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「中学生だったわたしには衝撃的なできごとでした」

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「凛子ちゃんがヨシキさんのことを好きっての、最初からバレバレなのかもね」
「えっ? ほんとにですか? わたし、隠していたつもりなんですけど」
「凛子ちゃんって実はわかりやすいもん。すぐ表情に出るし。それに百戦錬磨のプレイボーイなら、女の子の『好きオーラ』は敏感にキャッチするだろうし」
「そ、そんなものですか?」
「じゃないと、最初のデートでいきなりキスなんてできないわよ、ふつー。『いける』って確信がなきゃ踏み込めないでしょ。あ~、どこまでも憎いヤツ!」
「んん…」
「凛子ちゃんが落城するのも、時間の問題かもしれないね~。狼ヨシキめ~、わたしの美少女を」
「落城って…」
「ま。いっぱつ、薩摩おごじょの意地を見せてやりなさいよ。その狼男に」

もう12時を回って夜も更けたというのに、わたしと優花さんは携帯で話し込んでいた。
愛のこと、恋のこと。
ヨシキさんのこと。
兄と優花さんのことも、いろいろ話した。


「凛子ちゃんって、わたしのこと嫌ってなかった?」

不意に優花さんが漏らした。

「どうしてですか?」
「わたしずっと気になってたのよね~。
忠彰さんとつきあいはじめた頃はそんなことなかったのに、ある日突然、凛子ちゃんヨソヨソしくなって、顔を合わせてもなんかピリピリしてて、目も背けるし…」
「あ…」
「え?」
「いえ… なんでもないです」
「だからね、『わたし嫌われてるんだな~』って思って凹んでたのよ~。凛子ちゃんのブラコン疑惑も、そのとき感じたわけ」
「嫌うなんてことは、ないです」
「ほんとに? 忠彰さんは『思春期だろ』ってお気楽なこと言ってたけど、ほんとに嫌われてなかった?」
「嫌いとかじゃなくて、ただ…」
「ただ?」
「いえ… なんでもないです」
「なにかあったの?」
「別に… たいしたことじゃ」
「言ってよ。ね。あたし、なにかした?」
「ん…」
「言ってよ。すごく気になってたの」
「ええ… 実は」

渋々と、わたしは話しはじめた。
3年近く前の、あの『トラウマ』になったできごとを。


そう。
あの日…

日舞のお稽古が、先生の都合で急に中止になって、予定より早く帰宅したときのことだった。
父は仕事で遅く、母もその日は友人との旅行で帰らず、兄も外出しているはずで家にはだれもいないことがわかっていたので、わたしは自分で玄関の鍵を開けて、そのまま階段を駆け上がり、自分の部屋に行こうとしていた。
兄の部屋の前を通ったとき、なかで人の気配がして、声が聞こえてきた。

『あれ? お兄さま、いるのかな?』

挨拶しようと思ってドアをノックしかけたわたしは、糸を引くような粘り気のある甲高い呻き声にギクリとして、思わずその場に硬直してしまった。
その声は次第に短い促音へと変わっていき、調子を高めながら速くなっていく。
餅つきのように、ピタンピタンとなにかがぶつかり合うような音が聞こえ、金属の、おそらくベッドのスプリングが軋む音が、リズムよく響いてくる。

兄と優花さんがこのドアの向こうで、今、セックスしている…

まだ中学生だったわたしには、それは衝撃的なできごとだった。
ビデオの逆回しのように、わたしは忍び足で廊下を戻り、階段を降りると靴を履き、気づかれないように慎重に家のドアを閉めて鍵をかけ、近くの神社に駆け込んだ。
日舞のお稽古が終わる時間になるまで、手ごろな棒切れを拾ってきては、神社の境内でひたすら、なぎなたの素振りを続けた。
そうしていても、今まで意識したこともなかった兄の『男』の部分と、可愛くてやさしい優花さんが、獣のような声を上げている姿が頭のなかでグルグル回って、素振りに集中することができなかった。
そのとき以来、わたしは兄の部屋に入れなくなった。

つづく
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