上 下
6 / 77
1st stage

美少女と出会った夜を思い出せない

しおりを挟む
「それで、オレの事はもういいから、本題に移ろうぜ。
どうしてそんな女の子がおまえの部屋にいるんだ?
どこで知り合ったんだ?
どんな感じの なんだ?
んで、ほんとにヤッたのか?」

興味津々という感じで、ヨシキは訊いてきた。それには答えず、ぼくはもうひとつ、質問した。

「ヨシキ。『責任とる』って、具体的になにをすればいいんだ?」
「責任? なんの責任だ?」
「だから、その…」
「エッチした責任か?」
「…あ、ああ、、 多分、、、」
「そうだな~、、、」

ヨシキはしばらく考えてたが、突然 “ププッ”と笑い出した。

「ふつー、『責任取って』って言われたら、『つきあって』とか『結婚して』って意味だと思うけど、おまえがそんなセリフを中坊の女に言われるとか、、、 マジありえね~wwwwwww」

ゲラゲラ笑い出したおかげでハンドルが取られ、クルマが蛇行する。

なんか、、、
気分が悪くなった。
クルマが揺れたからじゃない。
あまりにもバカにされたからだ。

まあ、そういうのはいつもの事だし、こいつといると、その完璧モテ男っぷりに、いちいち劣等感を刺激されてしまう自分も、なんだか情けない。ぼくにはぼくのいい所があるんだと、信じたい、、、

「それで? あの後なにか思い出したか?」

気のすむまで あざけり笑った後、ヨシキはハンドルを握り直しながら、今度はやけにまじめに訊いてきた。

「タクシーには、確かにおまえひとりで乗ったぞ。その後はどうだったんだ? 途中どこかに寄った覚えはないのか?」
「いや。まっすぐ帰ったと思うけど…」
「じゃあ、おまえのマンションに着いた後、近所で会ったんじゃないのか?」
「あ、ああ…」
「よく考えてみろ。タクシー降りてからマンションのアプローチを通ってホールに入って、エレベーターに乗って、自分の部屋にたどり着くまでの道のりを」

彼の言葉に従って、ぼくは必死に記憶を掘り起こしてみた。

タクシーがマンションの前に着いた事は、よく覚えていない。
『お客さん、着きましたよ』という運転手の声に起こされて、、、
ぼくは寝ぼけながら財布を出してお金を払い、タクシーから降りて、ポーチをふらふら歩いて…

、、、そう言えば。

「マンションに入る前の… エントランスの柱の陰に、だれかうずくまってた様な、、、 」
「それだよ。よく思い出してみろ。そこで話しかけたか、かけられたかしたんじゃないのか?」
「そうかも…」
「そしてなりゆきで、おまえの部屋に着いて来たんだろ」
「それは、、、 ありえるかも」

そうこうしてるうちに、もう、ぼくの住む15階建のワンルームマンションが見えてきた。
その途端、なんだか不安になってくる。

ほんとに彼女は、ひとりでおとなしく待ってるだろうか?
コミケの稼ぎをパクって、逃げたりしてないだろうか?
それとも、もしかして…
怖いお兄さんがいっしょに、待ち構えてたりとか、、、
思わずからだがすくんでしまう。

「ヨ、ヨシキ、悪いけどいっしょに部屋まで来てくれないか? おまえがいた方が、なにかと心強いかも…」
「ああ…」

そう言って、なにか考える様に黙ったヨシキは、かぶりを振った。

「…いや。やめとくよ」
「え? なんで? 今日はそのために、わざわざ送ってくれたんじゃないのか?」
「今の段階での事情はだいたいわかったし。あとはおまえが、次のステージに進んでからだな」
「次のステージ?」
「おまえだけで、その女の子と、ちゃんと向き合って、話ししろよ」
「でも…」
「その子、家出少女なんじゃないか?」
「家出少女?」
「ああ。泊まる所がなくて途方にくれて、マンションの陰に座り込んでいたところに、たまたまおまえが帰ってきて、なんだかんだで部屋に転がり込んだんじゃないのか?」
「…そうかな?」
「それだったら、オレがいっしょに行くと、その子、絶対不安がるぞ。
密室で知らない男二人に囲まれるのは、オレ達が思ってる以上に、女の子にとっちゃ怖い事だからな」
「そっ、そうなのか?」
「多分な。だから、その子のためにも、オレは今日は遠慮しとくよ。とりあえず近くでヒマ潰してっから、なにか問題が起こったら、電話かメッセでもしろよ。オレも頃合いを見て連絡するから」
「あ、ああ… サ、サンキュ」
「じゃな。頑張れよ!
もしコミケの売り上げかっぱらってトンズラしてても、許してやれよ。
そして冬コミの印刷代は全額おまえ持ち、なw」

励ましとも脅しともつかないことをほざいたヨシキは、ぼくのマンションのエントランス前に、ピタリとTOYOTA Bbを停めた。
クルマから降りたぼくに、ヤツはニッと微笑んでVサインを送り、アクセルを吹かして走り去る。

まったく… 憎たらしいヤツだ。

ふだんはチャランポランとした、いけすかないカメコで、ぼくのことも散々バカにするくせに、いざという時は真剣に考えてくれて、アドバイスしてくれる。
ヨシキのこういう優しさと気配りと、傲慢さとオレ様具合が、甘辛ミックスな感じで、腐れ縁が切れないのだ。
とりあえずぼくは、緊張で顔をこわばらせながら、『セカンドステージ』へと歩を進めた。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...