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「心に刻みつけるために写真を撮るのですか」
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長いお風呂から上がって、バスタオルをからだに巻きつけ、わたしはドレッサーの前に座った。
お湯に浸かり過ぎたせいか、からだがふやけて、火照りがなかなか収まらない。
いいえ。
からだが熱いのは、ヨシキさんの新たな面を見た興奮が、まだ残っているから。
ポーチから新しい下着を出して身につけ、髪を乾かしながら肌の火照りを鎮めようとしているわたしを、ヨシキさんは椅子に座わってしみじみと、興味深そうに眺めていた。
が、思いついたように、例の大きなバッグからスタンドを出して、ライトのセッティングをはじめる。
「今の凛子ちゃんを撮らせてくれる?」
「えっ? 恥ずかしいです。髪も乾いてないし、メイクもしてないし」
まだ湯上がりで、下着しかつけておらず、濡れた髪はぺったりと顔やからだに張りついている。
わたしは慌てて、髪を拭いていたタオルで、胸元を押さえた。
しかしヨシキさんは、カメラをこちらに向けて、ファインダーをのぞきながら言う。
「それがいいんだよ。清楚ななかに、無防備な色気が感じられて」
「そっ、そうなんですか?」
「今の姿って、オレだけしか見れない凛子ちゃんなんだよな」
「ええ」
「だと思うと、余計に撮りたくなる」
「ヨシキさんは、ほんとうに写真が好きなんですね」
「写真が好きだからじゃないよ。凛子ちゃんが好きだから、撮るんだよ」
「え?」
「心が動かないと、シャッターは押せない。
オレにとって、愛することと写真を撮ることは、イコールなんだ。
オレはいつでも、凛子ちゃんのすべてを見て、触れて、抱きたい。
凛子ちゃんのすべてを、心に刻みつけておきたい。だから、写真を撮るんだ。
…変かな?」
「なんか… キザです」
「綺麗に撮るよ。オレのすべてを込めて」
「それは、信じています」
「じゃあ、ありのままの凛子ちゃんを」
そう言いながらヨシキさんは、ブラとショーツをつけただけで、ドレッサーの前に座って髪を 梳いていたわたしを、背中越しに撮りはじめた。
よかった。
今夜のために、新しいおしゃれな下着を買っておいて。
だけど、露出するところは水着と同じなのに、下着というだけで妙に恥ずかしい。
両手で胸を隠しながら、鏡の中に写るヨシキさんを、上目遣いに見る。
「いいよいいよ、その表情! すごく色っぽい!」
そう言ってヨシキさんは、立て続けにシャッターを切る。
「少し手を緩めて… そう!」
指示されるまま、わたしは胸元から手を離し、椅子の背もたれに寄りかかってうつむいた。濡れた髪が、冷んやりと頬にかかる。
「その髪がすごくいいよ。艶やかで。凛子ちゃんの濡れ髪ってつやつやしてて、うっとりするくらい綺麗だ」
シャッター音が一段と高まる。
それは、ヨシキさんがわたしを見つめている 証。
無機質な機械音がヨシキさんの視線に感じられて、わたしの気持ちも昂まっていく。
椅子の上で膝を抱えたり、鏡に向かってリップを塗ったりする姿を撮ったあと、ヨシキさんはわたしの手をとり、ベッドへと 誘った。
「ほら、こんな感じだよ。いいだろ」
ベッドの縁に腰掛けたわたしのとなりに座ったヨシキさんは、カメラのモニター画面をこちらに向けた。
「え? なんか、すごいです」
昼間に太陽の下で撮った、輝くような明るい写真とは、まったく違う。
今まで見たことのないわたしが、そこには佇んでいた。
金色に鈍く輝くほのかな光のなかに、下着姿のわたしが憂い顔でこちらを見つめている。
ほの暗い部屋のなかで、肌の部分は光が当たってほんのりと浮かび上がっている。
胸のふくらみの微妙な陰影や、からだの輪郭に映える光のラインが、どこか神々しささえ感じる。
わたしって、こんなにセクシーな表情を見せるの?
