親友ポジション

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エクストラステージ

コスポジ

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「ハロウィンキャンペーン開催ッ! もちろん真美は魔女ね!」
 
 似合いすぎっす、真美さん! と誰もが思ったコンビニバイト、秋の一幕。
 
 10月の初めから31日まで、俺がバイトをするコンビニではキャンペーンと称して全員の仮装が義務づけられる。見目のいいバイトが集まっている我が店舗は毎年客からの評判もよく、売り上げにかなり貢献しているんだとか。
 いや待て待て。真美さんや真山くんはわかるけどさ、俺をその中に加えないでほしい、頼むから。平凡かそれ以下で、見目がいいなんて間違ってもいえないんだから。
 
「かっ、可愛いです、森下さん」

 と、香織さん。

「冬夜くん、似合うー! ね、真美と並んで写メとろっ?」

 ブレない真美さん。

「ま、まあ、悪くないんじゃないの?」

 何故かユカまで褒めてくれる。

「冬夜……オレの血を吸ってくれ!」
 
 ……真山くん。
 このバイト先で働いている人間は軒並み趣味が悪いと思う。ゼッタイに。俺の唇からはもう苦笑しか漏れない。
 
 ちなみに俺の衣装は吸血鬼。
 お客様を本当に驚かせてはいけないので、女性陣は可愛らしくフェアリーと魔女、男性陣はカッコよく狼男と吸血鬼からという無難な衣装になる。
 女が吸血鬼や狼男……いや、狼女か? をするのはともかく、男が女装させられる店舗もあるらしいから、それに比べたらまだマシか。はぁ。
 だいたいなあ、俺の吸血鬼とか狼男にこれっぽっちも迫力があるとは思えないぞ!
 
「でも、かおちゃんのフェアリーとユカちゃんの魔女もすっごくカワイイよ! 真美、吸血鬼の衣装着て二人の血を吸っちゃおうかなぁ。フフッ」
「す、吸ってくださぃぃ」
 
 それはそれで凄く似合いそうだな……。
 真美さんは女性客にも男性客にも絶大な支持を誇っているけど、やっぱり主には男性客ファンが多いから彼女の魔女コスは外せないんだろう。
 
「俺より真美さんのほうが、吸血鬼衣装もよっぽど似合うよ。だいたい眼鏡の吸血鬼だなんてさ。似合うはずがないじゃないか」
「そこが希少価値でいいんじゃない! 眼鏡男子が頬を染めながら吸血鬼コスプレなんてたまらないね。しかも伊達じゃなく純粋な眼鏡!」
 
 俺に眼鏡っ娘属性はないが言わんとしてることはなんとなくわかる。
 
「千里くんの狼男も似合うよね。冬夜くんの前だと犬って感じだけど」
「狼になってもオレは冬夜の忠犬だぜぇ?」
「真山くん、君ね……何を言ってるんだよ、まったく」
 
 でも正直、猫耳も可愛かったけど狼の扮装をした真山くんも可愛くてヤバイ。吸血鬼と違って犬耳と尻尾をつけただけっていうお手軽コスなんだけど。本当、俺が本物の吸血鬼だったら間違いなく血を吸ってるよ。さすがは俺の真山くん。
 ……俺も完全に色ボケしていて人のことは言えない。
 
「あ、冬夜。ちゃんと八重歯つけたか?」
「八重歯って言う、ふなっ……」
 
 唇の端を広げられて変な声が漏れた。真山くんの指が俺の粘膜を刺激して、下半身がずしりと重くなる。
 勘弁してくれよ、こんなところで。

「相変わらず二人とも、仲いーね! それ、衣装持って帰っていいから励んでみたら? でも汚さないようにねー」
「まっ、真美さんっ!?」
「冬夜、お言葉に甘えて持って帰って、妹ちゃんにも見せてやろーぜ? な?」
 
 真山くんが後ろから俺にしがみつきながら、ニコニコとそう言う。
 
「とゆーわけでぇ、真山千里、励むために借りていきます!」
「正直でよろしい!」
 
 どこまで冗談でどこから本気なんだこの二人は。
 そうか。ここは動揺するほうが怪しいってことか。
 でもこんなキワドイジョークを返せるようなスキルを持ち合わせていないし、これから先、身につくこともないだろうな……。




 とまあ、そんな感じで、俺と真山くんは衣装を借りて帰った。もちろん実家じゃなくて、俺たちの部屋へ。
 
「ああいう台詞がホイホイ出てくるのは凄いな。俺、焦っちゃってとても普通には返せないよ。実際にそういう関係だから、何か生々しいし」
「ハハッ、だよなー! 真美さんと香織さんにはオレとお前がそーゆー仲だってバレてる訳だし」
 
