イケメンと五月病

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本編

心の準備(R18

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 何故か怒っている恋人に、就業後タクシーで奴のマンションまで連れて行かれ、怒鳴られた。訳が判らない。
 
「別にいいだろ、ホントのことだし」
「俺は、俺の好きな奴のこと、そんな風に言われたら嫌だ!」
 
 同僚の女性に支倉の彼女について聞かれ『暗くて面白くもないしお世辞にも可愛いとは言えないので、横取りしたくなりますよ、だから誰だかは言えません』と答えたってだけの話だ。
 
「それに、お前……。そう言って俺が本当にアプローチされてもいいっていうのか」
「今更だろ。どう言ったところで、されるんだろうし」
 
 玄関先で背骨が折れるほど抱きしめられた。好かれているんだとは判るが、熱すぎて目眩がする。
 俺はあまり感情を外に出してはいないから、支倉は心配なのかもしれない。
 お前の前じゃできる限り、好きだって伝えているつもりなんだがな、これでも。
 
「隆弘は俺にとっては凄く可愛いし、最高の恋人なんだ。だから、次に聞かれたら最高に可愛い恋人だって答えてくれ……」
「そこかよ」
 
 今度は俺が苛つく番だ。こいつホンット、俺を偶像化しすぎてる。俺自身が見えていないんじゃないかと思うくらいだ。
 それほど好きだってことなんだろうが、度が過ぎた過大評価は本人の負担にしかならないって判らないのか?
 
「なあ、支倉。俺は男なんだぞ」
「判ってる」
「そんで、可愛くもなければ性格もよくない。暗くて面白くなんかない。全部本当のことだ……っん」
 
 噛みつくようなキスをされ、今度はベッドへ引っ張って行かれた。展開的にはオイシイが、切れたままこういうことをしないで欲しい。心の準備ができてない。
 
「支倉!」
「じゃあ、お前が可愛いってこと、これから証明してやる」
「わ、ちょっ……お前っ」
 
 ネクタイをほどかれ、両手をまとめて上で縛り上げられた。
 
「馬鹿、何してんだ!」
 
 がちゃがちゃと音を立ててベルトを外され、トランクスの中に支倉の指が潜り込む。
 まさかこれ、俺……ヤられる? 待て待て、スピーディ過ぎるだろ。でも久し振りだな、支倉の手……。気持ちいい。
 ぬるっとした感触に慌ててそこを見ると、支倉が俺のものをしゃぶっていた。
 当然そんなことをされるなんて初めてだ。口の中がこんなに熱くって気持ちいいとは思わなかった。 
 
「っあ、あ、やべ、それ……」
「隆弘……ッ」
 
 熱く名前を囁かれ、熱心に舐め上げられる。そんな整った顔で、俺のを美味しそうに舐めるなよ。快感もやばいけど、視覚的にも相当クる。
 先端から奥までぐぐっと銜えた支倉がむせ込んだ。
 
「……平気か?」
「平気だ! お前、何でそんなに平然としてるんだ。初めてじゃなかったのか?」
「初めてだぞ」
「なら何で、抵抗しないんだ。無理矢理されてるのに!」
「だからさ……。お前、俺を清純だと思いすぎなんだよ。俺、普通の男なんだぜ。好きな奴に気持ちいいことされて、嫌だって思うほどガキじゃない」
 
 怒鳴っていた支倉の顔から、風船が萎んでいくみたいに怒りが消えていくのが判った。そのまま、しゅうっと音でも立てそうなくらい真っ赤になって、俺の股間に顔を突っ伏した。
 
「馬鹿……」
「それは俺の台詞だ。ここまでしたなら最後まで口でイカせてくれよ。あと、手も外せ。抵抗しないし。お前の背中に手回したいから」
「ん……」
 
 支倉は素直に拘束を解いてくれた。そんなにきつく縛られてはなかったし、俺も暴れてないから跡はついてない。
 さっきは囓られそうで実はちょっと怖かったが、今度は愛しそうに舐めてくれるので俺も安心。支倉の柔らかい髪を手櫛ですきながら、快感を享受する。

 それから数分と保たず、俺は呆気なく支倉の口に放っていた。
 ……気持ち良かった。でも、放心してる訳にはいかない。お前の怒りは静まったようだが、俺のほうはまだだ。キツイからとりあえずはイカせてもらったが。
 
