銀色の噛み痕

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4章

赤い爪痕(R18

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 美味しい夕飯をいただき、広いお風呂に入って、広いベッドで眠る。なんという贅沢。これがすべて厚意によるものだとは……。お金を払いたくなるレベルだ。

 だからってわけじゃないけど、夕飯時、リゼルの話に屈託なく笑うエリスちゃんを見て、やっぱり足を治してあげたいと思った。
 でも本当に僕の力でなんとかなるものなんだろうか。

「夕飯、美味しかったなー」

 リゼルは僕の隣で寝転びながら、自分のお腹を擦っている。

 基本的にお腹さえ満たされてしまえば機嫌が良くなるし、悩みも吹っ飛ぶ。そんなリゼルの姿に、僕はいつでも励まされてきた。
 愛らしくて、見てるだけで幸せな気分になる。

 たまらずギューっと抱きしめると、リゼルは嬉しそうにクスクスと笑った。

「ご飯美味しいし、シアンは傍にいるし、何も言うことないな」

 僕も同じ気持ち。でもそれだけでは生活していけないのも、また事実。生きるには色々と、お金がいる。
 冬で薬草が不足しているとかで、かなり色をつけてもらえたのは幸いだった。

「なあ。次の街に行くまで、じーちゃんの世話になるのはどうかな?」
「いや、それはちょっと……」

 気づいたらじーちゃんとか呼んでいて、さっきは焦った。
 シトレさんが嬉しそうにしていたからいいものの。

「でもさ、オレはともかくシアンはほら……人の心を豊かにする、絵画みたいなものなんだろ? いてくれるだけで嬉しいんじゃないか?」
「たとえそうだとしても、居候状態になるのは僕の胃にくるんだよ……。それに……」
「それに?」

 長くお世話になってたら、シトレさんがリゼルを孫娘の婿にと言い出しそうだから。とは言えない。
 それにエリスちゃんだって、リゼルに惚れるに違いない。
 カッコよくって可愛くって強くって、惚れないはずがない。

 前まではそれを、うちの息子は世界一! って自慢に思ってるだけだったんだけどなぁ。

「……それに、僕たちは一応追われてる身だし……迷惑がかかると申し訳ない」
「確かに、そうだな」

 ああー。悲しい顔をさせてごめん、リゼル。

「オレがいなければ、シアンも村を出ることには……」
「でも、こんなに幸せな気持ちになることも、なかった」
「オレといて、幸せ?」
「幸せだよ。それに僕たちは、その……ツガイなんだから、一緒にいるのが当然だろ?」
「シアン……」

 リゼルが僕を抱きしめ返して、鼻先を擦り寄せてくる。

「そうだな。ツガイなんだから、オレはシアンといていいんだ」
「うん」
「なんか、ドキドキして……ソワソワする」
「僕も」

 自然と唇が重なった。柔らかい触れるだけのキスから、深いものへと。

「はぁ……。ん、んむ……。苦し……」
「あ、ゴメン……。夢中になりすぎた」

 息が上がる僕のオデコに、リゼルがチュッとキスをする。

「明日も薬草、積みに行こうな? オレもまた手伝うから」
「ん……」

 でもたくさん売ったから、査定額は今日より安くなるかもな……。
 そしてこんなに熱いキスをかわしてなお、ただ隣り合って眠るだけという健全っぷり。

 まあ、拒んだのは僕なんだけどさ、君、色々したいんじゃなかったの? と、思わないでもないっていうかさ。
 結局……僕は、したいのかな。このままでも、幸せなのに……それでも、足りないと思ってしまうのは……。もっと深くに、リゼルを感じたいから?

