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イエロー
黒幕とドラゴン
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更衣室は地下へ降りたところに、女性用、男性用が向かい合わせにある。その近くにクリーニングされた制服がしまわれているクローゼット、少し奥にトイレだ。
男子更衣室は扉が閉まってたけど、凍ってなかった。他の扉はすべて入れないようになっている。まるで、誘導されているみたいだ。
「あからさますぎるな。罠っぽいというか。でもまあ開けるか」
もっと話し合ったりとかしたかったのに、赤城さんは無策で思い切りよくドアを開けた。途端、小さな氷の粒がザラザラと物凄い量、雪崩れ出てくる。
「パチンコみてーだな」
「ちょ、埋もれる、埋もれますって!」
僕は青山さんを庇うように後退した。扉をも埋めつくすように、細かい氷の山。中に入ることは当然できない。
「掻き出すか。この氷を作ったやつが潜んでる可能性は高いだろ。前回は爆弾を手のひらから出すような敵だったし」
「確かに……。黄原の話によれば、調理場の氷が消えたと言うし、爆弾よりはまだ有り得る話だ」
こんな中に入ってったら遭難しそうなんだけど。パワースーツを着てる赤城さんや、シールドの使える青山さんはともかく。
「待て。足音だ」
カツン、カツンと、階段を降りる音が聴こえてくる。桃くんが駆けつけたのかとも思ったけど、足音的にはもう少し重そうだ。
敵だろうか。ここは地下で、逃げ場はない。迎え撃つと言っても、僕と青山さんは変身できず、赤城さんの攻撃は物理でしかないらしい。
ただ、幸いなのは足音からしてどうやら人間っぽいこと。人数でいえば、有利ではある……。
僕らの前に姿を現したのはホストが着るような白いスーツを着て、金色の仮面を被った男だった。
「お前、シロじゃねーのか?」
「背格好が似過ぎだな。髪の色も」
「でも変装だとしたら、いくらなんでもお粗末すぎません? シロさんて髪の色とか瞳の色も変えられるんでしょ? それが仮面って……」
「こういうお約束が好きなヤツなんだよ」
赤城さんもなんかちょっと楽しそうだけど。
「ボス役を兼ねてダブル主演でも気取るつもりか?」
「……私はシロではない。おめでたいヤツらだ」
声はシロさんのものではなかった。でも、声も変えられそうだから根拠はそんなにない。
「なら倒すまでだ。その趣味の悪い仮面、ひっぺがしてやる!」
赤城さんが走り出す。意外と好戦的だ。せっかくの戦いなのに、僕の足は動かない。肉弾戦はそんなに得意ではないし、変身してないなら足手まといだろう。
こんなの望んでなんかいなかった。見てるだけ……なんて!
「レッド、頑張れ!」
「おうよ!」
青山さんの応援虚しく、蹴りは綺麗にかわされ、逆に足首を掴まれ床に叩きつけられた。
「全滅させてやりたいところだが、5人揃うまでは殺せないことになってるからな。せいぜいが痛めつけるくらいか」
「ぐあっ!」
「赤城さん!」
倒れた赤城さんの腹を、仮面の男が思い切り踏み潰す。
殺せない? 嘘だろ? 普通に死にそうなんだけど、あれ。
それに5人揃うまでは殺せない『ことになってる』って……。
「チュートリアルってことかよ……」
赤城さんがボソリと呟いた。敵がそんなルール、守る必要があるとは思えない。赤城さんがシロさんに疑念を抱く気持ちがよくわかる。すべてが茶番なのではないかと。
むしろ僕は、茶番であってくれたほうが楽しくて嬉しいけど。僕が好きなのは戦いではなく、オカルトなので。
ただ、単なるごっこ遊びにしては、これはやりすぎだ。赤城さんは腹に足をめり込まされて本当に苦しそうにしているし、僕だってさっき寒さで死ぬかと思った。いや、今も寒いし。
それとも……殺せないけど不慮の事故で死ぬのは構わないみたいな、ルールの穴でもあるのか。
「そっちの2人はかかってこないのか? 仲間が苦しんでるというのに……」
「オレには……。身を挺してまでレッドを助ける義理はないというか……殺されるわけでないなら尚更……」
青山さんは中々ゲス……。足蹴にされてるのが桃くんだったら、きっと死ぬ気で飛びかかったろうな。
「…………お前、いい仲間を持ったな」
「クソっ、アオ、てめぇぇ! あとで絶対に犯してやる」
赤城さんは赤城さんでとてもお茶の間には流せないような台詞を吐いている。こんなヒーロー、子どもが泣いてしまう。
「キイ、なんとかしろ。お前ならできる! 戦闘にも積極的だったろ!?」
「えっ。いや、でもそれは」
僕にも、何か力が使えると、思ってたからで。地力的な強さに関してはあまり自信がないというか。せめてヒーロースーツがきちんと着られていたなら。
「黄原、君はどんな能力を使いたいと思ってた? オレもモモくんも、一応本人にあった感じのものになっている。だからおそらく、君も」
僕が使いたい力。それは超能力だ。空を飛んだり物を動かしたり。
想像しながら氷の粒に念を送ってみるけどピクリともしなくて悲しくなってきた。何度も試してみては、ああやっぱりな、となるあの感覚。
「う、グッ……」
「殺さないとしても、死ぬギリギリまで痛めつけることはできるからな。ヒーローを辞めたいと思うくらい嬲ってやろう」
僕と青山さんが立ち竦む中、赤城さんだけが敵からの攻撃を喰らっている。もう反撃する気力もないらしく、腹に沈む足を力のこもってなさそうな手で掴んでいるだけ。
次は僕の番かもしれない。それとも青山さんの?
