弟を好きになりました

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小学校中学年編

恋人と夏祭り

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 今日は夏祭り。去年までは友達より俺と行って欲しいなと願うばかりだったけど、今年は一緒に行くことが前提だ。
 なにしろ恋人同士だからな。一緒にお祭り楽しんで、並んで花火見てなんて、当たり前のことだ。
 そんな当たり前の幸せが嬉しい。たとえ周りからは、兄弟にしか見えなくても。
 ……いや、逆に言うと兄弟に見えるだけありがたい。歳が大分離れているから、俺の見た目によっては異様な目で見られかねないし。
 
「お兄ちゃん、去年の浴衣着らんないよ。見て、これ、凄い短い」
 
 ミニ浴衣……! あぁ、律、なんて可愛いんだ……。
 でも本当につんつるてん。成長してるんだなぁ。去年はぴったりだったのに、10センチ以上短くなってる気がする。
 
「確か俺が小さい頃着た浴衣がしまってあるよ。ちょうど律くらいの時のかな」
「お兄ちゃんにも僕くらいの頃があったんだね」
「それは、あるよ。アルバムだって見たことあるのに、何言ってるんだか」
「でも、なんか凄く不思議な感じなの。だって、僕が小さい頃からお兄ちゃんはずっと大きかったでしょ?」
 
 まあ、それは律が物心ついた時にはもう大体育ちきってたからな……。
 
「お兄ちゃんが小学校4年生くらいの時って、今の僕と身長同じくらいだった?」
「んー。どうかな。小学校5年で律くらいだった気がする。俺、6年上がってから一気に伸びたんだ。中3までに伸びきって、それからはあまり伸びなかったな」
「僕も伸びるかなぁ……」
 
 俺より大きくならなくていい。
 ……とはさすがに、律には言えない。
 
「きっと伸びるよ」
 
 笑って、頭を撫でてやった。
 
「じゃ、浴衣出してくる」
「僕と同じくらいだったなら、僕でも着れるよね」
「多分。俺中間の一気に抜けてるから、これ着られなかったら新しいの買ってこないと」
 
 新品浴衣をつけた律もいいけど、俺のお古を着ている律もいい……。まあ律ならなんでもいい訳だけど。
 衣装ケースの奥底を漁って目当ての浴衣を発見。さっきの浴衣よりちょっと大きい感じ。これならきっとぴったりだ。
 男の子らしく紺色の浴衣に黒い帯。
 
「ほら、あったぞ」
「これがお兄ちゃんが着てた浴衣かぁ……」
「言っておくけど、さっき律が着てた浴衣だってそうだよ」
「えっ、そうなの!?」
「母さんたちは元から、二人目が欲しかったみたいだからさ。まさか12も離れて産まれてくるとは思わなかっただろうけど。何でもっと早く産まれてくれなかったのーって言って、今この状態だけどね」
「そうか。そうなんだぁ……」
 
 さっきの浴衣は律が小1から着ていたものだから、母さんもわざわざお古だよとは言わなかったんだろう。俺も言わなかったし。
 基本的に律が着てるのって、俺のお古が多いんだけどな。
 男兄弟だからそこはまあ、仕方ない。
 虫に食われてるのやボロボロになったのもあるから全部が全部じゃないけど。
 
「律は俺の古着じゃ嫌?」
「どうして?」
「やっぱり新しいのがいいかなって」
「ううん。お兄ちゃんも着てたんだなって思うと、凄く嬉しいよ?」
 
 ……可愛い。律は何でこんなに可愛く育ってるんだろう。
 こんな可愛い子が恋人なんて、俺は幸せ者だなぁ。兄弟でこんな奇跡、起きるなんて思わなかった。たとえ今だけだって、凄く幸せ。
 
「律、可愛い……」
「お兄ちゃん、すりすりしてたら着替えられないよう。花火始まっちゃう~」
「……ごめん」
「もう」
 
 律がぷうっと頬を膨らませて、俺の肩を引っ張った。
 
「ん」
 
 口唇に甘いキス。
 
「もうちょっと待ってて」
 
 お兄ちゃん行く前から溶けそうだ。凄いあしらわれている気がしなくもないけど、幸せだからいい。
 俺は興奮しないように気をつけながら、律の着替えを見守った。帯は俺が結んであげた。

