親友ポジション

used

文字の大きさ
上 下
31 / 50
ステージ7

親友ポジション

しおりを挟む
 やたらと片づいた部屋からは、真山くんの気配も匂いもすべて消えている。
 毛布はクリーニングにでも出したかのように綺麗で、まるでこの部屋に誰も住んでいなかったみたいだ。
 でも……今までのことが夢じゃないのは、携帯に残った真山くんのアドレスと、何より俺がこの部屋にいることで証明されている。
 ただ、彼の姿だけが、なかった。
 
 どうして。どうしてだよ。なんで、俺の前からいなくなるんだよ。
 千里って……何度も呼べって言ったくせに。
 俺、まだ……ほとんど呼んでないよ。
 
 こんなエンディング、望んでなかった。
 君が傍にいなきゃ、幸せになんてなれない。
 
 ……そうだ。ゲーム。あのゲームをもう一度起動すれば、もしかして……。
 俺は、転げるようにして家へと帰った。
 
 
 
 
 ただいまを言う間も惜しく、部屋へ駆け上がる。
 クローゼットに入れたノーパソを引っ張り出して、ケーブルをコンセントにさして、電源を入れた。
 お決まりの起動音に苛々する。早く、早くゲームアイコンをクリックさせてくれ。
 マイコンピュータを開いて、ドライブに入れてあるCDをクリック。ゲームは、拾ってきた時と同じように、立ち上がった。
 
「……っ」
 
 あの時は、画面にたくさんの女の子がいた。タイトルはなかった。
 今は……ゲームに、タイトルがついている。
 
【親友ポジション】
 
 そのタイトル画面に映っているのは……俺の、部屋だ。
 表示されるスタートボタンを、勢いよくクリックした。
 
 画面の中に、真山くんの姿はない。けど、文章は、ゲームのように表示されていく。
 
『……こいつがオレの主人公か。冴えねぇなぁ……』
『でも、流されやすいとこはいいな』
『結構素直で、可愛いかも』
 
 これ……会った当時の、真山くんが……思ってたこと?
 真山くん視点で進んでく……。まるで、ゲームみたいだ。
 
 少し気恥ずかしいけど……俺は食い入るように画面を見ていた。
 毎日すべてが表示される訳じゃない。ゲームでイベントが起こるように、断片的に表示されていく。真山くんが印象的だと思った出来事だけ、表示されているのかもしれない。
 
『起きてられる時間短くなってんな……。オレ、いつまでこっちの世界にいられるんだろう』
『オレじゃダメだ。オレは親友じゃなきゃ……。オレがいなくなったことでへこむあいつを、誰が慰めるんだ? そんなの、彼女しかいないだろ』
 
 ……真山くん、だから……親友じゃなきゃ、ダメだって……。
 涙が溢れて止まらない。バイトで疲れているから大学へ来ないんだと思っていたけど、もしかすると実際は、バイトをしている間しか、起きていられなかったのかもしれない。
 真山くんは、どんな想いで俺の隣に立っていたんだろう。 
 
『冬夜、ごめんな、オレ……』
 
 何に対しての謝罪かはわからなかった。ゲームはそこで動かなくなった。
 ハッピーエンドとも、バッドエンドとも出ていない。
 ただ、画面が真っ黒くなって、しばらくすると再びタイトル画面へ戻る。
 俺はそれを、繰り返し何度も再生した。何度も同じものが流れるだけだった。
 
「……真山くん」
 
 画面を見ながら、泣き続けた。
 いくら泣いてもゲームを繰り返しても、真山くんは現れない。
 元々壊れかけていたノートPCは、熱で熱くなりすぎて電源が落ちてしまった。
 その日は涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いて眠った。大学は休もうと思った。
 
 
 
 
 朝……。悪あがきで、真山くんがいなくなったのは夢なんじゃないかって、メールを送信した。
 やっぱり、宛先不明で戻ってきた。当然、真山くんからのメールがきていることもない。
 ……そういえば、見てなかったけど、ユカと香織さんからメールがきてたっけ。読む気になれないけど……。
 本来なら香織さんには、真山くんと上手くいったよ! と笑って報告メールをしたいところなのに。
 
 再びもそもそとベッドの中に潜り込んだ瞬間、携帯に着信がきた。
 
「真山くんっ!?」
 
 俺は通話ボタンを押して、開口一番そう言っていた。
 
『ハズレ。真美だよ。真山くんが外国へ行っちゃって寂しがってるだろうと思って電話してみたの。バイトはちゃんと、出られそう?』
 
 ……外国……。そういう、ことになってるんだ。
 
 真山くんは人の記憶から消えたりしている訳じゃない。
 なかったことにはならず、ただ、その存在だけがここにない。
 
「……はい、大丈夫です」
 
 大丈夫じゃなかったけど、バイト先へ行ったら真山くんが現れるようなそんな気がして、俺はそう答えていた。
 
『真美ならいつでも慰めてあげるからね! バイト、赤い目して出ないようにね』
「はい……」
 
 通話はそこで終わった。
  
 赤い目……。すでに腫れぼったい気がする。
 俺は机の上にある鏡を取って、覗いてみた。
 ……ああ、うん。これは……アウトだな。
 
 机の上には真山くんがくれたイヤリングが光っている。
 そういえば……こっちの世界に傷跡は残せない、みたいなこと言ってたっけ……。
 俺を抱く、抱かないの時も、少しも傷つけたくない……みたいに言って。それも、関係してたのかな。
 
 何が傷跡を残せない、だよ。俺の心にこんな大きな傷を残していって、よくそんなことが言えたものだと思う。
 
 いっそのこと、本当に俺に傷を残してくれたらよかったのに。抱かれておけばよかったかも。ピアス開けて、コンタクトにして……。少しでも、君がこの世界にいた証が、残るように……。
 
「っ……」
 
 また、涙が溢れてきた。
 真美さんすいません。目薬はさしていきますけど、俺、真っ赤な目で接客をすることになりそうです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弟を好きになりました

used
BL
初めは逆っぽいがキッチリ弟×兄。 5歳×17歳から始まる恋愛話。育っていく物語ですがエロいことは弟がショタな段階でありますので注意。 兄はショタコンではないが割りと末期。 弟が育つまではそこはかとない犯罪臭が……。 でも誘い受けじゃないです。弟は可愛い系だけど無邪気に男前。シリアスだったりギャグだったり。

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

処理中です...