 ぐるぐる考えながら、その日はいつもと同じように優しい眠りについた。




 そして夜が明けた。と、なるはずだった。
 けど……深夜、僕は切羽詰まったような声のリゼルに起こされた。

「シアン、起きて! 起きてくれ!」
「ふぇ……? えぇ……? 何かあったの?」

 寝惚けていて、変な声が漏れた。ヨダレは出てない。セーフだ。
 念のため口元を拭ってから目を擦って目を開けると、リゼルが僕の服を掴んでゆすゆすと揺さぶっていた。

 焦ったような顔をしているけど、周囲に異常はなさそう。
 僕よりリゼルのほうが気配にはずっと敏感だから、念の為に息をひそめて神経を張り巡らした。

「オレ、わかったから!」
「わかった……? 何が……?」
「シアンの言ってた、違いってやつが」

 起き抜けで頭が働かないからか、リゼルが何を言っているかまったくわからない。

「ちょ、ちょっと待って。順を追って説明して……」
「えっと、だから……なんか、眠れなくて。シアンの寝顔ジーッとしてたら、ドキドキが強くなってきて、食べたくなって……。でもそれ、いつもとなんか、違う感じで……。シアンに色々、したくなった。とにかくもう、くっつきたくてたまんないんだ」

 僕の身体のほうは、いつもと変わらない。
 これはリゼルが自発的に、僕を欲しいと思ってくれてる……?

 ようやく、身体的な面でも大人になったってことなのかな。
 なんで急にとは思わないでもないけど、村を出てツガイになって、僕が……ゆ、誘惑みたいなことまでしてしまって、そんな環境がリゼルをきちんとオトナにしたのかもしれない。

「あっ。あと、今更なんだけど、シアンがベッドわけようかって言った意味もわかった。一緒に寝てるだけでムズムズする……」

 リゼルは恥ずかしそうに、膝を抱えた。足先がキュッとシーツを掴んでいる。
 きっとここは、本来なら性について教える場面だった。
 今からする行為も似たようなものかもしれないけれど。

