親友ポジション

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ステージ2

バッドエンドでいいです

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 友達って……休日は、一緒に何をするものなんだろう。
 羨ましくぼんやり見ている時期は終わってしまったので、小学校の頃サッカーをやるクラスメイトを眺めていた記憶しかない。
 でも、少なくとも、友人を簀巻きにして、人のPCを勝手に閲覧っていうのは遊びとは違うんじゃないかと思う。というかこれ、いじめだよね!? 友人じゃないよね!?
 
「ちょ、ちょ……っと、マジで勘弁してください」
 
 俺、半べそ。当たり前だ、PCの中には個人情報がたっぷり。プライベートたっぷり、俺の嫁もたくさん。
 それを覗かれるというのは、丸裸どころか臓物まで見られているのと同じようなものだ。
 
「あー、あー。ええっと、お前ロリコン? 確かにこれは、三次元にゃなかなか手を出せねーな。犯罪だもん」
「ほっといてくれぇええ」
 
 いっそ殺せ。
 いいじゃないか、現実で手を出さないんだ。画面の中の可愛い、小学生に見えるしランドセル背負ってるけど十八歳以上である彼女たちと、イチャイチャしているだけなんだ。誰にも迷惑かけていない。
 
「これがストライクゾーンとすると、妹も少し育ちすぎなのか、なるほど」
 
 妹にこれを見られたら舌噛んで死ぬ。
 ただでさえ、たまに毛虫でも見るような目つきで見られるというのに。
 
「ところで、妹と血がつながってないってことは、親同士の再婚? お前、父親側?」
「は、母親だけど?」
「そうか。じゃあ……だめえっ、主人が帰ってきちゃう! 貴方は義理とはいえ息子なのよ! な展開はナシだな……。それ以前に年齢的な面で無理か。お前ロリコンだもんなあ」
「…………」
「待てよ。近親相姦って手も」
「ない、ないから!」
「それはさすがに冗談だ。オレはお前にハッピーライフを送ってほしいからな」
 
 助かった……。どこからどこまでが冗談なのかわからない。
 言ってしまえば、存在自体が冗談みたいな奴だし。
 
「さて、それじゃ出かけるか」
「どこに……」
「お前の服を買いに行く」
「お金ないし、服を買いに行く服がない」
「何テンプレ的な台詞吐いてんだ。ジャージでいいだろ。お金がないならバイトしようぜ。そこからロマンスが生まれることもある」
 
 一日ゆっくりギャルゲーをやるはずだったのに。新しい嫁を攻略する予定だったのに、なんだってこんなことになってるんだ。死にたい。
 真山くんは俺の簀巻きをといた。ごろごろ転がされた。目が回った。真山くんは笑っていた。
 ……俺は笑えないぞ、ちくしょう。
 
「はぁはぁ……。出かける前から、死にそうだ」
「なんだよ。体力ねぇなあ! 先生を見習え!」
 
 どっちかというと精神力のほうがすり減っているような気がします、先生。
 
「……ってか、何、先生って……」
「恋愛の先生。オレ様プロフェッショナルだからな。とりあえずお前は、全体的なステータスを上げなければいかん!」
「わあ、凄い。ビジュアルノベルじゃなく、シミュレーションゲーム的なものを作ろうとしていたんですね。バッドエンドでいいです」 
「馬鹿野郎! やる前から諦めるな! 確実に1キャラごと攻略していくんだ!」
 
 何股かけさせるつもりだ。現実世界でそれやったら、確実にバッドエンドでは……。そもそも、現実世界で俺になびいてくれる女の子が、一人だっているとは思えないし。
 そこは真山くんの中では、ステータスを上げれば大丈夫な部分なんだろうけど、ちょっと鏡の前でかっこつけただけでルックスがよくなったり、ちょっと跳び箱をやったくらいで運動神経がよくなったりはしないんだぞ。ゲームじゃないんだから。
 
