銀色の噛み痕

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結婚しようよ

2話目(R15

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 借りた部屋は村の規模にしてはそれなりに小綺麗で広く、リゼルも満足そうにしていた。サイズを確認するように四隅を歩き回るのはいつもと変わらない。そして僕はその様子を見るたびにホッコリする。今日はさっきの男の子……ミシェルくんを見て、昔を思い出したから、よけいに。

「よし。まずは毛玉の名前を決めるか」
「そうだね」

 やっぱり、まずはそこだよな。子どもに純粋な目で名前を訊かれ、答えられなかった時の気まずさは半端なかった。
 それによくよく考えて、毛玉って呼び続けていたのも、酷いと思う、我ながら……。

「もうモフモフでいいだろ」
「えーっ!? 君、自分の武器の名前を決める時は3日もかけたのに!?」
「で、でもなあ。なんか今更感もあるし」
「もうちょっと愛情を示そうよ。僕らの子かもしれないのに」
「だとしても今はただの毛玉だぜ」

 赤ちゃんだって、お腹の中にいるうちから名前を決めておくものじゃないかな。少なくとも、僕の友人であるコイズは100は名前の案を決めていた。そこまでしろとは言わないけど、もうちょっとさぁ。
 まあ、この毛玉がきちんと生き物の形を取るかどうか、今はまだわからないから無理もないのかな……。

「悪かったよ。だから、そんな顔すんなって」
「ん……」

 ギュッと抱きしめて機嫌をとるなんて、手慣れてきた感があってなんか嫌だ。反省してなさそうなのも。

「オレはシアンを親代わりにしてた時期もあっただろ。そのせいか、どうしても複雑になんだよ。シアン、そいつばっか可愛がるし」

 そんな気持ちでいるのかなあとは思ってたけど、本当にそんな気持ちでいたのか。可愛い……。
 僕のリゼルへの想いは確かに息子に向けるような感情もある。でも、ツガイになって身体まで繋げている関係上、僕は僕で複雑な気持ちになる。いけないことをしているような気持ちというか。

「さっきのガキにもデレデレしてたし」
「し、してない。またそんな、誤解を招くようなことを」
「誤解っていうか、シアン、マジで小さい子が好きだったりしないよな? おっきくなったオレはもうダメか?」

 まさかリゼル、本気で言ってる……?
 それとも……ミシェルくんがリゼルに似てたからって、僕、そんな目で見ちゃってたとか?
 いやいや、それはない。僕はノーマルだ。リゼルとこうなることきも、凄い葛藤があったし。

「僕は大きくても小さくても、リゼルが好きだよ」
「ホント? オレのこと、一番好き?」
「うん。一番好き」

 こういう、こういうさ。大きくなったくせに、可愛らしく甘えてくるの、本当に狡い。

「良かった。オレも、オトーサンが一番好き」
「オトッ……、そ、それやめてよ」
「どして?」

 親子として暮らした時だって、一度もそう呼んだことはなかったくせに。
 ……呼ばれたくなかったと言えば嘘になる。きっと感動して泣いてしまったろうなとも。でも、今はもうダメだ。

 それにいつもと口調も違う。普段はこんな甘ったるく話しかけてこない。大体はどこか、とぼけたような喋り方をする。

「それより名前。そう、名前を決めよう」

 盾にするように毛玉を顔のあたりに掲げると、リゼルはそれに構わずグイグイと近づいてきた。

「それより親子のスキンシップがしたいな。オトーサン」
「だ、だから……」

 モフモフは手から奪われたあと空中に放り出され、フワッと浮いた。僕はそのままベッドへ押し倒された。

「そういうプレイ、本当に嫌だからやめて、リゼル」
「プレイって?」
「うっ……」

 そこですっとぼけるのか! 絶対にわかってやってるだろ。

「まあ……。オレも、これ以上は呼ぶの、やめとく。シアンが本当にそんな気になっちまったら困るし」

 リゼルはそう言って、僕の胸に甘えるように鼻先を擦りつけた。

「今更、子どもだと思われんのもヤダしな」

 なら言わなきゃいいのに。
 ……今更、そうは思えないし。いや、思ってもいるのかな……。どのみち、底が見えないほど愛おしいから、自分でもよくわかってないところがある。