「なあ、なあ、この前みたいにしていい? シアンが眠いのわかってんだけど、我慢できない」

 噛みつかんばかりの勢いでグイグイと迫られて、頬が熱くなる。
 
「お、落ち着いて。逃げないから」
「うん。でも……はああー……」

 くっつきたくてたまらないという言葉通り、全身を僕に擦り寄せてくる。
 押し当てられてる……。ガチガチだ。一緒に寝てただけで、こんなになるんだ……。

「タオルだけ敷かせて。この前、シーツが酷いことになったし」
「ウン……」

 返事だけはイイコなのに、ベッドから降りようとする僕の腰にしがみついている。
 服がめくれたお腹に唇を寄せられて、僕は慌てて間に手のひらを挟んだ。

「今日は噛むのはダメ!」
「なんでだよ。ドロドロになったシアンが見たい」

 拗ねて唇を尖らせるリゼル。
 ……察してくれてもいいのに。言うのが恥ずかしい。

「その。あんな流されるような感じじゃなくて、ちゃんと……したいから。僕の意思で、君に……されたい……」

 リゼルがすること全部、覚えていたい。少しも見逃したくない。
 身構えられてしまいそうで、後半は言えなかった。

 お腹を押さえた手のひらにリゼルが唇を重ねる。
 噛まれることはなかったけど、丁寧に舐められた。

「あ、リゼル……ッ」

 舌が指先の隙間を這い、お腹を掠める。くすぐったいより先に、ぞわぞわとしたものが込み上げてくる。
 
「あまり味しないな」
「お風呂に入ったし……。あ、待っ……タオル……って」

 身体中を舌が這う。味が濃い場所を確かめでもするように。

「あ、あ……ッ……。んんッ」

 いつもは何をされても、食欲にしか思えないのに。
 今日は味見するような行為に、情欲を感じる。リゼルが僕を欲しがっているとわかる。

 気づけば服を脱がされて、股の間に顔を埋められていた。
 前ならともかくまさか後ろを舐められるなんて思わなかった。

「や、ヤダ! リゼル、どこ舐めて……ッ!」
「ここが一番、シアンの味がわかる気がする」
「ッ……! ……な、なに、な……ッ、何言って……!」

 恥ずかしさのあまり呂律が回らない。
 舐めるだけではなく、更にはリゼルの長い舌が僕の中に侵入してきた。

「あっ、嘘……! ん……、や、やぁ……、やっ、あ……」

 ぬるぬると壁を擦られて、抜き差しされて舌先でキューッと押される。それは何度も何度も僕の中を往復し、反応を示した場所は特に念入りに舐められた。

 リゼルこれ、何をするかわかって、してる……?
 男同士のやり方なんて、知らないと思ってた。
 いや……。これは、むしろ、本能か。繋がるのに必要なことだけしている気がする。

「あ……。うう……。り、リゼル。逃げないから、そんなに……したら、嫌だよ。もっとゆっくり……。ゆっくり、しよ」
「ゆっくり?」
「そう。楽しむんだよ」
「とっても楽しい!」

 元気なお返事に、肩を落としそうになってしまった。
 実際、とても楽しそうではある。視線が肉食獣のようでなければ、無邪気に見えるほど。

「そうじゃなくて。僕にも触らせてほしいってこと」

 良かった。ようやく止まってくれた。間髪入れずにあのまま突っ込まれるかと思った。
 リゼル、勃ってる時は身体に見合わぬ立派な大きさだから……。大惨事だ……。

「そっか。オレだけ楽しいんじゃダメだよな」
「まあ……。僕はリゼルが気持ちよければいいとも思ってるけどね」
「シアンも気持ちよくないとやだ」
「うん。リゼルならそう言ってくれるかなって」

 まずはリゼルの服を脱がせる。さすがに空気を読んだのか、今日はバンザーイってしてこなかった。
 僕だけ丸裸にしておいて自分は着たままとか、よほど余裕がなかったんだろう。それだけ僕を欲しがってくれたんだと思うと嬉しさもある。

 素肌同士を合わせると、それだけで気持ちいい。
 お互いの体温を感じながら、僕はリゼルの頭を撫でた。

 リゼルは手のひらを気持ち良さそうに享受し、そのまま僕の手をとって頬に擦り付けた。そして指先を甘く噛んで、舐めて、啜る。

 ……ああ、そうか。これ、昨日は僕がねだったことだ。
 リゼルは食べてしまいそうで怖いからと、それを拒んだ。
 今日はそれを、してくれてる……。
 僕が望んだことをしたいというリゼルの気持ちに、胸がきゅうっとなった。

 今度は指先を僕の性器に絡ませて、ゆっくりと擦ってくる。
 ぎこちなさが、少し消えてる。気持ちいいけど今日は理性が飛んでない分、動けるだけの余裕があった。
 僕はそっとリゼルの背を抱いて、身体を密着させた。

「こうやって、リゼルの……僕のと一緒に擦って……」

 また一方的にされるだけになりそうだったから、僕も手を重ねる。
 お互いのモノが触れ合うと、それだけでゾクゾクとした快感が駆け上った。

「シアン、これ、すっげー気持ちい……」
「ん……うん」

 荒い息遣いが部屋に響く。リゼルは手を動かすだけでなく、グイグイと身体を押し付けてくるので、気づけばそのまま後ろに倒されていた。

「シアンのが、おっきーな……」
「あ、あまり比べないで。どうせすぐ、リゼルのが大きくなるよ……」

 それを考えれば、まだ小さな頃に受け入れられるのは僕のお尻的には安心だったかもしれない。

「なあ。手じゃなくて、腰……動かしたい。この前みたいに、押し付けて擦ってもいいか? ここに……擦りつけて」
「ッあ、あ……ッ! も、もう、擦ってるじゃないか……! あ、やだ、リゼル、激しいって……!」

