甘すぎるのも悪くない

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先輩視点の番外編

逆転劇

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 せっかく俺が遊びにきたっていうのに、後輩くんは床に座り込みベッドに背をもたれさせて、携帯をいじって遊んでいる。
 まあ、先にこれ読ませてと、ベッドの上で週刊誌を読みだしたのは俺のほうだけどさ。
 
「後輩くん、さっきから何をやってるんだ?」
「携帯アプリです。友達が面白いからやってみろって」
 
 異議ありとか待ったとか聞こえてくる。
 
「どんなゲームなんだ?」
「えっと……。アドベンチャーっていうのかな。裁判のゲームなんですけど、こう、テキストが流れて、相手の証言に矛盾点が現れたところで異議を唱えると、話が進む感じの……」
 
 画面を見せてくれた。凄く綺麗だ。俺はあまりゲームをやらないが、最近のはスマホでも普通のゲーム機みたいに綺麗なんだな。
 
「不利な状況から逆転していくところがとても面白いんですよ。先輩ならあっという間にクリアしちゃうだろうな」
「ふーん……」
 
 後輩くんは画面に目を戻し、何回かスイスイと操作したあとで、上を向いた。ベッドへ頭を乗せているから、顔が自然俺の目の前にくる。
 
「先輩も、おれがピンチの時には助けてくれますか? 一発逆転劇、得意そうです」
「そうだなあ。どうかな、俺、後輩くんの困った顔、割りと好きだからな」
「なんですか、それ」
 
 俺の言葉に怒る様子はなく、くすくすと笑ってスマホを置いた。代わりに手を伸ばして、俺の髪を下から撫でてくる。どうやらゲームをやめて俺を構う気になったらしい。
 
「おれが逮捕されて犯罪者になっちゃったら、キスもできなくなるんですよ?」
「出所してくるまでずっと待っててやるよ。お前が働かなくても済むくらい、すげー稼げるようになっててやる」
「それはプロポーズみたいで嬉しいけど、なんか複雑」
「じゃあ、捕まるようなヘマはしないことだな」
「……そうですね」
 
 唇が重なる。ねっとりとしたキスに、息が上がる。
 後輩くん、キス上手くなったよな。俺のキスの仕方、すっかり覚えてる。
 見た目は優等生なカワイコちゃんだってのに、反則だぜ。
 
「ん、んっ……」
 
 舌を噛まれてぞくりとした。快感だけじゃなく、恐怖にも身が竦む。噛むのやめろっていつも言ってんのに……。
 指先が下からシャツのボタンを外していく。はだけた胸元をなぞられて、俺はあっさりと快楽に落ちてしまう。
 絶対そうとは見せないが、俺は快楽には弱いほうだ。あえて平気な顔をして、後輩くんをベッドの下から引き上げる。
 
「するか?」
「はい」
 
 嬉しそうに、俺の身体に乗り上げてくる。
 男にのしかかられる日がくるなんて、本当思わなかったよな。すっかり慣れてる自分が怖い。
 
「おれは、先輩がピンチになったら、どんな時でも助けに行きますからね」
「はは。頼りにしてるよ、後輩くん」
 
 後輩くんは俺の頬にキスを落としながら、そっと耳を舐めて囁いた。
 
「まあ……。先輩がピンチの時なんて、そうですね……きっと、おれが何かしようとした時に、違いないですけど」
「何かって、たとえば?」
 
 駆け引きめいた台詞は嫌いじゃない。笑いながらそう尋ねると、後輩くんも同じように笑顔を返してきた。
 満面の笑み。こういう表情の後輩くんには嫌な予感しかしない。……聞かなきゃよかった。
 
「おれが犯罪者になっちゃう可能性があるようなこと、ですかね」
 
 さっき俺のシャツを外していた指先が、首を緩く締め付ける。痛くも苦しくもないが、後輩くんが笑顔のままなのは、ちょっと怖い。
 あー……。俺、いつか一回くらいは、後輩くんに誤解とかで、刺されそうだなー……。
 俺は元々執着心が薄いほうだから、お前の強い感情を羨ましく思うこともある。そこに惹かれているとも言えるし、それに。
 
「俺も、そうかもしれないぜ? 浮気、するなよな」
 
 お前に関してだけは、似たようなもんかなとも思う。
 ただ、素直にそれを見せないだけで。
 俺に浮気の予定はないからな、早々犯罪者になんかにさせないさ。逆転劇も必要ないぜ、後輩くん。
 万が一お前が俺を刺したとしたら、犯罪者にさせる前に潔く死んでやろうじゃないか。
 
「せ、先輩っ……!」
「っ……がっつくなって」
 
 性急に俺の身体をまさぐるこの手のひらは、どんなことがあろうとも最後の一瞬まで俺のもの。 
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