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「プリンセスを養うのは、手間ひまお金がかかります」
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父と母に暇乞いをしたみっこさんは、わたしといっしょに外に出た。
「やあ、凛子ちゃん。あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
挨拶のあと、川島さんは後部ドアを開けて、わたしたちをエスコートしてくださる。
ピカピカに磨かれたモスグリーンのレトロなクルマは、あまり大きくはないけれど、小粋で優美。
振り袖の裾をさばきながら、わたしはみっこさんのあとに続いて、後部座席に乗り込んだ。
「いい振り袖だね。すごく似合ってるよ。黒地に金模様と椿なんて、凛子ちゃんもなかなか玄人だな」
運転席から振り返った川島さんは、わたしの着物を見ながら人懐っこい微笑みを浮かべた。
ヨシキさんとスタジオで初めて撮影たときにお会いして以来、川島さんとも何度か仕事でごいっしょして、写真を撮って頂いたこともある。
ヨシキさんのような無茶な強引さはなく、紳士的で、優しくリードしてくれる、素敵なおとなの男性というイメージだ。
もちろん写真はとっても上手く、ヨシキさんに負けず劣らずで、ふんわりとロマンティックな色合いが、わたし好み。
「ありがとうございます。このクルマもレトロで素敵ですね。はじめて見ましたけど、なんていうクルマですか?」
「バンデン・プラ・プリンセスっていうんだよ。『ベビー・ロールスロイス』って呼ばれている、イギリスのクラシックカー」
「『プリンセス』って、可愛い名前ですね」
「川島君はこういうレトロなモノが好きなのよね」
みっこさんも会話に入ってくる。
「まあね。時間をかけないと育まれない価値ってのが、ぼくは大好きなんだ。お金じゃ買えないものだろ」
「川島くんも物好きよね。クラシックカーなんて、維持するの大変でしょ?
かなり費用がかかるって、聞いたことあるわ」
「それは仕方ないな。このクルマもしょっちゅう修理工場に入ってるし、40年以上前の年代物だから、部品を探し出すのもひと苦労だよ」
「まあ、『プリンセス』を養うってことは、それなりに手間ひまお金のかかることよね」
「はは。確かにそうだな」
「凛子ちゃんも言ってみれば『プリンセス』じゃない。ヨシキくんも大変かもね」
「そ、そんな、、」
「あはは。確かにな。ボチボチお姫さまを走らせるよ」
わたしとみっこさんの会話に軽く笑いながら、川島さんは『バンデン・プラ・プリンセス』のアクセルを踏んだ。
父母の見送るなか、クルマはゆっくりと走り出し、正月休みでいつもより交通量の少ない国道を、明治神宮へと向かった。
境内は参拝客でごった返していた。
長い参道を、人混みに揉まれながら振り袖に下駄で歩いたせいで、お参りをすませた頃にはもうヘトヘト。
初詣の帰り道、わたしたちは大通りに面した神社近くのカフェに立ち寄った。
交通量の少ないのはうちの近くだけで、神社の周りのメインストリートは、参拝客のクルマで大渋滞。このカフェも、初詣のお客で混み合ってた。
幸い、席はすぐ空いて、わたしたちは眺めのよい窓際の席に案内された。
となりの席に座っていた華やかな振袖姿の女の子は、慣れない下駄で足にマメができたらしく、彼氏に愚痴をこぼしている。
「じゃあ、駅までぼくがおぶってやるよ」
「もうっ。恥ずかしいからいいわよ、そんなの」
「はは。正月早々、君の可愛い着物姿が見れたし、今年はいい年になるんじゃね?」
なんか、、
いいな~。
彼氏のために精いっぱい着飾って、いっしょに初詣だなんて。
受験勉強でデート自粛の身としては、羨ましいばかり。
「ヨシキくんも誘えばよかったのに。凛子ちゃんも今日はヨシキくんに、振袖姿見せたかったんじゃない?」