 律の着物姿はいつ見ても可愛い。いい。凄くいい。
 俺がじいっと律を見るのはもういつものことだけど、今日は律も俺をじいっと見てた。
 俺も浴衣姿だから、物珍しいのもあるんだろうけどなんかくすぐったい。
 
「どうした?」
「お兄ちゃんはやっぱりかっこいいな、と思って」
「律がそう言ってくれるのが一番嬉しい」
 
 屈んで口唇にちゅっちゅとキスをする。
 律がそんな俺の顔を固定して、ぬるりと舌を入れてきた。
 俺は基本自分から深いキスをするのは自重しているし律も滅多にはしてこないから、こんな深いキス久しぶり……だけど、何で今。
 律の舌はちょっと小さいせいか、なんかもう、こう、くすぐったいというか、それが感じるというか。律とキスしているだけで気持ちいい俺としては、それだけでイキそうになってしまう。
 行く前から勃ってしまうのはマズイ。
 
「は、律……っ」
 
 突然のキスに戸惑い、上手く息継ぎができなくて、口唇を離された途端ぷはっと息が漏れた。
 小4の弟にキスされて息が上がってる俺。情けない……。
 
「何で急に、こんなキス」
「かっこいいお兄ちゃんがね、僕にだけこんな顔見せるのが、凄く好きなの」
 
 ……俺、どんな顔してるんだ。でも、律が好きだって言うなら、いいかなぁ。
 
「じゃ、行こうか」
「うんっ!」
 
 手をつないで夏祭り。コースはいつもと一緒。一番最後にチョコバナナ。
 今年もやっぱり射的は上手くできなくて、金魚も上手くすくえない。いつの間にか律の方が上手くなってた。
 仕方ない。俺はよく、見かけ倒しの男だって言われるし。
 何でもクールにできそうって言われるけど実際凄く不器用な訳だ……。勉強はまあ、それなりにできる。身体能力も悪くないと思う。
 スポーツテストはいいのにバスケやテニスは全滅で、苦渋を舐めた学生時代。
 ドリブルをしながら上手く走れないし、テニスでホームランを打ってしまう。
 律的には……というか、これくらいの年齢の弟っていうのはそういうもんだろうけど、とにかく兄は何でもできて凄いというイメージを抱いてるもんだと思う。
 この年代は歳の差の恩恵が凄く大きい。だから、当たり前なんだ。兄という存在はたいていは自分にできないことをやってのける。
 去年までは律もあんまりできなかったから問題なかった。
 でも、今年は自分でできたことで、俺が相当不器用だということがばれてしまった……。
 というか、俺にできない、だから凄く難しいと思っていた律は、自分ができたことに驚いていた。
 
「周りが凄い上手いだけかと思ってたけど、実はお兄ちゃんって結構不器用だったんだね」

 ……金魚の一匹くらいならなんとかすくえるんだけどな。まあ運だけど。
 
「人間誰しも、得手不得手があってね」
「えてふえて?」
「得意なことと、苦手なこと」
「じゃあお兄ちゃんは、こういうのが苦手なんだ」
「ま、まあ」
 
 指先を使うことは全般……。
 
 射的で律が取ったのは、キャラメルだった。
 今日見てたけど、律は結構器用そうだ。ただ、まだ身体が小さいから上手く撃てない。
 成長してったら俺より何でもできるようになるんだろうな……。
 でもそんな律もきっとかっこよくて可愛くて、いいな。
 
「はい、お兄ちゃん」
 
 律がキャラメルをくれる。
 
「ん、ありがとう」
 
 手を差し出すと、さっとキャラメルを引っ込められた。
 
「それじゃダメ」
「え? なんかごっこ台詞みたいの吐いた方がいい?」
「そうじゃなくて、お口開けて?」
 
 確かによく見れば、フィルムが剥がされている。
 そ、そんな、人前で……バカップルすぎる。
 とか、ないか。誰がどう見たって仲睦まじい兄弟だ。
 律がもうちょっと育っていたら話はまた別だけど、この年齢差なら微笑ましく映るだけで寒くもなんともない。
 だから俺は安心して、屈んで口を開けた。甘い味が口いっぱいに広がる。
 