「んで、とりあえずステータスな。俺が来た時点で運の良さはマックスだとして」
 
 いや小数点以下です。ついでにヒットポイントとマジックポイントももう0に近いです。
 
「見た目は非常に重要だ」
「……わかりますけど」
 
 ギャグならギャグで困るけど、急に真面目なノリに戻られるとそれはそれで困る。現実を思い知らされるというか……。
 真山くんはティーシャツにジーンズにジャケットだけで決まってみえる。ピアスをいくつかつけた耳。金に近い茶色の髪。目はぱっちりしていて睫も長い、歩いているだけでモデルにスカウトされそうないわゆる美形。
 素材から違うのはわかってる。素材が足りない場合はあとから合成していかなきゃいけないというのも、わかる。
 でも、君の隣で、ジャージ着て歩く男の身にもなってみろよ。つらすぎるよ。
 
「せめて着替えますから、ちょっと待っててください」
「そうそう。素直になっておけばいいんだよ。帰りは何か食べていこーぜ」
 
 しかも今日はどこへ行くにも全部俺の奢りじゃないか……。服を買うお金とかはいいとして。いや、よくないけど。
 
「あとさ、女の子の好感度知りたかったら、オレに聞いてくれよ」
「好感度……? そんな、ゲームみたいな」
「だってオレ、ゲームキャラだもん。わかるようにできてんの。お前に対象攻略キャラクターの好感度を教えるのがオレの役目」
 
 こ、好感度がわかるとか、ファンタジーだ。真山くんが現れた時点で充分そうなんだけど、こうして話していると本当に人間と変わらないから、凄く変な感じがする。
 
「もしかして、妹を攻略キャラに認定したなら、妹のもわかる……とか?」
 
 クローゼットからシャツを引っ張り出しつつ尋ねると、真山くんが黙り込んだ。
 
「…………世の中には知らなくていいこともあるよな、うん」
 
 今聞いてくれって言ったばっかりなのに。
 それに答えるのが君の役目なんじゃないのか? と思わずにはいられなかったけど、言っていることはわかるし言われたら言われたで確かにへこみそうだったから、それ以上追求するのはやめておいた。
 
「これからだよ、これから。オレが絶対、お前にハッピーエンドを見せてやるから」
「はいはい。俺は三次元には興味ないから、本当に無駄ですよ」
 
 そもそも、妹の好感度だって、兄として知りたかっただけで恋愛云々は関係ない。関係ないんだ。
 
「お前身体細いなー。オレの腕の中すっぽり入りそう。まずはここから鍛えないとな」
 
 言われるほど細くない。ゲームやりながら食べたり飲んだりしてるから、筋肉ないだけでポチャポチャしてる。
 ランニングシャツを脱いだら丸わかりだ。脱ぐ必要はないからいいけど。
 大体すっぽり入るほど、体格に差があるもんか。人のこと細いっていうけど、真山くんのほうが俺より細い気がする。
 
「あ、でも二の腕は結構ぽちゃっと……」
「ちょっ、さわらないでください! 男同士で変なフラグ立ててどうするんですか!」
「フラグ! ちょっと乗り気になってきたな?」
「なってない。なってないから」
 
 しまった、つい口がすべった。
 俺まで影響されて、現実世界とゲームの境目がごっちゃになってきそうだ。
 それにしても、男が着替えているところをジッと見て何が楽しいのか。……というか、これはきっと俺の身体つきをチェックしているに違いない。そしてきっと、すべてにダメ出しされている。トランクスはダサくても、見えない部分だからセーフか?
 
「着替え終わりましたよ」
「うし。そんじゃ、行こっか」
 
 真山くんが大きく伸びをする。
 絶対にファッションチェックとかされて、コーディネート云々言い出すと思っていたから拍子抜けした。
 まあ、ジャージでもいいと言っていたくらいだしな。これから服を買いに行って、そこでいろいろ言われるんだろう。
 目立つような格好はしないけど、俺は別にそこまでオタク丸出しのファッションじゃない。眼鏡も分厚くないから、外したら実は美形とかそんな展開も待っていない。
 だからいくら服装を変えたところで、これが俺……? みたいな劇的な展開はありえない。
 だから今日は、普通に友達と服を買いに行くと、それくらいの気構えでいいだろう。
 ただ、この美形な男の引き立て役になるのかと思えば、少し……いや、凄く憂鬱だった。欲しくもない服を買わなくちゃいけないことも含め。
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