 強く揺さぶられて、シーツを手繰り寄せる。何かに掴まってないと、ベッドから落ちそうだった。

「ん……ん、んんッ……」

 ギシギシとベッドが軋む音が生々しい。粘ついた水音も耳を灼く。

「シアン、気持ちいい顔してる」
「はぁ……。ん、気持ちぃ……」

 嫌と言ってしまうのをこらえて、快感だけ伝える。
 本当に嫌なわけではないし、何度も言うとリゼルが気にしそうだったから。
 ゆっくりって言ったのに。と思わないでもなかったけど。

 リゼルの動きは荒々しくて、ともすれば痛みを感じそうだった。
 なのに嘘みたいに気持ちいいだけなのは、愛のなせる技なのか、リゼルが人ではないからか。
 僕が拒まないとわかると、今度は膝裏に手を入れて腿に挟むようにして擦ってきた。
 こんなの……本当にしてるみたいだし、滑って入りそ……。

 後ろに、押し当てられる感触。

「え、待っ……リゼル!」
「あ。入っちゃった……」
「嘘! ほ、ほんとに……入ってる……」

 リゼルが僕の膝を持ち上げているものだから、少し身を起こしたら結合部が見えた。そこはリゼルのモノをしっかりと咥え込んでいた。
 物凄い圧迫感はあるけれど痛みはまったくない。

 こんな……。物理的に無理みたいな大きさのものが、お尻に入ってるのに……。リゼル、のが……入って……。
 意識した途端、思わず中を締め付けてしまった。

「んん……ッ。シアン、それ、気持ちいい……」
「や、待って、動かさないで……!」

 ぐちゅぐちゅと凄い音がする。確かにぬるぬるだったけど、それだけでこんなに簡単に入ってしまうものだろうか。
 しかも痛くなくて、気持ちよくて、身体がとけそうになる。

「リゼル……。リゼルゥ……」

 助けを求めるように背に腕を回し、何度も名前を呼ぶ。
 怖かった。気持ちいいし、このままじゃ理性が飛んで、この前みたいになる。気が狂いそうなくらい、気持ちよくなるかもしれない。

 ダメだ。中に出されたら。でも、出してほしい。リゼルが欲しい。
 身体が欲している。リゼルの子を孕むことなんて、できないのに。

「シアン、可愛い。オレのだ。全部……オレの。嬉しい」

 リゼルが息を荒げながら、僕の肌を吸い上げてくる。
 硬いものが何度も抜き差しされる感覚が、脳に焼きついていく。覚え込まされる。
 僕からも何かしたいのに受け入れるのでいっぱいいっぱいだ。
 
 突き上げられるたびにトロトロになっていく。
 こんなの、リゼルが相手じゃないと無理だ。身体の全部、明け渡すような行為……。
 掠れた甘い自分の声が遠い。あまり聞かせたくないけど、リゼルが嬉しそうな顔をするのが可愛くて、素直に喘いだ。

 食いつくすような視線で、リゼルが僕を見る。中がリゼルを求めて締め付けるのが、自分でもわかった。

「シアン、も……、出る……。いい? 中、出していい?」
「うん……」

 どうなったっていい。ただ欲しくてたまらない。
 もう身体の中で受け止めることしか考えられなくなっていた。

 熱が中に吐き出される。注ぎ込まれる感覚は想像以上にリアルで、吸収していくような感じがした。
 凄い、幸せだ。だけど……。また、お腹を噛まれた時みたいになったら……。

