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「声をかけてきたのはアニメ声の少女でした」
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夏休みに入った日差しの強い日曜日。
散々悩んだ末、わたしはイベントに行く決心をした。
なんだかドキドキする。
それは、はじめての参加だった先々週のイベントでのドキドキとは違う、胸の高鳴りだった。
あれから二週間。
わたしはいろいろなサイトを見て回り、コスプレやメイクの方法、ポーズの取り方なども調べたりして、自分なりに上達しようと心掛けた。
『リア恋plus』のゲームもスマホにダウンロードして、実際にプレイし、『江之宮憐花』についても、容姿やセリフ、ポーズの癖などをもっと研究した。
やるからにはいいものを目指したいし、みんなにも認められたい。
人に負けるのが、わたしはなにより嫌いなのだ。
ヨシキさんのことは、忘れようと思えば思うほど、その存在が膨らんでいった。
どんなに理性で否定しても、彼のことを考えるだけで、胸の奥が掻きむしられるように苦しく、切なくなってくる。
この感情が本当に『恋』なのかどうか、今日のイベントで確かめたい。
直接本人に会って、自分の気持ちとちゃんと向き合いたい。
前回と同じ会場なのに、今日のイベントの様子は少し違っていた。
吹き抜けの明るい場内にはずらりと長机が並べられていて、リュックを背負った男性や、若い女性、コスプレイヤーさんたちがテーブルの間を行き交い、本や小物などを売り買いしている。
まるでフリーマーケットみたいだ。
長机の前で物を売っているコスプレイヤーさんもいたが、ほとんどのコスプレイヤーさんは、会場の一角の『コスプレゾーン』という場所にたむろして、前回のイベントのときと同じように、写真を撮ったりしている。
これが噂に聞く『コミケ』ってやつか。(*作者註 コミケではなく同人誌展示即売会)
「あ… 江之宮憐花さん、ですよね♪」
更衣室から出てきたわたしに真っ先に声をかけてきたのは、背が低くて内気そうな、地味な感じの女の子だった。
わたしと同じ制服を着て、リボンを結んでゆるくカールした濃紺のウィッグをかぶっているところを見ると、『リア恋plus』のアイドル女子高生、『小鳩りりか』らしい。
「あの… し、写真撮らせてもらっていいですか?」
小さな声でうつむきながら、上目遣いにわたしを見る彼女は、小柄なからだに似合わない、真っ黒で大きな一眼レフを抱えていた。
「え? ええ。いいですけど」
「よかった~ヾ(*´∀`*)ノ こないだのイベントじゃ、カメコさんが多くて撮れなかったから」
OKしたとたん、パッと花が咲いた様な笑顔になった彼女は、わたしにカメラを向けると、『ふにゅ~』とか『ほえ~』とか言いながら、シャッターを切りはじめた。
地味な顔立ちで美人というわけでもないけど、わたしの周りをチョロチョロと回りながら写真を撮っている様子は、小動物みたいで可愛い。
しかも、しゃべり声が子供っぽいというか、まるでアニメに出てくるキャラクターのようだ。
「ほにゃ~。すっごい素敵ですぅ♪ 本物の江之宮憐花さんみたいで、憧れてしまいますぅ(*^▽^*)
あ。わたし、こういう者ですっ!」
うっとりとした眼差しをわたしに向けながら、彼女は深々とお辞儀をして、両手で名刺を差し出す。そこには『桃李』と記してあった。
つづく
散々悩んだ末、わたしはイベントに行く決心をした。
なんだかドキドキする。
それは、はじめての参加だった先々週のイベントでのドキドキとは違う、胸の高鳴りだった。
あれから二週間。
わたしはいろいろなサイトを見て回り、コスプレやメイクの方法、ポーズの取り方なども調べたりして、自分なりに上達しようと心掛けた。
『リア恋plus』のゲームもスマホにダウンロードして、実際にプレイし、『江之宮憐花』についても、容姿やセリフ、ポーズの癖などをもっと研究した。
やるからにはいいものを目指したいし、みんなにも認められたい。
人に負けるのが、わたしはなにより嫌いなのだ。
ヨシキさんのことは、忘れようと思えば思うほど、その存在が膨らんでいった。
どんなに理性で否定しても、彼のことを考えるだけで、胸の奥が掻きむしられるように苦しく、切なくなってくる。
この感情が本当に『恋』なのかどうか、今日のイベントで確かめたい。
直接本人に会って、自分の気持ちとちゃんと向き合いたい。
前回と同じ会場なのに、今日のイベントの様子は少し違っていた。
吹き抜けの明るい場内にはずらりと長机が並べられていて、リュックを背負った男性や、若い女性、コスプレイヤーさんたちがテーブルの間を行き交い、本や小物などを売り買いしている。
まるでフリーマーケットみたいだ。
長机の前で物を売っているコスプレイヤーさんもいたが、ほとんどのコスプレイヤーさんは、会場の一角の『コスプレゾーン』という場所にたむろして、前回のイベントのときと同じように、写真を撮ったりしている。
これが噂に聞く『コミケ』ってやつか。(*作者註 コミケではなく同人誌展示即売会)
「あ… 江之宮憐花さん、ですよね♪」
更衣室から出てきたわたしに真っ先に声をかけてきたのは、背が低くて内気そうな、地味な感じの女の子だった。
わたしと同じ制服を着て、リボンを結んでゆるくカールした濃紺のウィッグをかぶっているところを見ると、『リア恋plus』のアイドル女子高生、『小鳩りりか』らしい。
「あの… し、写真撮らせてもらっていいですか?」
小さな声でうつむきながら、上目遣いにわたしを見る彼女は、小柄なからだに似合わない、真っ黒で大きな一眼レフを抱えていた。
「え? ええ。いいですけど」
「よかった~ヾ(*´∀`*)ノ こないだのイベントじゃ、カメコさんが多くて撮れなかったから」
OKしたとたん、パッと花が咲いた様な笑顔になった彼女は、わたしにカメラを向けると、『ふにゅ~』とか『ほえ~』とか言いながら、シャッターを切りはじめた。
地味な顔立ちで美人というわけでもないけど、わたしの周りをチョロチョロと回りながら写真を撮っている様子は、小動物みたいで可愛い。
しかも、しゃべり声が子供っぽいというか、まるでアニメに出てくるキャラクターのようだ。
「ほにゃ~。すっごい素敵ですぅ♪ 本物の江之宮憐花さんみたいで、憧れてしまいますぅ(*^▽^*)
あ。わたし、こういう者ですっ!」
うっとりとした眼差しをわたしに向けながら、彼女は深々とお辞儀をして、両手で名刺を差し出す。そこには『桃李』と記してあった。
つづく
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