ああ、ダメだ、なんとか……。今ここで、僕がなんとかしなくっちゃ。
「必殺技名だ。キイ。今こそ、叫ぶんだ!」
「ッ……! そ、そんなこと言ったって、急には! い、イエロービーム!」
しょ、小学生か! 死にたい! もちろんそんなの出ないし!
赤城さんがブハッと噴き出した。足蹴にされてるくせにずいぶんと余裕がある。敵は無言だ。無反応だ。何がくるか身構えてるって様子でもない。青山さんのほうは怖くて見られなかった。
そこにはただ、無があった。
ごめん、もうせめて誰か笑ってほしい。それか、技が遅れて発動してほしい。耐えられない。
敵は無言のまま赤城さんの腹から足を引くと、何事もなかったかのように背を向けて去っていった。
……いや、せめて、何か……。こんな場面で黙して語らずって、ありなのそれ。
「は、腹が……痛い」
「あっ! 赤城さん、大丈夫ですか!?」
「笑いをこらえすぎて……腹が痛い」
もう死ねばいいのに。しかもこらえきれずに噴き出したくせに。
「って、あんなに強く踏まれてる様子だったのに、ずいぶんと余裕がありますね」
「オレの応援の効果だと思う。大袈裟に痛がっていたのは、フリだろう」
「ああ。あの野郎、殺さないって言ってたからな。かといって俺も痛いのは嫌だから、向こうが満足するような反応をしてみせたんだ。アオ、よく気づいたな」
青山さんはゲスじゃなかったのか。あんな状況でも、きちんと赤城さんの演技を見抜いていたんだな。
「いや。あの時は普通に、助けを求めるほど苦しいのかと思っていたが」
そんなこともなかった。
「……本当、おま……。あとで覚えてろよ」
赤城さんは青山さんを睨みながら腹をさすった。あんなことを言ってたけど、やっぱりそれなりに痛かったのかもしれない。
「でも、どうしてアッサリ立ち去ったんでしょう」
「それはお前、あれだ。笑いそうだったからだろ」
「もうソレむしかえさないでください」
青山さんが慰めるように、僕の頭を撫でてくれた。その優しさが今はつらい。
「弱すぎて戦う気が失せたというのはあるかもしれないな。あの場で戦う意志があったのはレッドだけだ」
「いたぶる価値もないって思われたんだろうな。今の俺たちは、せいぜいその程度ってことか。特にお前らな、お前ら!」
「応援はしてやっただろうが……」
僕だって戦えるなら、戦いたかった。敵を前にしても、なお使えない力ってどうなんだよ。変身もできないままだし。
「それより、どうするんですか? 敵が逃げてしまったら、僕らはずっとここから出られないんじゃ……」
「いや。これがまだチュートリアルってことなら、ミッションクリアに必要な敵はアイツじゃない。さっさとあの氷、掻き出そうぜ」
……でも、また新しい敵が出てきたとして、僕らでどうにかなるものなのかな。
「ほら、そんな顔すんな! 多分なんとかなるようにできてんだ。多分」
た、多分って二度言うしぃ……。
「大丈夫だ黄原。オレも前回、コレ無理死ぬと、何度も思った。でもなんとかなったからな」
「でも……。それは、変身できてたからでしょ?」
