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「幸せな妄想が、現実に変わっていくみたいです」
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羽田から飛行機で1時間50分。
瀬戸内海の人工島に作られた北九州空港に降り立ったのは、まだ11時前だった。
ここでレンタカーを借りて、高速道路で山口まで走る。
ヨシキさんはすでにクルマの手配をしていて、パールブルーの『NISSAN NOTE』に、ふたりのバッグを積み込んだ。
「荷物多いんですね」
一泊しかしないのに、ヨシキさんの荷物の多さにびっくり。
アルミケースやカメラバッグなど、大きな荷物を3個くらい、ヨシキさんはクルマのトランクに詰め込んでいた。
「凛子ちゃんと海に行くと思うと、リキ入っちゃって。スタンドとかライトとかいろいろ撮影機材持ってきちまったよ。今日はバカンスなのに、いつもの仕事ロケ撮影と変わらないみたいだな」
そう言って真っ白な歯を見せながら、ヨシキさんはクルマをスタートさせた。
空港の連絡橋を渡って高速道路に乗り、関門橋を越えて山口県に入ったあと、『NISSAN NOTE』は対向車の少ない山道を、縫うようにして走っていった。
最後の狭い山道を抜けると、目の前にいきなり、真っ青な海が広がってくる。
それは、ヨシキさんが見せてくれた画像そのままで、澄み渡った空の色を映すかのように、コバルト色にきらめいていた。
「わぁ! 綺麗。すごい!」
思わず歓声を上げる。
もやもやと溜まっていたうしろめたさや罪悪感を、いっぺんで吹き飛ばしてしまうほどの、鮮やかな景色。
ヨシキさんも機嫌よさそうにハンドルを握り、海の色を映したペールブルーの『NISSAN NOTE』は、ゆるやかなカーブの続く海辺の国道を、すべるように走っていった。
進むほどに海は青さを増していき、本土と角島を結ぶ角島大橋のかかる海士ヶ瀬戸は、アクアブルーとウルトラマリンの交わる、とっても爽やかな海だった。
その海峡の上を、真っすぐな白い橋が、すーっとどこまでも伸びていく。
橋と海のコントラストが、とっても印象的。
近くの見晴らしのいい公園にクルマを止めて、わたしたちは外に出た。
夏の終わりの風は、どこか秋の気配を漂わせていて心地いい。ツインテールの長い髪が、さらさらと風にさらわれて、なびいていく。
「ヨシキさんは、ここに来たことがあるんですよね?」
「ああ。仕事でだけどな。
この橋は、クルマのCMとかで使われたりしてるんだ。交通量が少なくて海も綺麗だから、撮影にはもってこいなんだ。
ほら。あそこに見えるのが、今日泊まるホテルだよ」
そう言ってヨシキさんは、橋の左手に見える海沿いの、黄土色の瓦屋根の続く南欧風の低い建物を指さした。
青々とした広い敷地に、ホテルの建物やプールにテニスコート、巻貝の形をした教会などが点在している素敵なロケーション。扇形の葉を茂らせた熱帯樹が風にそよぎ、どこか知らない南国の情景みたい。
「わぁ。素敵なホテルですね~。いかにもリゾートという感じで」
公園のフェンスにもたれながら、わたしはうっとりとその景色を眺めた。
あんな素敵なところに、ヨシキさんと一日中いっしょにいられて、夜はお洒落なホテルに泊まれる。
幸せな妄想が、ひとつずつ現実に変わっていくみたいだ。
“カシャッ”
景色に見とれていると、背中からシャッター音が響いてきた。
振り向くとヨシキさんが、こちらにカメラを向けていた。
つづく
瀬戸内海の人工島に作られた北九州空港に降り立ったのは、まだ11時前だった。
ここでレンタカーを借りて、高速道路で山口まで走る。
ヨシキさんはすでにクルマの手配をしていて、パールブルーの『NISSAN NOTE』に、ふたりのバッグを積み込んだ。
「荷物多いんですね」
一泊しかしないのに、ヨシキさんの荷物の多さにびっくり。
アルミケースやカメラバッグなど、大きな荷物を3個くらい、ヨシキさんはクルマのトランクに詰め込んでいた。
「凛子ちゃんと海に行くと思うと、リキ入っちゃって。スタンドとかライトとかいろいろ撮影機材持ってきちまったよ。今日はバカンスなのに、いつもの仕事ロケ撮影と変わらないみたいだな」
そう言って真っ白な歯を見せながら、ヨシキさんはクルマをスタートさせた。
空港の連絡橋を渡って高速道路に乗り、関門橋を越えて山口県に入ったあと、『NISSAN NOTE』は対向車の少ない山道を、縫うようにして走っていった。
最後の狭い山道を抜けると、目の前にいきなり、真っ青な海が広がってくる。
それは、ヨシキさんが見せてくれた画像そのままで、澄み渡った空の色を映すかのように、コバルト色にきらめいていた。
「わぁ! 綺麗。すごい!」
思わず歓声を上げる。
もやもやと溜まっていたうしろめたさや罪悪感を、いっぺんで吹き飛ばしてしまうほどの、鮮やかな景色。
ヨシキさんも機嫌よさそうにハンドルを握り、海の色を映したペールブルーの『NISSAN NOTE』は、ゆるやかなカーブの続く海辺の国道を、すべるように走っていった。
進むほどに海は青さを増していき、本土と角島を結ぶ角島大橋のかかる海士ヶ瀬戸は、アクアブルーとウルトラマリンの交わる、とっても爽やかな海だった。
その海峡の上を、真っすぐな白い橋が、すーっとどこまでも伸びていく。
橋と海のコントラストが、とっても印象的。
近くの見晴らしのいい公園にクルマを止めて、わたしたちは外に出た。
夏の終わりの風は、どこか秋の気配を漂わせていて心地いい。ツインテールの長い髪が、さらさらと風にさらわれて、なびいていく。
「ヨシキさんは、ここに来たことがあるんですよね?」
「ああ。仕事でだけどな。
この橋は、クルマのCMとかで使われたりしてるんだ。交通量が少なくて海も綺麗だから、撮影にはもってこいなんだ。
ほら。あそこに見えるのが、今日泊まるホテルだよ」
そう言ってヨシキさんは、橋の左手に見える海沿いの、黄土色の瓦屋根の続く南欧風の低い建物を指さした。
青々とした広い敷地に、ホテルの建物やプールにテニスコート、巻貝の形をした教会などが点在している素敵なロケーション。扇形の葉を茂らせた熱帯樹が風にそよぎ、どこか知らない南国の情景みたい。
「わぁ。素敵なホテルですね~。いかにもリゾートという感じで」
公園のフェンスにもたれながら、わたしはうっとりとその景色を眺めた。
あんな素敵なところに、ヨシキさんと一日中いっしょにいられて、夜はお洒落なホテルに泊まれる。
幸せな妄想が、ひとつずつ現実に変わっていくみたいだ。
“カシャッ”
景色に見とれていると、背中からシャッター音が響いてきた。
振り向くとヨシキさんが、こちらにカメラを向けていた。
つづく
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