「ん」
 
 律が満足気に笑って、俺の口唇にキスをした。
 ちょっ、まっ……! さすがにこれは、ダメだ!
 俺は律を小脇に抱えてその場から逃げた。




 人が少なくなった境内について、荒くなった息を吐く。
 つ、疲れた。
 
「ご、ごめん。さすがにキスはダメだよね、人前で」
「うん。さ、さすがに……。俺、捕まっちゃう……」
 
 過剰反応しすぎだ。兄弟で軽いちゅーくらいなら、なんとか……ギリギリ、セーフ……かな。おかしいとは言われるだろうけど。
 
「でも、ここでならいい? 人いないし」
 
 そりゃもう大歓迎すぎる! でも何で、こんな積極的なんだろう。嬉しいけど。うん、嬉しい……けど。
 幸せすぎて怖い。
 口の中、まだキャラメルの味。キスすると、凄く甘い。
 小さい律の口唇に何度もキスをする。
 遠くで花火の音が聞こえて、キスを止めて空を見上げた。
 律の手をぎゅっと握って、指さす。
 
「律、花火始まった」
「本当だ、綺麗」
 
 律がにこにこと笑っている。俺は花火なんかより、律に夢中になっていたい。
 でも律には俺以外のものもたくさん見て、たくさん感じて、大きく育って欲しいんだ。
 だって律はまだ子供だから。育つ上で大事なこと、いっぱい教えてあげたい。いっぱい見て欲しい。
 刷り込みのように俺だけの世界にさせて、ずうっと俺を好きでいてもらいたい気もするけど、律の幸せを誰より望んでいるから。
 そうすることで律がいつか、俺以外の人を選ぶ日がくるとしても……。
 でもそれでも、律が俺を選んでくれたとしたら、俺は今度こそ律を手放せなくなるだろうな。もうそうなってるかもしれない。
 つないだ律の手をは小さくて暖かい。隣にある体温が心地いい。
 律が身を擦り寄せるようにしてきて、ドキドキした。
 君とこうして、恋人同士として並んで花火を見られる日がくるとは思わなかった。
 兄弟としてこなしてきたこと、今度は恋人同士としてひとつずつ噛みしめていけるんだ。
 
「お兄ちゃん」
「何?」
「おんぶして」
「いいぞ、ほら」
 
 甘えてくれるのが嬉しくて、甘やかす。
 背中に背負うと律はぎゅうっと抱きついてきた。
 
「お兄ちゃんが寂しそうな顔してるから、仕方なくぎゅーしてあげる」
 
 ……気付かれてたか。
 
「おんぶされてるくせに、生意気だぞ。お兄ちゃん走っちゃうからな」
「わ、待って待って、早い!」
 
 律がきゃあきゃあと笑う。
 
「ね、このままチョコバナナ買いに行こう」
「今年はいいよ」
「どうして?」
「いろいろ、大人の事情ってやつ」
「でもお兄ちゃん、バナナ好きなのに」
 
 今年はリアルに想像しそうでホントやばいから。
 勃っちゃったら、律が判ってるだけにごまかせないだろうしなあ。
 じゃあ家に帰ったら律のバナナを……という訳にもいかないよなあ。
 
「律とこうして、花火見ていられる方が幸せだからいいんだ。キャラメルの味が口の中に残ってるのも、お外でキスできたのも嬉しかったから、それでいい」
「お兄ちゃん」
 
 後頭部にちゅっとキスをされる。そして、さっきと同じようにぎゅうっとしがみつかれた。
 
「じゃ、花火見てこのままおうち帰ろ」
「ああ」
  
 実は背中に律のがあたっていると思うだけでもう正直やばくて、限界が近い事実。ムード台無し。
 だから律くん。嬉しいけど心臓に悪いから、ぎゅーとかちゅーとかは家に帰ったらたっぷりめでお願いします。
 ホワイトコーティングバナナになってしまったら、目も当てられない。 
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