あの氷を掻き出した部屋の中には何がいるのか。気にならないわけじゃない。それに、ずっとこのままというわけにもいかない。だけど、怖かった。シロさんによく似た背格好の敵ひとり、3人がかりで倒せない。特に何か凄い力を使われたわけでもないのにだ。我ながらチキンすぎてびっくりだよ。いざとなったら、もっと戦えると思ってた。でも足は床に縫い止められたように動かなかった。僕は道端で不良に絡まれてる女の子を見ても、勇気が出なくて素通りするタイプだ。そんなのが正義のヒーローを気取るなんて笑ってしまう。
赤城さんだってきっと僕のこと『あんなに戦いを楽しみにしてたくせにコレかよ』って、内心思ってるんだろうな。
「変身できないと言っても、見えないだけで着てはいる。時が止まった空間の中でなら、おそらく黄原も何かの力を使えるはずだ」
ビームは出なかったけど……。
「それはオレも思ってた。応援もシールドも使えたしな。だからどんな能力かわかっていないだけで、すでに発動してる可能性もある。たとえばこの空間は君が作り上げたものだとか」
「えっ、この氷とか? ないない、ないです、そんなの!」
「何故言い切れる? 幻覚を見せる力なのかもしれない。オカルトなことが起きてほしい。そう願ったから、怪奇現象が起きた幻を見ている……というのはどうだ?」
「そんな……」
確かにそう願ったし、僕が山中に襲われてる時は助けるように氷が落ちてきた。でも僕がそう望んだというなら、とっくに変身できてるだろうし、凄い力も使えていると思う。
「でもよ、これがキイの能力だってんなら時が止まってるのはおかしいぜ。それすら幻覚というのは無理がある。俺は店の外から来たんだ。いくらなんでも広範囲すぎる」
「お前の存在が幻だという可能性があるだろう」
「おい、勝手に人を幻にすんな!」
「冗談だ。黄原が作り出したにしては、あまりにも赤城すぎる」
「レッドと呼べ、レッドと!」
「周りに人もいないのに、そんなところにこだわるあたりとかな」
「うるせーよ! うっかりを無くすためだ、こだわりじゃねーよ!」
この2人自体が幻だとか、そもそもここが夢の中とかだったらどうしよう。……まあ、凍りついてから向こう、夢であってほしい出来事ばかりなんだけど。アレとかソレとか。
「まあ、今のはたとえ話だが……。君はそういう不思議なことが好きなんだろう? その答えが、あの部屋の中にあるかもしれないんだぞ。行ってみたいとは思わないのか?」
「い……行ってみたいです!」
僕がそう叫んだ途端、部屋から溢れ出ていた氷がザッと消えた。
「え!? ま、まさか本当に……僕が!?」
「マジかよ……。幻だったのか、俺……」
「とりあえずレッドの幻に先陣を切ってもらって更衣室へ突入しよう」
この人たちはどこまで本気で言ってるんだろう。でもなんか僕もこれが現実であるのか夢の中なのか自信がなくなってきた。もはや哲学的な話になりそうだ。突き詰めるのはやめておこう。今は今だ。
「よし、それじゃ行くぞ。静かだし、そう危険なこともなさそうだが……」
赤城さんは文句も言わず、真っ先に部屋の中へ足を踏み入れた。僕らもあとに続く。部屋の中にはロッカーが並ぶ見慣れた光景があったけれど、ただ部屋の中央に大きな氷の塊があった。
何か……氷の中に、入ってる。
「イグアナ……か?」
「いやこれ、ドラゴンじゃねーか? 小せえけど」
「ど、ドラゴンッ……」
ファンタジー世界すぎる。えっ、こ、これも、科学……? 機械でできてたり? やっぱり幻?
