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8th stage

逃げちゃダメなんだけどお茶がない

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そりゃ、、、
栞里ちゃんのことは、なんとかしてやりたい。
心の底からそう思う。
でも、ぼくにはどうしてやる事もできない。
彼女の両親の離婚を止めさせる事も、お姉さんと仲直りさせてやる事も、裏サイトへのいじめの書き込みをやめさせる事も、なんの力もないぼくなんかに、できるわけがない!

『おまえは栞里ちゃんの人生に、責任持てるのか?』
『その子がDVとか、家庭内不和で家出してるとして、おまえに、それをちゃんと解決してやる覚悟と力は、あるのか?』
『中途半端にやさしくされて、その後に見捨てられる方が、余計に傷つくだろ』

今さらながら、ヨシキの言葉が心に突き刺さる。

『だれも信じられない!』

そう叫んだ栞里ちゃんが、ぼくの事を信じてくれて、こうしてすべてを打ち明けてくれてるってのに、ぼくにはそれを解決してやる力もないし、彼女に真っ正面から向き合う根性すらない。

なんてダメな人間なんだ。ぼくは!
こうして好きな女の子に頼られても、いっしょになってズルズルと、その子の闇に引きずり込まれてしまう!

「あ、あっ。やっぱりお茶買ってくるよ。なんか、喉が渇いちゃって…」

長い沈黙にいたたまれなくなり、そう言って素早く立ち上がると、すがる様に目で追う栞里ちゃんを見ないふりして、急いで財布を取り出し、ぼくは玄関を飛び出した。

そう。

逃げ出したのだ、、、orz

あまりの重圧に耐えかねて、ぼくは栞里ちゃんから逃げたのだ!

『逃げちゃダメだ!』
『逃げちゃダメだ!』
『逃げちゃダメだ!』
『逃げちゃダメだ!』

そんなアニメの主人公みたいなモノローグが、頭のなかでグルグル回ってるけど、気持ちとはうらはらに、からだは栞里ちゃんからどんどん遠ざかってく。

どこまでもヘタレな自分。

いや。
『ヘタレ』なんて言葉じゃすまない。
なんかもう、、、 ぐしゃぐしゃ。
人間として最低!

そんな自分に、恋とかできるわけがない。
人を愛する、資格なんかない!



 マンションを出たぼくは、向かいのコンビニにフラフラと足を運んだ。

店内は別世界だった。
意味もなく明る過ぎるコンビニのなかは、商品のCMが軽快な音楽に乗って陽気に垂れ流され、本棚には流行の服が載ったファッション誌やコミック雑誌なんかが置いてあり、ゲーム雑誌の表紙にはアニメタッチの高瀬みくが、こちらを向いて誘う様に微笑んでる。
悩みなんかなんにもない様な人たちが、店内でのんびりと時間をつぶしたり、買い物をしたりしてる。
レジのなかの店員はちょっと気だるそうに、でもキチンと仕事をこなしてて、穏やかな日常の風景がそこには、ある。
冷たくまたたく蛍光灯あかりが灯るこの雑多な空間は、重圧に潰されかけてたぼくに、ひとときの安らぎを与えてくれた。
ここにいると、なんだかホッとする。
とりあえず思考をストップさせ、本棚に並んでた『リア恋plus』の攻略本をパラパラとめくったあと、ぼくは機械的にドリンクの置いてある冷蔵庫を開け、いつも買う麦茶を手に取って、レジに持っていく。

いつものルーチン。
今はそんな日常が、愛おしかった。


 買い物をすませ、コンビニを出ても、すぐに部屋に戻る気力は起きなかった。
大通りをノロノロと歩き、時々立ち止まっては自分のマンションを見上げ、ぼくはボケ~っと考えてた。

『天使?』

はじめて栞里ちゃんを見た時、マジで思った。
彼女の寝顔は清らかな天使そのもので、いっさいのけがれなんてなかった。
14歳の彼女の中に、ぼくはまるでマンガのヒロインみたいな、清らかさを見てた。
それは自分勝手な妄想なんだけど、心のどこかで彼女がまだ清らかな、『バージン』だってのを、期待してた。

バージンって、なに?
だれも足を踏み入れてない、雪の積もった道路みたいな、綺麗なもの?
そこに自分がはじめて足跡つけられるみたいな、優越感?

正直に言おう。

栞里ちゃんが『ビッチ』になったいきさつを聞いた時、ぼくは一瞬、彼女に裏切られた気分になってしまったんだ。
ぼくが夢見てた、求めてた、佐倉栞里の『天使の様な清らかさ=バージン』を、彼女自身が簡単に捨て去ったという事が、許せなかったんだ。

つづく
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