「なあ、支倉。男同士って肛門でするんだろ?」
「あっ……。安心してくれ、さすがにそこまで、無理矢理ヤる気は……」
「俺、お前だったら別にいいのに」
「隆弘……」
 
 と、感動させたところで身体を反転させ、支倉を俯せにベッドへ押し倒してやった。
 
「たっ、隆弘!?」
「だから言っただろ、俺は男なんだぞって。お前はそれを、わかってない」
 
 支倉のベルトを緩め、ズボンに手を差し入れて……ぬるついた指先を奥へと一気に押し込む。
 
「っあ……! ばっ……え? 馬鹿、なっ……何っ」
 
 死ぬほど焦ってるのが笑える。
 うなじを甘く噛んで、耳も甘く噛んで、ふっと息を吹きかけた。
 
「したい。支倉」
「う……そっ。指、指抜けって……」
「震えてる。可愛い」
 
 背中からシャツをまくりあげてキスをする。お前だってさっき無理矢理やろうとしたんだから、おあいこだ。
 それにこれくらいしてやらないと、こいつは絶対わからない。俺にホントの意味で手を出してくるのは一年後とかになるだろう。そんなの俺の方が耐えられない。

 まあ、これくらい脅かせば充分かな……。名残惜しい気もするが、とりあえず指を引き抜いた。 
 
「わかったか?」
「え……?」
「俺もさすがに、今日無理矢理する気はない。でもな、お前が俺にしたいと思ってることは、俺もしたいと思ってる。そういうことだ」
 
 着崩れている支倉は目の毒なので、まくりあげたシャツをもどしてやる。半ケツなのはこのままにしておくか。どっちかというと笑えるし。
 
「したいって……。隆弘が、俺に?」
「ああ」
「そ、か。そうか。考えたことも、なかった……」
「だろうな」
 
 言った今も半信半疑っぽい。お前の中では、そんなに俺は抱かれることしか望まないカワイコちゃんなのか。
 
「お前を抱きたいと思うような俺は、嫌いか?」
 
 そう尋ねると、支倉はハッと顔を強張らせて俺に縋ってきた。
 
「悪い、誤解させた。違うんだ。別にお前を女のように見ていた訳じゃない。ただ、俺はお前と恋人同士になれるなんて思ったこともなかったから……。まだ、お前が俺に触れたいと思ってくれる、そういう実感がないんだ。それだけなんだ」
 
 たどたどしく必死に伝える支倉が愛しい。
 俺と支倉の間には、どこかズレがあるような気がしてた。親友同士であればしっくりきていたそれは、恋人同士になった途端軋み音を立てる。
 俺と支倉の立場が、対等でなかったからだ。こいつはどこかで俺に遠慮してた。好かれたいというよりは、嫌われたくないってそんな感じだった。
 親友から恋人への移行が上手くいってなかったんだと思う。お互いに。
 
「支倉。俺、本当に……。ちゃんとお前のこと、好きだからな」
「うん……」
「抱きたいと思ってる」
「ん、うん……。うう……」
「まだ信じられないのか?」
「いや、そうじゃなく。俺は男だからさ」
「俺だってそうだぞ」
「……わかってる。でも、俺はお前のどんなとこ見ても嫌いにならないけど、お前は俺が喘いでるのとか見たら、気持ち悪いって思うかもしれないじゃないか」
「興奮するけどな。お前が喘いだら」
「そ、か……」
 
 支倉が頬を染めて押し黙る。どうやらちゃんと考えてくれる気にはなったらしい。自分が抱かれる側になるかもしれない、という選択肢があることを。
 もう一押ししてみるかな。
 
「それに俺、童貞なんだぜ? その前に処女奪われるとか、可哀想じゃないか」
「自分で言うな、馬鹿」
 
 支倉は下がったままだったズボンをもそもそと上げて俺から離れると、ベッドの上に正座した。
 思わず俺も正座して見つめ合う。何だこのおかしな状況は。
 
「悪い、隆弘。正直今日は、心の準備が済みそうにない。さっきも凄く怖かった」
「え?」
 
 ……抱かれる側になるかもしれない、ってより。抱かれる覚悟、してる、のか、こいつ……。
 
「ちょっと待て、お前、それでいいのかよ」
 
 俺には都合のいい展開だってのに、意外過ぎて思わずそう聞いてしまった。
 
「抱かれる側でいいのかってことか?」
「ああ」
「隆弘が俺を抱きたいなんて思ってなかったから確かに驚いたけどさ、お前が抱きたいって言うなら、俺は別に構わない。どっちでもいい」
 