「イエローの能力、魔物使い的なものだったりしてな」
確かに従えられたら凄い楽しそうではあるけど、僕としてはもっとこう、超能力的なものがよかった。
「普通に考えれば敵なのでは。ドラゴンは大体、敵。オレでもそれくらいは知っている」
「そんなことねーよ。マスコットキャラクターとしちゃ、ありがちだ。抱えられるサイズなんておあつらえむきだぞ」
「そういうものなのか……」
「でも、氷が融けたら襲ってくるとかありませんか?」
恐る恐る触ってみる。冷たい。中のドラゴンは凍りついていて動かない。銀色のウロコ。目は閉じてる。どんな瞳の色をしてるんだろう。シルバードラゴン……。カッコイイ。
「氷漬けのマンモスならぬ、ドラゴンか。コイツを倒すか助けるかでミッションクリアって可能性が高いな」
「この事件は司令官さんの話によれば、敵が盗んだ機械で起こしてることなんだろう? 救出することでミッションクリアというのはおかしくないか?」
「……5人揃うまでは筋書き通りに進めなきゃならん制約とかがあんだろ。しんねーけど」
半ば投げやりに赤城さんが言う。まあ、訊かれたって困るってことだよな。赤城さんだってシロさんを疑ってるわけだし。こうなってくると本当に怪しすぎだけど……。ただ、その制約、どれだけ命の保障がされているのかは気になるところだ。
僕は本当にこのドラゴンみたいに氷漬けになって死ぬかもって思ったし、普通に怖かった。
「触っても融けませんね」
「応援してみよう」
「……やっぱり、融けた先から凍りつきます」
倒すにしろ、助けるにしろ、その方法もわからない。まずは氷を融かしてみないことには。
「俺も触ってみよう」
「……レッドが触れた途端、なんか、氷が厚くなった気がするんですけど」
「なんでだよ! 炎の力とかないのかよ、レッドなのに!」
「とりあえずお前はどいていろ」
「ちっ」
赤城さんは拗ねて、僕らの少し後ろにどっかりと腰を下ろしてしまった。手伝う気が失せたらしい。
まあ……。ドラゴンが襲ってきたとしたら、それこそ先陣切ってもらうことになるだろうし、今は休んでいてもらったほうがいいか。
「黄原以外がコレに触れるとダメなのかもしれないな」
青山さんが僕の肩にソッと触れた。
「距離が近いほうが、応援の効果が高いと思う」
「そ、そうなんですね」
なんだかドキドキしてきた。顔は近いし、息も耳にかかる。触れられたところが熱い。その熱が指先まで伝わっているのか、氷が融けてきた気がする。でもやっぱり、凍る速度のほうがやや速い。
「一応、アオも触ってみたらどうだ?」
「オレが触ってもどうにもならないと思うが……」
青山さんが氷に触れると、何故か僕の心臓のほうがドクンと跳ねた。
え。なんだ。感情が別の場所にあるみたいな、この感覚は。
氷にヒビが入る高い音。わたあめに水がかかったように、塊がドロドロと融けていく。
「ッ、な、なんだこれ。触っただけなのに」
「きっかけは絶対にキイだと思ったのに、まさかのアオか」
いや、でもコレ僕にも関係してる。確かに青山さんが触ったから融けたんだろうけど……。どう説明していいか、わからない。上手い答えが見つからない。
「あ……」
氷が融けきる。ドラゴンは羽ばたいてもいないのに、宙に浮いたままだ。濡れたメタリックなボディはやや青みがかって見えた。
「さて。敵か、味方か」
「……敵じゃ、ないです」
「わかんのか、キイ」
「わからないことだらけだけど、それだけはわかります。敵じゃない……」
ドラゴンはパッチリと目を開けて、ピィィと鳥のように甲高く囀った。深い綺麗なエメラルドの瞳。
そのままこちらへ飛んで……きたかと思ったら、僕を素通りして青山さんにヒシッとしがみついた。
「わっ。なんでオレに……」
受け止めた青山さんが戸惑いつつも腕に抱きしめると、そのまま嬉しそうに大人しくなった。
「へぇ。見た目カッコイイのに、結構なつこいんだな」
そう言いながら赤城さんが触ろうとしたら、ドラゴンは嫌がって暴れた。それどころかめちゃくちゃ威嚇している。小型だけれども、その迫力たるや。
「はは。お前のことは嫌だってさ」
「か、可愛くねえぇ!」
「僕だったらどうかな」
恐る恐る触れてみる。赤城さんのように嫌がられはしないけど、喜びもしない。反応が鈍い。呆れられているような気もする。あと、見た目は男の子心をくすぐるんだけど、やっぱりどこか妙な感じがする。
「氷の中にいる時はイグアナみたいに見えたが、こうして見るとやや機械のような感じもするな」
