上 下
93 / 259
level 10

「心に刻みつけるために写真を撮るのですか」

しおりを挟む
 長いお風呂から上がって、バスタオルをからだに巻きつけ、わたしはドレッサーの前に座った。
お湯に浸かり過ぎたせいか、からだがふやけて、火照りがなかなか収まらない。
いいえ。
からだが熱いのは、ヨシキさんの新たな面を見た興奮が、まだ残っているから。

ポーチから新しい下着を出して身につけ、髪を乾かしながら肌の火照りを鎮めようとしているわたしを、ヨシキさんは椅子に座わってしみじみと、興味深そうに眺めていた。
が、思いついたように、例の大きなバッグからスタンドを出して、ライトのセッティングをはじめる。

「今の凛子ちゃんを撮らせてくれる?」
「えっ? 恥ずかしいです。髪も乾いてないし、メイクもしてないし」

まだ湯上がりで、下着しかつけておらず、濡れた髪はぺったりと顔やからだに張りついている。
わたしは慌てて、髪を拭いていたタオルで、胸元を押さえた。
しかしヨシキさんは、カメラをこちらに向けて、ファインダーをのぞきながら言う。

「それがいいんだよ。清楚ななかに、無防備な色気が感じられて」
「そっ、そうなんですか?」
「今の姿って、オレだけしか見れない凛子ちゃんなんだよな」
「ええ」
「だと思うと、余計に撮りたくなる」
「ヨシキさんは、ほんとうに写真が好きなんですね」
「写真が好きだからじゃないよ。凛子ちゃんが好きだから、撮るんだよ」
「え?」
「心が動かないと、シャッターは押せない。
オレにとって、愛することと写真を撮ることは、イコールなんだ。
オレはいつでも、凛子ちゃんのすべてを見て、触れて、抱きたい。
凛子ちゃんのすべてを、心に刻みつけておきたい。だから、写真を撮るんだ。
…変かな?」
「なんか… キザです」
「綺麗に撮るよ。オレのすべてを込めて」
「それは、信じています」
「じゃあ、ありのままの凛子ちゃんを」

そう言いながらヨシキさんは、ブラとショーツをつけただけで、ドレッサーの前に座って髪を いていたわたしを、背中越しに撮りはじめた。

よかった。
今夜のために、新しいおしゃれな下着を買っておいて。
だけど、露出するところは水着と同じなのに、下着というだけで妙に恥ずかしい。
両手で胸を隠しながら、鏡の中に写るヨシキさんを、上目遣いに見る。

「いいよいいよ、その表情! すごく色っぽい!」

そう言ってヨシキさんは、立て続けにシャッターを切る。

「少し手を緩めて… そう!」

指示されるまま、わたしは胸元から手を離し、椅子の背もたれに寄りかかってうつむいた。濡れた髪が、冷んやりと頬にかかる。

「その髪がすごくいいよ。艶やかで。凛子ちゃんの濡れ髪ってつやつやしてて、うっとりするくらい綺麗だ」

シャッター音が一段と高まる。
それは、ヨシキさんがわたしを見つめている あかし
無機質な機械音がヨシキさんの視線に感じられて、わたしの気持ちも昂まっていく。

椅子の上で膝を抱えたり、鏡に向かってリップを塗ったりする姿を撮ったあと、ヨシキさんはわたしの手をとり、ベッドへと いざなった。

「ほら、こんな感じだよ。いいだろ」

ベッドの縁に腰掛けたわたしのとなりに座ったヨシキさんは、カメラのモニター画面をこちらに向けた。

「え? なんか、すごいです」

昼間に太陽の下で撮った、輝くような明るい写真とは、まったく違う。
今まで見たことのないわたしが、そこには佇んでいた。
金色に鈍く輝くほのかな光のなかに、下着姿のわたしが憂い顔でこちらを見つめている。
ほの暗い部屋のなかで、肌の部分は光が当たってほんのりと浮かび上がっている。
胸のふくらみの微妙な陰影や、からだの輪郭に映える光のラインが、どこか神々しささえ感じる。

わたしって、こんなにセクシーな表情を見せるの?

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

処理中です...