「んッ!? え、うわっ!」

 でも悲鳴を上げたのは、リゼルのほうだった。
 狼の姿にこそ戻らなかったけど、耳と尻尾が思い切り出ている。
 顔も真っ赤で、慌てたように僕から飛び退いた。

「し、心臓、バクバクするー……!」
「えっ!? 大丈夫、リゼル!」

 リゼルはコクコクと頷いた。具合が悪そうな感じじゃない。
 僕が思わず耳をモフったら、服従でもするようにお腹を晒してシーツの上にひっくり返ってしまった。

「シアンは? シアンはなんともないの?」
「うん。むしろ……。凄いスッキリしてる。やっぱりリゼルが満足すると、平気になる気がする」

 リゼルのを中に出された途端、すっごい気持ちよくて……。
 僕のほうは射精はこそしなかったけど、いつもより、ずっと満足できた。

「……やっとわかった。ソレ、増幅されたシアンの魔力、オレが食べてるんだ。昨日もそうだったもん」

 つまり、僕のほうは溜まってしまって出せない魔力をリゼルが食べてくれるからスッキリするってことなんだろうか。

 それにしても……。リゼル、何もかもさらけ出しすぎ。可愛らしいお腹が僕を誘う。これは撫でてって言ってるようなもの。
 でも結構、ちゃんと腹筋ある……。

「はぁ、あ……あー。触ったらダメかも……」
「でもリゼル、気持ち良さそうにしてるけど」
「気持ちいんだけど、んー……ハァ……。なんか、クラクラする」

 酔ってるみたいになってる。

「僕、別で寝たほうがいいかな」
「やだ。一緒に寝る」

 キューンと鼻を鳴らして、擦り寄ってきた。可愛すぎて、今度は僕のほうがクラクラした。

「一瞬ビックリしたけど、シアンの近くにいると落ち着く気がする。とけあうみたいな感じ」
「ほんと? 良かった……」
「シーツも、そんなに汚れなくて済んだな」

 そういえば、結局タオルを敷けていなかった。
 リゼルのが垂れてきたらマズイと思ってお尻を押さえたけど、何か出てくる様子はない。少しぬるぬるしてるだけ。
 き、吸収……しちゃったのかな。

 あんなに大きなのが、あっさり入っちゃうし……。
 人体の神秘というよりは、リゼルが銀色の魔物だからだろうか。

「でもマズイな。シアンの魔力が更に高くなったとしたら、おかしなヤツに目をつけられたりとかするかも」
「高く……なったのかな? 自分ではあまり、わからないな」
「うーん。オレにも、わからないからなあ」

 リゼルが確認するように、僕の匂いを嗅ぐ。
 今ので汗をかいてしまったから、少し恥ずかしい。

「はぁ……。シアンの匂い、大好き……」

 狼耳がピクピクと動いている。触ると耳がぺたーんと伏せられて、気持ち良さそうに目を細めた。尻尾も千切れるんじゃないかってくらい振ってる。

「あっ。今度はちゃんと味もする」
「リゼル!」

 汗を舐め取るように、舌が身体を這っていく。
 責めるように名前を呼んだけど、堂々としたもので止める気配はない。
 しかも舐めながらテンションが上がってきたのか、グイグイと押され、そのままベッドに縫いとめられてしまった。
 僕がリゼルの力に勝てるわけがない。容赦のない舌遣いが熱を煽っていく。

「だから、そこ吸っても出ないってば……」
「男は大人になってもオッパイが好きなもんだって言ってた。オレもシアンの好き」

 昨日吸われた時は子猫がミルクを飲むみたいで可愛いと思っていたのに、やることをやったあとだからか、いやらしく感じる。

「今日もあんまり、色々できなかったから、舐めたい。ダメか?」
「だ……ダメじゃあ、ないけど……」

 結局僕はリゼルに甘く、望むなら際限なく許してしまう。
 舌で乳首を転がして、丁寧に先を擦る。かと思えば音がするくらいちゅうちゅうと吸い上げてきて、腰が疼いた。

「んッ……。リゼル、もう……」
「シアン。オレ、またしたいぃ……」
「ええっ? 具合悪そうにしてただろ。ダメだよ」

 僕は性欲が薄いけど、不感症というわけじゃない。
 リゼルにあんなやらしい舌遣いで乳首を吸われ、身体はそれなりにその気にもなっていたけど……。
 さっきまでクラクラすると言っていたリゼルに、これ以上のことをさせる気にはなれなかった。

「さっきは食べすぎたみたいになってたけど、なんか、クセになるんだよ。もっと食べたいってなる。中毒性がある」

 僕は薬か何かか。

「うーん……そうだなあ」

 再び乳首に吸い付いてしまったリゼルの両頬を手のひらで揉み込む。

「リゼルが平気だって言うなら、する?」
「えっ!?」

 何故か酷く驚かれた。
 もしかして本気だったわけじゃなくて、甘えてただけとか?

