上 下
56 / 77
8th stage

ヒーローみたいな加速装置はついてない

しおりを挟む
「うわああああああああああああああああ!!!!!」

落ちていく白い影は、まるでスローモーション。
栞里ちゃんと過ごした1週間が、頭の中でフラッシュバックする。

ツンとすました横顔。
たまに見せる笑顔。
怒った顔。
すがる様な瞳。
その瞬間、すべてがわかった!

栞里ちゃんを好きだという事。
理屈なんかじゃなく、好きなんだという事。
失いたくないという事。
なにをしてやれなくても、ただ、彼女の側にいてあげたいという事。
栞里ちゃんから信頼されてたって事。
なのにぼくは、彼女を見捨ててしまったって事。
そして彼女は、支えるものがなくなって、、、

自由落下、、、、、、、、

「栞里ちゃん!栞里ちゃん!栞里ちゃん!栞里ちゃん!栞里ちゃんっっっ!!!!」

狂った様に何度も彼女の名前を呼んで落下地点へダッシュしていきながら、ぼくは彼女を置き去りにしてコンビニなんかに出かけた事を、激しく後悔した。

どんなに後悔したって、もう遅い。

自由落下をはじめた彼女を止められるものは、もうない。
アニメのヒーローみたいに加速装置でもあれば、落下地点に回り込んで彼女を受け止めてあげられるのに。
しかし、ただのモブキャラでしかない愚かで無力なぼくは、佐倉栞里が落下していき、出会った日に栞里ちゃんがベランダから投げ捨てたアイスクリームの様に、彼女が地面にぶつかってへしゃげる音を、聞くしかないのだ!

愛する人の潰れる音を聞き、脳みそや内臓が飛び散って息絶えた姿を見る。
それが、現実から逃げ出したぼくに与えられた、罰!!

発狂不可避。。。。



しかし、、、

落下地点に、彼女の潰れた姿はなかった。
ぼくの部屋の真下の地面に落ちていたのは、栞里ちゃんが着てた淡いピンクのカットソー。
それだけだった。

「栞里ちゃん、、、、、、」

気が抜けたぼくはその場にヘナヘナと座り込み、カットソーを手にして、マンションを見上げた。
また、なにか落ちてくる。

“ファサ”

花びらの様に地面に広がったそれは、彼女のはいてたスカート。
無意識のうちに、ぼくはそれも手に取った。
自分の着てる服を、どうしてバルコニーから投げ捨てるんだ?

いや!
そんな事考えてる場合じゃない!
次は栞里ちゃん本体が落ちてくるかもしれない!!

そう考えるといてもたってもいられなくなり、慌ててマンションに駆け込んだぼくは、ガチャガチャとエレベーターのボタンを押した。
エレベーターは、4階付近を上がってる途中だった。
なかなか下がってこない。
イライラする、、、
ここでもたついてるうちに、栞里ちゃんが飛び降りないとも限らない。
反射的にエレベーターの隣にある非常階段の重いドアを開け、ぼくは階段を2段跳ばしで駆け上がりはじめた。

だけど、走っても走っても、8階は遠い。
運動不足の脚は鉛の様に重く、太ももはなかなか上がってくれない。
息が切れて苦しい。

「くそっ!」

それでもぼくは走る事をやめなかった。
ここで休んで、その間に栞里ちゃんが飛び降りたりしたら、永遠に後悔し続ける事になる。
そんなの、イヤだ!
絶対イヤだっ!!


「しっ、栞里ちゃんっ!!」

“バタン”と勢いよく玄関のドアを開け、部屋に飛び込んだぼくは、大声で彼女の名を呼んだ。

「…」

返事は、、、 なかった。
狭い部屋をバタバタと横切ってバルコニーに駆けていき、ぼくは外を見た。

栞里ちゃんは、、、

いた。

パンツとブラだけを着けたまま、彼女はバルコニーの隅で両脚を抱えて座り込み、頭を膝の間に埋める様にしてた。
その姿がなんだかとってもちっちゃくて、弱々しい。

『ちゃんと生きてる!』

そう思って、ぼくはホッと胸を撫で下ろした。

しお、、ハァハァ、、、 ちゃん、、、 よかっ、、ハァハァ、た」

彼女に声をかけようとしたけど、息が切れてまともにしゃべれない。
栞里ちゃんは、膝に顔を埋めたまま、ポツリと言う。

「、、、そつき」

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...