つづく
お湯に浸かり過ぎたせいか、からだがふやけて、火照りがなかなか収まらない。
いいえ。
からだが熱いのは、ヨシキさんの新たな面を見た興奮が、まだ残っているから。
ポーチから新しい下着を出して身につけ、髪を乾かしながら肌の火照りを鎮めようとしているわたしを、ヨシキさんは椅子に座わってしみじみと、興味深そうに眺めていた。
が、思いついたように、例の大きなバッグからスタンドを出して、ライトのセッティングをはじめる。
「今の凛子ちゃんを撮らせてくれる?」
「えっ? 恥ずかしいです。髪も乾いてないし、メイクもしてないし」
まだ湯上がりで、下着しかつけておらず、濡れた髪はぺったりと顔やからだに張りついている。
わたしは慌てて、髪を拭いていたタオルで、胸元を押さえた。
しかしヨシキさんは、カメラをこちらに向けて、ファインダーをのぞきながら言う。
「それがいいんだよ。清楚ななかに、無防備な色気が感じられて」
「そっ、そうなんですか?」
「今の姿って、オレだけしか見れない凛子ちゃんなんだよな」
「ええ」
「だと思うと、余計に撮りたくなる」
「ヨシキさんは、ほんとうに写真が好きなんですね」
「写真が好きだからじゃないよ。凛子ちゃんが好きだから、撮るんだよ」
「え?」
「心が動かないと、シャッターは押せない。
オレにとって、愛することと写真を撮ることは、イコールなんだ。
オレはいつでも、凛子ちゃんのすべてを見て、触れて、抱きたい。
凛子ちゃんのすべてを、心に刻みつけておきたい。だから、写真を撮るんだ。
…変かな?」
「なんか… キザです」
「綺麗に撮るよ。オレのすべてを込めて」
「それは、信じています」
「じゃあ、ありのままの凛子ちゃんを」
そう言いながらヨシキさんは、ブラとショーツをつけただけで、ドレッサーの前に座って髪を 梳いていたわたしを、背中越しに撮りはじめた。
よかった。
今夜のために、新しいおしゃれな下着を買っておいて。
だけど、露出するところは水着と同じなのに、下着というだけで妙に恥ずかしい。
両手で胸を隠しながら、鏡の中に写るヨシキさんを、上目遣いに見る。
「いいよいいよ、その表情! すごく色っぽい!」
そう言ってヨシキさんは、立て続けにシャッターを切る。
「少し手を緩めて… そう!」
指示されるまま、わたしは胸元から手を離し、椅子の背もたれに寄りかかってうつむいた。濡れた髪が、冷んやりと頬にかかる。
「その髪がすごくいいよ。艶やかで。凛子ちゃんの濡れ髪ってつやつやしてて、うっとりするくらい綺麗だ」
シャッター音が一段と高まる。
それは、ヨシキさんがわたしを見つめている 証。
無機質な機械音がヨシキさんの視線に感じられて、わたしの気持ちも昂まっていく。
椅子の上で膝を抱えたり、鏡に向かってリップを塗ったりする姿を撮ったあと、ヨシキさんはわたしの手をとり、ベッドへと 誘った。
「ほら、こんな感じだよ。いいだろ」
ベッドの縁に腰掛けたわたしのとなりに座ったヨシキさんは、カメラのモニター画面をこちらに向けた。
「え? なんか、すごいです」
昼間に太陽の下で撮った、輝くような明るい写真とは、まったく違う。
今まで見たことのないわたしが、そこには佇んでいた。
金色に鈍く輝くほのかな光のなかに、下着姿のわたしが憂い顔でこちらを見つめている。
ほの暗い部屋のなかで、肌の部分は光が当たってほんのりと浮かび上がっている。
胸のふくらみの微妙な陰影や、からだの輪郭に映える光のラインが、どこか神々しささえ感じる。
わたしって、こんなにセクシーな表情を見せるの?
つづく
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