 支倉がぎゅうっとシーツを掴んで、俯いた。顔が真っ赤になっていくのが判る。
 自分が抱かれることを想像して照れているのかと思ったら、下半身が熱くなってきた。
 けど、呟かれた支倉の言葉は想像以上に破壊力がでかかった。
 
「それに、俺は……。こっちは、初めてだから、お前に初めてを……あげられるし」
 
 胸の奥が熱くなる。やばい。これは……やばい、だろ。
 そこまで言われて、俺が心の準備を待っていられると思うのか?
 
「支倉、すまん。我慢できない」
「は? わ、おい、ちょっ……! 馬鹿っ!」
「挿れないから少しだけ触らせてくれ」
「嘘だ。お前、絶対に嘘だろ、それ!」
「こういうのって何度か慣らさないと無理なんだろ? お前のことだから何日もかけて自分で慣らし続けて、入るくらいになったら、心の準備ができたとか言って俺を誘うんだろ? わかってんだよ、お前の性格は」
 
 一気にまくしたてると支倉が黙り込んだ。恐らく図星だろう。
 俺としては慣らす過程も一緒にしてやりたいって思うし、見たいと思う。恥ずかしいとこ、全部見せて欲しい。
 でもこいつはイケメンだから。何より、俺の前では格好良くありたいとか思ってるだろうから、無理矢理にでもしないと見せてはくれないだろう。
 シャツを脱がせながら鎖骨を噛んで、唇に軽いキスを落とす。別に訊かずに進めてもいいが、この前断られた以上ちゃんと支倉の口から聞いておきたい。
 
「乳首舐めてみていい?」
「……ああ」
「噛んでも?」
「っか、勝手にしろっ」
 
 男の乳首なんて見てもどうかと思ったが、恥じらいがあるせいか俺がこいつのことを好きすぎるせいか物凄く興奮する。
 まずは指で軽く触れて、ぐにぐにと押し潰してみる。段々ぷつんと立っていくのがやらしい。親指と人差し指できゅっと摘むと、支倉の身体がびくりと震えた。
 
「くすぐったい……」
「俺もこの前そうだった。でもいっぱいしてると気持ち良くなってくるから、少し我慢しろ」
 
 今度はちゅうっと吸い付いて、舐めてみた。舌先にこりこりした感触が当たるのが楽しくて、何度も吸い上げて転がす。
 同時に下半身を触ってやると、支倉が俺の背中をぎゅっと抱きしめた。
 
「んっ……」
「結構よくなってきた?」
「いちいち聞くなよ。見ればわかるだろ」
「俺、支倉が初めてだからわからない」
 
 なんて。これだけ反応がよくなれば嫌でもわかる。
 でも支倉は半ば混乱気味なのか、頬を染めながら頷いた。
 
「強く吸われるのが、結構いい、かな……」
 
 言った後、頬を染めるなんて言葉じゃ表せないくらい真っ赤になった。鼻血でも噴くんじゃないかってほど。
 
「だっ、大丈夫か、支倉っ」
「お前っ……。ホンット、言わせるなよ……。恥ずかしくて死ぬ」
 
 俺はお前が可愛すぎて死にそうだ。

 支倉が恥ずかしがる姿を、もっと見たくなって、ついいろいろ虐めてしまった。
 俺の指をくわえ込んだままイケたら終わりにするという話にして、とりあえず第一ラウンド終了。
 少しは拡がったかなと覗き込もうとしたら、額を叩かれた。
 
「見ようとするなよ、そういうところを」
 
 すっかりいつもの調子に戻ってやがる。今さっきまであんなにエロイことしてたのに。
 お前は出してすっきりかもしれないが、俺はまだ張り詰めたままだ。
 
「あのさ、支倉。俺のも手でして」
「え……?」
 
 すっかりしてもらうつもりでズボンの前を寛げると、支倉が俺のそれをじーっと見て、嬉しそうに微笑んだ。
 
「な、なんだよ」
「いや……。お前さっきイッたばっかりなのにさ。俺のしてて、こんなにしてくれたってことだろ。嬉しくってさ。気持ち悪くなかったなら、良かった」
「後ろに指突っ込まれてその感想が出るって、お前結構変態だよな」
「……隆弘は、実は結構サドだよな……」
 
