ブラックアウトガール

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
65 / 70
11th sense

11th sense 6

しおりを挟む
<阿鼻叫喚のはじまりよ>

あたしと目が合うと、もうひとりのあずさはニヤリと笑ってうなづいた。
それが合図だったかのように、地縛霊は思いっきり、航平くんを車道に突き飛ばした。

「キャッ!!」

ミクの叫び声が響いた。
航平くんの姿を目で追ってたミクには、単に航平くんが車道へよろけていき、膝から崩れ落ちたとしか見えないだろう。

「航平くんっ、危ないっ!!!」

両手をギュッと握りしめ、ミクは力の限り叫ぶ。
その声で、和馬くんも交差点の方を振り返る。
和馬くんだけじゃない。
バス停にいた数人の生徒も、航平くんに気がつき、口々に叫んだ。

「航平くんっ!」「なにやってんだバカ!」「早く逃げろよ!」

航平くんの目の前には、荷物をたくさん積んだトラックが、猛スピードで近づいてる!

“パパパパパパーーーーッ!!!!”

けたたましくクラクションを鳴らし、トラックは急ブレーキでタイヤを軋ませる。
だけど、膝をついてしゃがみ込んでる病気の航平くんに、トラックを避ける反射力はなかった。
航平くんとトラックが重なる。
なんとかしようと、ミクが交差点にダッシュしていくが、この距離で間に合うわけがない。

<やったねあずさ。これでもう航平くんはあんたのもんだよ。永遠に!
ミクにもだれにも、取られる心配はないよ!>

もうひとりのあずさは、勝ち誇ったように薄笑いを浮かべた。
その瞬間、あたしの目の前は真っ黒になった。
ブラックアウト。


「航平くんっ!!!!」

なにがなんだかわからなかった。
ただ、愛する人の名前が、交差点の喧噪に負けないくらいのボリュームで、響き渡った。
それは、、、

あたしの声だった。

気がつくとあたしは、道路の端っこで仰向けにひっくり返ってる航平くんに、馬乗りになってた。

なに?
いったいどうなってんの?

あたしの両手は、航平くんの胸を押さえてる。
お尻から、航平くんのぬくもりが伝わってくる。

ぬくもり?

あたし、航平くんの体温を、感じてるっ!!

“キキキキーーーーッ!!”

鼓膜を突き破るようなブレーキ音が、耳に突き刺さる。

間一髪!
トラックは航平くんとあたしの側を、ギリギリでかわした。
巻きおこった風で、あたしの髪がぐしゃぐしゃに乱れる。

「バカヤロー!! おまえら急に飛び出して、アブねーじゃねーか!!!」

運転手の怒声を残し、体制を立て直してトラックは走り去っていった。
あたしの姿、運転手には見えてる!?

あたし、、、
航平くんを突き飛ばして、助けたってわけ?

もしかして。
あたし、、、
今、、、

実体化してる??!!

「さっ、酒井、さん?!」

両目を思いっきり見開いて、混乱した航平くんは道路に横たわったまま、あたしの下で名前を呼んだ。
確かにあたし、航平くんに見えてるんだ!

「航平くん! 航平くん!
よかった!
助かって!!」
「酒井さん。どうして、、、」
「航平くんっ!!」

航平くんの頬で、透明な雫が弾けた。

やだ。
あたし、涙が出てる。
どんどん、どんどん、溢れ出してくる。
止められない!

航平くんの頬は、あたしの涙でぐっしょり濡れてしまった。
「酒井さんっ?!」

まだ状況が飲み込めてないみたいで、航平くんはあたしを見つめて、目をぱちくりさせるだけ。
あたしだって、なにがなんだかわかんない。
今までなにをどうやっても、航平くんにはあたしの姿、見えなかったのに。
航平くんを助けたいって一心で、実体化したとでもいうの?

わけわかんない!
だけど、これだけはわかる。

今、あたしは、航平くんと触れ合ってて、話をしてるんだ!

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...