弟を好きになりました

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それからの2人

怖い夢

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※弟視点



 夜中に突然目が覚めた。頬がびっしょり濡れてる。
 凄く嫌な……怖い夢を見た気がする。内容は覚えてない。
 
「律……?」
 
 隣で兄さんの起きあがる気配。どうやら起こしてしまったみたいだ。
 僕は自分でも情けないくらい震えていて、声も出なくて、心配をかけさせてしまうには充分だった。
 
「ど、どうしたんだ。怖い夢、見た?」
「うん……」
「ほら」
 
 兄さんが僕を抱き寄せる。腕の中に閉じこめてくれる。
 今はもうすっぽりとその中におさまることはできなくなってしまったけど、凄く安心した。
 
「もう怖くないからな。俺が傍にいるから」
「ん……」
 
 僕はまだ少し、うとうととしていた。多分怖い夢は、追いかけられるようなものじゃないと思う。
 ハッと目が覚めるんじゃなく、ただただ、悲しいままゆっくり覚醒した。
 僕がこんなに悲しくて怖い気持ちになっているのなら、きっと兄さんが僕の傍から離れていくとか、そんな夢だったんだと思う。僕が一番怖いのは、それだから。
 
「ふふ、懐かしいな。律が幼稚園の頃も、ぐずって泣き出すとこうして俺が抱っこして寝てた」
「そうだっけ?」
「覚えてない?」
「ないよ」
 
 嘘。本当は覚えてる。でも恥ずかしいから言わない。
 兄さんの前では可愛い弟でいたいという気持ちと、かっこよくなって守ってあげたいという不思議な気分が同居してる。
 だからこうして、抱きしめてもらうのを恥ずかしいとは思わないし、甘やかされるのも好き。
 でもそれと昔の話はまた別。忘れてはいないけど霞むような遠い昔の話をされるとくすぐったい。
 何しろあの頃は兄さんにいっぱい迷惑かけていたと思うし、今考えると無神経なこともたくさん言ったと思うから。

 恋人になる前から僕を好きだった兄さんを、何回傷つけたんだろう。怖いのは、それを思い出すことかもしれない。
 
「僕も、兄さんが怖い夢見た時はこうして抱きしめて眠ってあげるからね」
「別に怖い夢見なくても、抱きしめて眠ってくれてもいいんだぞ」
「じゃあ明日はそうする。でも今日は、兄さんが僕を抱きしめてて?」
「っ……もちろんだ、律っ」
 
 ちゅっちゅっと頭に柔らかいキスをされた。
 兄さんの腕の中なら怖い夢を見ることがない。

 抱き合って眠れることが、兄さんが僕を好きでいてくれることが、幸せな夢の延長だから。

 明日は、僕が兄さんをたくさん甘やかそう……。
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