「リゼルは、僕の大事なツガイだよ」

 愛が伝わるように髪と頬にそっとキスをして身体を撫でる。
 満足気に鼻を鳴らすリゼルが可愛くて、ギュッと抱きしめた。

 でも。だからって、シテいいって許可を出したわけじゃないから、服の下を堂々とまさぐってこないでほしい。
 リゼルは盛り上がってしまったらしく、尻尾をブンブン振るかのような勢いで服を剥ぎながら身体を舐めてくる。

「ッ……。ちょっと待って、まだ……」
「誘ったのはシアンなのに、ここでオアズケするのか?」

 そんなつもりはなかったけど、思い返すと僕の行動はそう捉えられてもしかたない。
 でも宿をとったばかりだし、オトーサンとか呼ばれたあとだし、リゼルの少年時代を思い出していたから、する気にはなれない。なのにスルなんて、身体でごまかしてるみたいな気もするし、甘やかしてばかりなのもいけない。うん。ここは、毅然とした態度でッ!

「い、今は、オトーサンの気分になっちゃったから……。ダメ」
「っ……。煽ったの、シアンだからな」
「えっ!? な、なんっ……、リゼルっ!」

 本当にそんな気になったら困るとか言ってたくせに、また耳元でお父さんって囁かれて、お腹のあたりを噛まれた。

「あ……。そこ……ッ」
「オレが初めてココ噛んだ時、シアン、発情したんだろ? まだ親子だったのに」

 ゾクゾクッと背筋が粟立った。責められてるようにも感じる。
 ダメって言ったのに、噛むなんて。しかも、僕のせいにするなんて。
 そもそも親子だった時も、リゼルが噛まなければこんな……。

 とろけだす身体を押さえつけるようにして、リゼルが奥深くに指を沈み込ませてくる。

「はぁ、は……。はァ……。ヤダッて、言ったのに……」
「シアンのヤダは、誘ってるようにしか聴こえない」
「そ、そんな……」
「最後はオレを欲しがるしな」

 リゼルの体液は僕にとって媚薬のようなもの。
 もちろん、それだけで抱かれてるわけじゃない。僕がリゼルを欲しい気持ちもちゃんとある。

 あと、リゼルが言ったように……。まだ親子だった時に、彼の指を想い一人で致した負い目のようなものがあるから、迫られるとどうしても弱い。

「子どものオレとどんなふうにスルの想像して、エロイことしたんだ?」

 でもさすがにこれは、酷すぎる。傷口に塩を塗り込むような子に育てた覚えはない。そしてますます、リゼルが子どもだった時を意識させられて、中にある指を締め付けた。
 馬鹿。本当、僕の身体欲望に忠実すぎる。

「あっ、や……。やめて」
「ここまできたら、もうやめられないくせに」
「ッ……! リゼル!」

 欲しいよ。欲しくてたまらないよ。でも、今はそれ以上に怒ってる。
 リゼルもようやく僕が本気で嫌がってることに気づいたのか、そこで初めてオロオロし始めた。

「シ、シアン……。オレのこと嫌いになるか? 毛玉とか、ミシェルのが良くなるか?」

 可愛すぎて狡いでしょ。ただでさえ身体がリゼルを欲しくてたまんない時に、そんな可愛い台詞は狡すぎる。

「だから……。リゼルが、一番……好きだって」
「あとでいっぱい、ゴメンナサイするから。だから今は、シアンの身体落ち着けるの、手伝わせてくれ」
「……あとでいっぱい、怒るからね」
「ウン」

 今のゴメンナサイで、全部許してしまったことは内緒にしておく。僕はどこまでもリゼルに甘い。
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