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「イヤだとはっきり言えるようになりたいです」
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みんなが挨拶している間、ずっと不機嫌そうに頬杖ついて、窓の外を眺めていた美咲麗奈さんは、わたしの方を振り向き、一変して花の様に可愛らしい笑顔を向け、明るく親しげな調子で言った。
「美月梗夜さんね。こんにちは。よろしくねw」
なに?
この変わり身の早さ。
ヨシキさんの前で調子を合わせているみたいで、胡散臭い。
そうは思っても、ふたりともヨシキさんの知り合いだし、彼女にだけ仏頂面するわけにもいかない。できるだけ平静を装い、わたしも美咲さんに挨拶を返した。
「よろしく。美咲さん」
「麗奈でいいよ」
「ありがとうございます」
「梗夜さんっていくつ? いつからコスプレしてるの?」
「17歳です。コスプレははじめたばかりで、まだわからない事が多くて…」
「そう。なにか困った事があったらあたしに相談してね。力になるから」
いきなりなにを言っているの?
会ったばかりのあなたを信用して、相談なんてできるわけないじゃない。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
内心そう思っていても、気持ちを顔に出さないよう、いい顔をするわたし。
他人に対して、心のなかではすぐに毒づくくせに、八方美人的な言動が条件反射のように出てしまうこの性格が、嫌なんだ。
嫌なものはイヤなんだと、はっきりと言える性格になりたい。
江之宮憐花のように。
だけど美咲麗奈は、わたしの言葉に気をよくしたのか、さらに親しげに言った。
「メアド交換しようよ♪」
「え? ええ」
「明日のイベントも来る?」
「行くと思います」
「そっか。会えるといいねw」
そう言いながら、美咲麗奈はスマホを取り出した。
わたしも仕方なく、自分のメールアドレスを美咲麗奈のスマホに送る。
「自己紹介が終わったとこで、おまえらと相席してもいいか? 賑やかな方が楽しいしな」
「ゴメン。あたしたちもう出る所だったの。デートの途中だしね」
座りかけたヨシキさんを遮り、美咲麗奈は急かすように大竹さんの手をとって、素早く立ち上がった。
「ミノルくぅん。麗奈まだ行きたいとこいっぱいあるんだ。もっともっと楽しもうねw」
わたしたちのことは眼中にないかのように、美咲麗奈は甘えて大竹さんの腕をとり、例によって自分の巨乳をグイグイ押しつけながら、カフェを出ていった。
このふたり、本当にデートをしていて、偶然ここで遭ったの?
わたしにはとてもそうとは思えない。
こう言っては悪いけど、美咲さんが大竹さんのことを好きだなんて、わたしには感じられない。
これって絶対、ヨシキさんに見せつけてるんだと思う。
彼の気を惹くために、大竹さんを利用しているに違いない。
あの女、ヨシキさんのことが好きなんだ。
きっと、好きな男を手に入れるためには、手段を選ばないタイプ。
ますます好きになれない。
大竹さん、当て馬にされちゃって、可哀想。
「ごちそうさま。あんまり遊び過ぎて、明日のイベント忘れんなよ」
外へ出ていくふたりの背中に、ヨシキさんは軽口を浴びせる。
ヨシキさんは、大竹さんが当て馬にされてること…
美咲麗奈が自分のことを好きだということに、気がついていないのかな?
それとも、知っていてわざと平静を装っているの?
「ミノル、、、 ヤバいことにならなきゃいいけどな。なにしろ相手は麗奈だし」
そんなことを考えていたとき、ふたりの背中を見送っていたヨシキさんが、ふと漏らした。
「え?」
「いや。なんでもない。まあ、偶然にしちゃ、できすぎだよな。
さ、座ろうぜ」
明るくわたしを振り返ったヨシキさんは、わたしの背中を軽く押して、促した。
『相手は麗奈だし』
その言葉の意味を知ったのは、少しあとになってからだった。
つづく
「美月梗夜さんね。こんにちは。よろしくねw」
なに?
この変わり身の早さ。
ヨシキさんの前で調子を合わせているみたいで、胡散臭い。
そうは思っても、ふたりともヨシキさんの知り合いだし、彼女にだけ仏頂面するわけにもいかない。できるだけ平静を装い、わたしも美咲さんに挨拶を返した。
「よろしく。美咲さん」
「麗奈でいいよ」
「ありがとうございます」
「梗夜さんっていくつ? いつからコスプレしてるの?」
「17歳です。コスプレははじめたばかりで、まだわからない事が多くて…」
「そう。なにか困った事があったらあたしに相談してね。力になるから」
いきなりなにを言っているの?
会ったばかりのあなたを信用して、相談なんてできるわけないじゃない。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
内心そう思っていても、気持ちを顔に出さないよう、いい顔をするわたし。
他人に対して、心のなかではすぐに毒づくくせに、八方美人的な言動が条件反射のように出てしまうこの性格が、嫌なんだ。
嫌なものはイヤなんだと、はっきりと言える性格になりたい。
江之宮憐花のように。
だけど美咲麗奈は、わたしの言葉に気をよくしたのか、さらに親しげに言った。
「メアド交換しようよ♪」
「え? ええ」
「明日のイベントも来る?」
「行くと思います」
「そっか。会えるといいねw」
そう言いながら、美咲麗奈はスマホを取り出した。
わたしも仕方なく、自分のメールアドレスを美咲麗奈のスマホに送る。
「自己紹介が終わったとこで、おまえらと相席してもいいか? 賑やかな方が楽しいしな」
「ゴメン。あたしたちもう出る所だったの。デートの途中だしね」
座りかけたヨシキさんを遮り、美咲麗奈は急かすように大竹さんの手をとって、素早く立ち上がった。
「ミノルくぅん。麗奈まだ行きたいとこいっぱいあるんだ。もっともっと楽しもうねw」
わたしたちのことは眼中にないかのように、美咲麗奈は甘えて大竹さんの腕をとり、例によって自分の巨乳をグイグイ押しつけながら、カフェを出ていった。
このふたり、本当にデートをしていて、偶然ここで遭ったの?
わたしにはとてもそうとは思えない。
こう言っては悪いけど、美咲さんが大竹さんのことを好きだなんて、わたしには感じられない。
これって絶対、ヨシキさんに見せつけてるんだと思う。
彼の気を惹くために、大竹さんを利用しているに違いない。
あの女、ヨシキさんのことが好きなんだ。
きっと、好きな男を手に入れるためには、手段を選ばないタイプ。
ますます好きになれない。
大竹さん、当て馬にされちゃって、可哀想。
「ごちそうさま。あんまり遊び過ぎて、明日のイベント忘れんなよ」
外へ出ていくふたりの背中に、ヨシキさんは軽口を浴びせる。
ヨシキさんは、大竹さんが当て馬にされてること…
美咲麗奈が自分のことを好きだということに、気がついていないのかな?
それとも、知っていてわざと平静を装っているの?
「ミノル、、、 ヤバいことにならなきゃいいけどな。なにしろ相手は麗奈だし」
そんなことを考えていたとき、ふたりの背中を見送っていたヨシキさんが、ふと漏らした。
「え?」
「いや。なんでもない。まあ、偶然にしちゃ、できすぎだよな。
さ、座ろうぜ」
明るくわたしを振り返ったヨシキさんは、わたしの背中を軽く押して、促した。
『相手は麗奈だし』
その言葉の意味を知ったのは、少しあとになってからだった。
つづく
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