくる。
こうしてあの人の事を考えているだけで、自分自身の魂も浄化されていき、この想いのためだけに、ぼくは生まれてきたのだと、崇高な彼女の存在に運命を感じ、魂が高揚してくるのがわかる。
たった一瞬だったけど、こちらを振り向いて微笑んだ彼女の笑顔が、忘れられない。
ぼくは何度も何度も、彼女の微笑みと言葉を、脳内で再生する。
『来たわ!』
『来たわ!』
『来たわ!』
『来たわ!』
とにかく、ひと目でもいい。
もう一度、彼女に会いたい。
その姿を見たい。
よし!
明日も早起きして、『中谷2丁目』バス停で彼女を待ってみよう!
何かが起きる予感がして、その夜のぼくは、なかなか寝つけなかった。
つづく
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