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「こんなに自分を否定されたのは生まれてはじめてです」

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「ダメね」
「えっ?」「えっ?」

わたしとヨシキさんの声が重なった。
冷めた顔で、森田さんは続ける。

「確かに凛子ちゃんは綺麗でスタイルもいいし、ボディコントロールもできてるうえに、モデル勘も抜群だわ。でもプロモデルは無理。趣味にとどめておいた方がよさそうね」
「どうして… どうしてですか?!」

思わず声を荒げ、わたしは訊いた。
悠然とティーカップに口をつけ、こくんと一口、森田さんは紅茶を飲む。
カップをソーサーに戻し、森田さんは凛とした瞳でわたしを見つめ、ピシャリと言った。

「あなたがただの、お人形さんだから」
「え?」
「ヨシキくんに言われたままにポーズをとるだけ。カメラマンにただ、操られてるだけ。
凛子ちゃんからは、『モデルをやりたい』、『自分を表現したい』っていう強い意志は、伝わってこないわ」
「そんな…」
「『モデルにならないか?』って、彼氏にそそのかされて、『じゃあやってみようかな』なんて程度の気持ちじゃ、プロのモデルにはなれないわね。絶対」
「…」

後頭部を思いっきり、ハンマーで殴られた気分だった。
こんなに完全に自分を否定されたのは、生まれてはじめて。

わたしには秘かな自信があった。
それなりに容姿もスタイルもよくて、ヨシキさんからも賞賛されていて。
モデルくらいできるはずと、心の底では高を くくっていた。
でも、そんな自信も、この瞬間、粉々に砕かれてしまった。

みんなが遠ざかっていく。
この明るいスタジオのなかで、自分の周りにだけ深い溝ができて、暗闇に取り残されたみたい。

「相変わらず手厳しいなぁ、みっこは」

助け舟を出すように、川島さんが口を挟んできた。

「そこまでキッパリ言わなくても、いいんじゃないか?」
「できもしない子に『頑張ればできる』って言う方が、よっぽど残酷なんじゃない?
ダメなものはダメと、早めに諦めさせてあげる方が、親切だと思うけどな」
「それはそうだけど… 凛子ちゃんもモデル経験が浅いみたいだし」
「経験の量じゃないわ。凛子ちゃんからは、モデルに対する欲を感じないのよ」
「欲かぁ。確かに…」
「じゃあ、これから仕事があるから、あたしもう帰るわね。
今日は期待してたんだけど、がっかりだったわ。
ヨシキくん、またね。
凛子ちゃんも、気を落とさないでね。
あなたが綺麗で魅力があるのは確かだから、趣味のモデルとしては最上級よ」

そう言ってニッコリ微笑み、森田さんはソファを立つと、バッグを肩にかけて背を向けた。

「まっ、待って下さい! 森田さんっ!」

反射的に、わたしは叫んだ。

「わたし、頑張りますから!」
「…報われない努力は、やるだけムダよ」
「いえ。やります! やらせて下さい!!」
「ふぅん… できるの?」

振り返ってわたしを見つめ、森田さんは不敵な微笑みを浮かべる。
明らかに見下げているような、軽蔑の微笑み。

口惜しい!

ここまでバカにされて、このまま引き下がりたくない。
カッと、全身が熱くなるのを感じる。

負けたくない!

例え相手が一流の女優で、トップモデルだとしてもだ。

つづく
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