「シアン、こういうこと、あまりオレとしたくないんだと思ってた」
「思ってたのに、したいって言ったの……」
「だってオレが何度も甘えたら、シアン、最後には許してくれちゃうだろ?」

 わかってやってるだろうとは思ってたけど、わかってやってた。
 リゼルはな、イイコに見えても割合に強引だからな。
 出会い自体がお前オレの親になれだったし……。
 親になれとか言っておいて、結局はこんなことまでしてくるし……。

 リゼルが不安にならないように一方的なものではないのだと言葉で伝えてきたつもりだから、したくないと思われていたのは些か心外だった。
 昼間に嫌がるような素振りを見せてしまったのがいけなかったのか。

「許す、とかじゃなくて。ちゃんと僕もしたいと思ってるから安心して。本当に……リゼルがまだ幼くて躊躇ってた……それ以上の理由はないから」

 そしてその躊躇いは、一度してしまったことでなくなった。

 まあ、あとは、こ……怖かったなんていう情けない理由もあるわけなんだけど、それはカッコ悪いから内緒にしとく。

「ホントか? シアンもちゃんとオレとしたい?」

 ここまで喜ばれると、逆にそれだけ不安にさせてたのかって、申し訳なくなってくるな……。でも、また凄い尻尾振ってて可愛い。

「僕はリゼルのことが、大好きだからね」
「し、シアンー!! オレも好き。ホント大好き! 身体全部食べたい。骨まで残さず食べたいッ!」

 やっぱり銀色の魔物的にはそこに行き着くのかー……。と思いながら、僕に噛みつこうとするリゼルを見守った。
 それはもう、生贄の子羊のような心境で。

 ところがリゼルは襲いかかる直前でピタッと止まり、オアズケをされた犬みたいな表情になった。

「あ……だ、だけど、シアン……身体のほうは平気なのか?」

 限界そうなのに、それでも僕の身体を気遣ってくれるのか。

 正直僕も、絶対に痛いことになるだろうとか、次の日は歩けなくなるかも……という覚悟をしていた。
 でも蓋を開けてみれば体調はかえっていいくらいだし、腰も尻も痛くない。
 リゼルとのセックスは本当に、ただただ気持ちいいだけだった。
 今までは仕方なく処理する感じだったのに……僕のほうこそ、クセになりそう。

「えっと……うーん……」

 我慢する顔が可愛くて、つい焦らすと、やっぱりダメ? ダメなのかな? って顔になって、尻尾もしゅーんと下がっていくのを見て、胸の奥がきゅうっとした。

「うん、平気だよ」
「ホントか? 無理してない? 間があったぞ」
「……ふふ。ゴメンね。リゼルが可愛かったから、つい」
「なんだよそれ。じ、じゃあ、ホントに……して、いいのか?」
「うん。僕も……したいよ」

 宥めるようにキスをすると、リゼルはようやくお許しが出たとばかりに、僕を押し倒してきた。

 まだ慣れないから、さっきと同じように挿れて出すだけみたいなセックスだったけど、気持ちが良かったし幸せだったし、そのぎこちなさすら愛おしいっていうか。

 僕はいい歳をして初めてだったのだけれど、初めてが君で良かったと思ったし、最後も君がいい。君しかいらない。

 その日僕はリゼルの背中に、噛み痕ではなく爪痕を残した。
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