 ですよねー。って、実は真山くんもちょっと照れてる?
 軽く返したわけではなく、開き直っていたのか。真美さんには挿入されるほうってことまでバレてるって言ってたもんな。
 どんな話題でバレに繋がったのか気になるけど、夜勤は深夜テンションが発動するから、カマでもかけられて、うっかりもらしてしまったんだろう。
 
「まあ、実際はオレたちがナニしたかなんて、衣装を汚しでもしない限りバレないよなッ。だからさぁ、冬夜……」
「何、本当にする気満々なの?」
「ッ……お前、あんなやらしー目でオレのこと見といて、今更そんなこと言うのかよ」
「ばれてた?」
「バレバレですよ、冬夜くん。オレ、お前の視線にやられて普通のカオしてんの苦労したんだからなー」
 
 真山くんは俺の傍ににじりよってきて、拗ねたような顔できゅっと首元にしがみついてきた。甘えた感じでエロ可愛い。
 
「だって狼な真山くん可愛いくってさー」
「馬鹿、カッコイイだろ。カッコイイ」
「俺にとっては可愛い。猫の日にニャンニャンしてくれたこと思い出すし」
「なんだよ。冬夜は狼より猫のが好きかー?」
「いや、狼さんを逆に食べてしまうのも、なんかこう、そそられるというか」
 
 本当に、血でも吸いたくなる。そうしたら永遠に、俺のモノになってくれるのかな。なんてね。

 狼耳と尻尾をつけたまま、ベッドへころんと寝転がる真山くん。
 俺が手を伸ばしてその喉に牙を甘く突き立てるのを、待ち侘びている。嫌がる様子は微塵もない。

「真山くん……」
 
 覆いかぶさるようにして喉を甘く噛んで舐めると、身体がぴくりと跳ねて震えた。舌をあてた場所が顫動する。生きているからこその反応に、胸が踊った。
 俺に血を吸われたいって、望んでるんだ。俺がそう思うように、君も……絶対的なモノがほしいと思っている。だって君の存在は曖昧だから。
 ハロウィンの仮装だなんて、よくあるコスプレに縋るなんて馬鹿げた話だよな。でも俺は、ごっこであっても儀式のように、思えてしまうんだ。
 
「か、噛んで……」
「え?」
「血が出るくらい、強く噛んでくれよ。冬夜に、オレの血、飲んでほしい」
 
 それほどまでに、俺を求めてくれているとわかって、下半身が硬く張り詰める。
 っ……ただでさえいろんなところが盛り上がってる時に、その台詞は卑怯すぎるだろ!
 飢えて、血を飲まなければ本当に死んでしまうような気分になって、俺は彼の望むまま、牙を立てて血を啜った。
 絶対に痛いはずなのに、真山くんは目の端に涙を浮かべながら幸せそうな顔をする。俺のモノになれたのが嬉しいって、そんな顔。
 そういえば初めてセックスした時も、確かこんな表情をしてたっけ。
 
「俺ばかり、君のことを傷つけてるね」
「もっと、つけろよ……」
「じゃあ君も、俺にして?」
 
 喉を晒してねだると、真山くんは怯えたように首を振った。
 
「噛まなくていいから。吸うだけ」
 
 俺の言葉に、おずおずと指を伸ばして甘く吸ってくれた。ちりりとした痛みさえない、むず痒いだけの口づけ。
 ……跡、残してほしかったんだけどな。でもぬるりとした温かさは気持ちいいし、ジンとくる。
 
「ん……ッ」
「冬夜、オレ、もう……」
「これだけで我慢できなくなったんだ? 仕方ないなあ」
「る、るせー。お前だってもう、ギンギンだろっ!」
「わっ、そんなガシッと掴むなよ! そうだけどさ!」
 
 少しくらいはこう、言葉責めとか鬼畜な感じとか、やってみたかったのに。せっかくのコスプレなんだし。
 
「それ、本当に似合ってるぜ。いくらでも、血を吸われたくなる」
「……じゃあさ、真山くんは、俺の背中にツメを立ててよ。ね?」
「だからオレは」
 
 言葉の続きをキスで塞いで、その日はいつもより激しく貪った。
 こんな、首に歯型なんて残しちゃって、真山くんはどう言い訳するんだろうな?
 舐めた血の味は、どこかほの甘かった。
 
 
 
 
 俺の決死の責めが効いたのか、はたまたコスプレ効果か。その日真山くんは初めて俺の身体に傷跡を残した。
 背中に、軽く引っかいたような痛みもないくらいのものなんだけど。
 多分本人はそれに気づいてない。ヤりすぎてぐったりしてる真山くんにそれを告げるのは今は酷な気もする。だからこれは、俺だけの秘密。
 君がしたイタズラは、もう少しだけ俺の胸にしまっておこう。
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