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9th stage

そういえば、帰りに着る服がない

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「お兄ちゃん。あたし… うちに帰るね」
「かっ、帰るの?」
「もう、逃げない」
「逃げない、、、」
「うん。逃げたって、前に進めないと思うから」
「だっ、大丈夫?」
「お兄ちゃんがついててくれれば、大丈夫」
「えっ?」
「お兄ちゃんはずっと、あたしの味方でいてくれるよね?」
「う、うん。もちろんだよ」
「お兄ちゃんから見れば、あたしなんてまだまだ子供なのに、あたしの事バカにしたり、年下扱いしたりしなかった」
「…」
「そりゃ、お兄ちゃんって口下手だけど、あたしの話を真剣に、一生懸命聞いてくれて、あたしと同じ目線で考えてくれて、話そうとしてくれた。だからお兄ちゃんのこと、心から、あたしの味方なんだって思えたの」
「そ、そうなの?」
「うん。お兄ちゃん見てて、あたしやっぱり、ガッコの先生になりたいなって思ったの」
「ぼくを見て?」
「お兄ちゃんみたいに、生徒に真剣に接してやれて、いっしょに悩みを考えてやれる先生になりたい。そのためにはあたしもちゃんと勉強しないといけないし、いつまでもふてくされてしゃに構えてたって、ダメでしょ」
「…そうだね。それがいいと思うよ。ぼくもその方が安心できるし」
「これからも、時々遊びにくるね」
「う、うん。待ってるから」
「デートもしようね」
「うん」
「あたしの写真もいっぱい撮ってね」
「うん。撮らせて」
「原宿で買ってくれたロリータの服でも、撮ってほしいな」
「そうだね、、、、、、 あっ!」
「え? どうしたの?」
「なっ、なんでもない。なんでもないから、、、」

そう言って誤魔化したけど、なんでもないわけなんかない。
すっかり忘れてた!
例のロリ服は、ネットオークションに出したまんまだった!!

栞里ちゃんの肩越しに、ぼくはそっと時計を見た。
もう、夜の10時半すぎ!
ほとんどの出品に入札が入ってたし、終了時刻は10時に設定してたから、もうだれかが落札したあとだ。
終了前ならヨシキにでも落札してもらって、見かけの取引だけ成立させとくって手もあったけど、もう無理。アウト、、、orz


 そのあともしばらく、ふたりはベッドの上で、ダラダラと話しをしてた。
栞里ちゃんの学校や、友達、クラスの事。
ぼくの大学の事や、同人誌の事。
『ぼくも匿名サイトで誹謗中傷された事があるんだよ』って話すと、栞里ちゃんは自分の事の様に考えてくれて、慰めてくれた。

なんか、、、 嬉しい。
この辛さを分かち合ってもらえるなんて。
これが、『味方』って事なんだろな。
でも、、、
これじゃあどっちが年上か、わかんないじゃないか(笑)。


 いつまで話してたってキリがないし、早く帰らないと電車もなくなってしまう。
『うちに帰る』という栞里ちゃんの決心も、なんだか鈍ってきてるみたい。

「よしっ」

と気合いを入れる様にして、ようやく栞里ちゃんは立ち上がり、帰りの支度をはじめた。

「あっ」

Tシャツを脱ぎかけて、栞里ちゃんは小さく叫び声を上げた。

「ど、どうしたの?」
「帰りに着てく服がない!」
「え? さっき、栞里ちゃんが窓から捨てた服があるけど、、、」

そう言って、ぼくは窓から降ってきた彼女の服を差し出す。

「お兄ちゃん拾ってきたの? その服、捨てたのに」
「え? どうして」
「もう着たくないから」
「なんで?」
けがれた服だから」
「穢れた?」
「他の穢れた男が、穢れた目的で買ってくれた服だから」
「…」
「あっ。そう言えば原宿で、お兄ちゃんに普段着も買ってもらったっけ。まだある?」
「あ、当たりまえだよ。ちゃんととってあるよ」

これは安かったので、オークションじゃ値がつかないと思って出品せず、絵の資料用としてとっておいた。ふう、、、



 そんなこんなで、ぼくが買ってあげた服を着て、栞里ちゃんは部屋を出た。
ぼくも彼女を送って、駅までいっしょに行く。
夜の街をふたり並んで歩く姿は、他の人からはまるで兄妹みたいに見えるかもしれないけど、たまに指先が触れあって、それを意識するふたりは、なりたてほやほやの恋人同士、、、 だと思う。

そうなのか?

…ほんとにぼくたちって、恋人同士なのか?
恋人って、こんな感じなのか?
彼女いない歴=年齢の自分には、なんかまだ、実感がわかない。

そりゃ、告白っぽい事は言ったし、栞里ちゃんも『バージンあげたかった』って言ってくれたし、ぼくの事好きでいてくれてるんじゃないかとは思うけど、彼女のぼく呼び方は相変わらず、『お兄ちゃん』のまんまだし、、、

もしかして、、、
栞里ちゃんにとってぼくは、『恋人』っていうより、『兄』とか『父』とか、保護者に近い存在で、恋愛感情とは違うのかもしれない。
いったいふたりは、どういう関係なんだ?


「お兄ちゃんに、あやまらなきゃいけないことがあるの」

駅前の交差点で信号待ちをしている時、栞里ちゃんが、思い切った様に話しはじめた。

つづく
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