わたしの視線の先を追ったみっこさんが、茶化すように言った。
つづく
「やあ、凛子ちゃん。あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
挨拶のあと、川島さんは後部ドアを開けて、わたしたちをエスコートしてくださる。
ピカピカに磨かれたモスグリーンのレトロなクルマは、あまり大きくはないけれど、小粋で優美。
振り袖の裾をさばきながら、わたしはみっこさんのあとに続いて、後部座席に乗り込んだ。
「いい振り袖だね。すごく似合ってるよ。黒地に金模様と椿なんて、凛子ちゃんもなかなか玄人だな」
運転席から振り返った川島さんは、わたしの着物を見ながら人懐っこい微笑みを浮かべた。
ヨシキさんとスタジオで初めて撮影たときにお会いして以来、川島さんとも何度か仕事でごいっしょして、写真を撮って頂いたこともある。
ヨシキさんのような無茶な強引さはなく、紳士的で、優しくリードしてくれる、素敵なおとなの男性というイメージだ。
もちろん写真はとっても上手く、ヨシキさんに負けず劣らずで、ふんわりとロマンティックな色合いが、わたし好み。
「ありがとうございます。このクルマもレトロで素敵ですね。はじめて見ましたけど、なんていうクルマですか?」
「バンデン・プラ・プリンセスっていうんだよ。『ベビー・ロールスロイス』って呼ばれている、イギリスのクラシックカー」
「『プリンセス』って、可愛い名前ですね」
「川島君はこういうレトロなモノが好きなのよね」
みっこさんも会話に入ってくる。
「まあね。時間をかけないと育まれない価値ってのが、ぼくは大好きなんだ。お金じゃ買えないものだろ」
「川島くんも物好きよね。クラシックカーなんて、維持するの大変でしょ?
かなり費用がかかるって、聞いたことあるわ」
「それは仕方ないな。このクルマもしょっちゅう修理工場に入ってるし、40年以上前の年代物だから、部品を探し出すのもひと苦労だよ」
「まあ、『プリンセス』を養うってことは、それなりに手間ひまお金のかかることよね」
「はは。確かにそうだな」
「凛子ちゃんも言ってみれば『プリンセス』じゃない。ヨシキくんも大変かもね」
「そ、そんな、、」
「あはは。確かにな。ボチボチお姫さまを走らせるよ」
わたしとみっこさんの会話に軽く笑いながら、川島さんは『バンデン・プラ・プリンセス』のアクセルを踏んだ。
父母の見送るなか、クルマはゆっくりと走り出し、正月休みでいつもより交通量の少ない国道を、明治神宮へと向かった。
境内は参拝客でごった返していた。
長い参道を、人混みに揉まれながら振り袖に下駄で歩いたせいで、お参りをすませた頃にはもうヘトヘト。
初詣の帰り道、わたしたちは大通りに面した神社近くのカフェに立ち寄った。
交通量の少ないのはうちの近くだけで、神社の周りのメインストリートは、参拝客のクルマで大渋滞。このカフェも、初詣のお客で混み合ってた。
幸い、席はすぐ空いて、わたしたちは眺めのよい窓際の席に案内された。
となりの席に座っていた華やかな振袖姿の女の子は、慣れない下駄で足にマメができたらしく、彼氏に愚痴をこぼしている。
「じゃあ、駅までぼくがおぶってやるよ」
「もうっ。恥ずかしいからいいわよ、そんなの」
「はは。正月早々、君の可愛い着物姿が見れたし、今年はいい年になるんじゃね?」
なんか、、
いいな~。
彼氏のために精いっぱい着飾って、いっしょに初詣だなんて。
受験勉強でデート自粛の身としては、羨ましいばかり。
「ヨシキくんも誘えばよかったのに。凛子ちゃんも今日はヨシキくんに、振袖姿見せたかったんじゃない?」
わたしの視線の先を追ったみっこさんが、茶化すように言った。
つづく
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