 ちょっと照れ隠しで言っただけなのに、失礼な奴め。
 でもまあ、否定はできないかもな。支倉ってちょっと虐めたくなる。完璧な物を歪ませたくなるような感覚というか。
 支倉が俺の手を取って、自分の吐き出した物を拭う。それをローション代わりに使って、俺のを擦り始めた。
 
「凄い、やらしい光景だ……」
 
 うっとりと言う支倉をやっぱり変態だと思いつつ、俺も魅入ってしまう。何より気持ちいい。
 鎖骨の辺りを甘噛みながら、俺のそれを扱く。気持ち良くて、妙な声がもれる。それに煽られてくれるのが嬉しいから、声を抑えることはあんまりしない。恥ずかしいけど。
 
「先端の辺りだったよな」
「んっ。気持ちいい、支倉……。早くこれ、お前の中、挿れたい」
「うん……」
 
 ねちっこく刺激してくるこの触り方は支倉が好きなのかもしれないと煮えた頭で考えているうち、その手の平に熱を吐き出していた。
 
「っは、はぁ、は……。やべ。気持ち良かった」
「……っ。隆弘、好きだああああああ!」
「うわっ、ば、馬鹿! 手拭いてから触れよ!」
 
 ベッドへぎゅーっと押し倒されたので、足で押し返すと、支倉がつまらなそうに視線を逸らした。
 
「お前はムードがなさすぎる。この感動を一刻も早く伝えたい俺の気持ちがわかってない」
「あー。伝わってる伝わってる。わかってるから」
 
 ティッシュで支倉の手を拭いてやる。自分の手も一緒に拭く。
 残念そうにするなよ。舐めるつもりだったんじゃないだろうな。さっき口の中吐き出されてまずそうにしてたくせに。
 
「隆弘、一緒にシャワーとか」
「浴びない。洗面所だけ貸して。手洗ってく。もう帰らないと終電終わるし」
「泊まってけよ。お前のネクタイもあるし、この前のスーツもクリーニングに出してある。下着も新しいの買ってある」
「用意周到だな……。でも、俺はお前と違って紳士じゃないから、一緒のベッドでこれ以上我慢できそうにねーの。童貞ですから」
 
 最後までとはいかなくても猿のように繰り返し、明日の仕事に影響が出るのは明白だ。今だってまだ支倉に触りたいし、触って欲しい。
 結構時間がギリギリで焦りながら帰り支度をする俺。
 支倉も渋々と着崩れた衣服を整え始めた。
 
「ネクタイとスーツはどうする?」
「置いてといてくれ。早く泊まれることを祈って」
 
 玄関先まで送ってくれた支倉に、下からちゅっとキスをする。支倉は俺を帰したくないって感じに抱きしめて、キスを深くしてきた。
 あんまりそんなキスされると、表へ出られないような顔になってしまいそうだ。
 触れる唇を惜しく思いながら押し退け、耳元で囁く。
 
「支倉。一個だけな、フォローさせてくれ」
「……なんだ?」
「俺さ、確かにお前の恋人のこと、あんまりよく言ってはいないけどな、あれには続きがあるんだぞ。お前その部分、聞いてないだろ?」
 
 支倉がこくこくと頷く。恥ずかしいから言ってやるつもりはなかったが、家へ連れてきてこんなことするくらいだ。だいぶ燻っているに違いない。
 多少うやむやになってるとはいえ、思い出して腹を立てられるのはよろしくない。
 
「それでもあいつは凄く、彼女のことを好きみたいなので、取らないでやってださい……って伝えてるんだよ。間違ってないよな?」
 
 目元にちゅっとキスをしてやると、ちょっとしょっぱい。
 こんなことで泣くなよ馬鹿。離れたくなくなる。
 
「また明日な」
「っ……ん、隆弘……あのな、ホントに……。愛してる」
 
 さらっと言うなあ。さすがだぜ。俺は、うん、とだけ言って、背を向けた。振り返らなかった。だってあいつ、絶対こっち見てるし。目が合ったら絶対帰れなくなるのがわかってたから、振り返らなかった。
 また、明日な。朝会ったら、開口一番、愛してるぞって囁いてみようか、俺も。 
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