「キュイー」
「ずいぶん甘えた声で鳴くなぁ、お前」
そういう青山さんの声も、とっても甘い。子どもをあやすようなトーンだ。
「あ……。周りの氷が全部融けていくぞ。いや、融けるっつうか戻るだな」
「よかった、店内が水浸しにならなくて」
ドラゴンの氷漬けが融けて水浸しになった床も、蒸発でもするかのように乾いていく。
「そいつはやっぱり消えないんだな」
赤城さんがピュイピュイご機嫌に鳴いてるドラゴンを指して言う。
「つまり、このドラゴンを助けてミッションクリア……。ってことだったんでしょうか。懐いてるのは青山さんにだし、僕の能力って結局一体……」
「まあ、帰ってシロに訊けばなんかわかるだろ。そもそもコイツがなんなのか。やっぱ単なるマスコットか」
「ピィ、キュー」
「ん、コラ、舐めるな。ははっ、くすぐったい」
ドラゴンも嬉しいと尻尾振るんだ。犬みたいだな。舐められる青山さんを、思わず凝視してしまった。
ちょっとコレは、なんか……。羨ましいような。
あっ? 懐かれててって意味で! 別に僕も舐めたいとか思ってるわけじゃなくて! って誰に言い訳してるんだか……。
「とりあえず変身は解いておくか」
「オレと黄原はテーブルへ戻らないと、食い逃げになってしまう」
「ですね。今度は僕たちの姿まで消えたって、店長が怯えているかもしれません」
「だが、このドラゴンを連れていくわけにはいかないぞ」
赤城さんに預かっててもらうしかないけど……。
僕と青山さんが視線をやると、赤城さんは勢いよく首を横に振った。
「無理無理! 絶対に噛まれる。それに、俺は用があってきたのに……」
その用っていうの、まさか山中に会うことでは。同僚に手を出すのやめてほしい、ホントに。
「すぐに行くから、少し赤城と一緒にいてくれないか?」
「キュウ……」
「青山さんが好きなら困らせちゃダメだぞ」
僕が言ってもムダかと思いつつ言ってみると、ドラゴンは素直に赤城さんの肩へ飛び移った。
今のはちょっと、僕に従ったように見えたような……?
「おっ。悪くないな、コレ。じゃ、コイツ連れて裏口のトコで待ってるから、早く来てくれよ」
肩乗りドラゴンという見栄えの良さに、赤城さんはコロッと上機嫌になる。
時が完全に動き出す前にと急いで戻ると、ちょうど店長が虫に驚いて厨房でひっくり返るタイミングだった。
男子更衣室は扉が閉まってたけど、凍ってなかった。他の扉はすべて入れないようになっている。まるで、誘導されているみたいだ。
「あからさますぎるな。罠っぽいというか。でもまあ開けるか」
もっと話し合ったりとかしたかったのに、赤城さんは無策で思い切りよくドアを開けた。途端、小さな氷の粒がザラザラと物凄い量、雪崩れ出てくる。
「パチンコみてーだな」
「ちょ、埋もれる、埋もれますって!」
僕は青山さんを庇うように後退した。扉をも埋めつくすように、細かい氷の山。中に入ることは当然できない。
「掻き出すか。この氷を作ったやつが潜んでる可能性は高いだろ。前回は爆弾を手のひらから出すような敵だったし」
「確かに……。黄原の話によれば、調理場の氷が消えたと言うし、爆弾よりはまだ有り得る話だ」
こんな中に入ってったら遭難しそうなんだけど。パワースーツを着てる赤城さんや、シールドの使える青山さんはともかく。
「待て。足音だ」
カツン、カツンと、階段を降りる音が聴こえてくる。桃くんが駆けつけたのかとも思ったけど、足音的にはもう少し重そうだ。
敵だろうか。ここは地下で、逃げ場はない。迎え撃つと言っても、僕と青山さんは変身できず、赤城さんの攻撃は物理でしかないらしい。
ただ、幸いなのは足音からしてどうやら人間っぽいこと。人数でいえば、有利ではある……。
僕らの前に姿を現したのはホストが着るような白いスーツを着て、金色の仮面を被った男だった。
「お前、シロじゃねーのか?」
「背格好が似過ぎだな。髪の色も」
「でも変装だとしたら、いくらなんでもお粗末すぎません? シロさんて髪の色とか瞳の色も変えられるんでしょ? それが仮面って……」
「こういうお約束が好きなヤツなんだよ」
赤城さんもなんかちょっと楽しそうだけど。
「ボス役を兼ねてダブル主演でも気取るつもりか?」
「……私はシロではない。おめでたいヤツらだ」
声はシロさんのものではなかった。でも、声も変えられそうだから根拠はそんなにない。
「なら倒すまでだ。その趣味の悪い仮面、ひっぺがしてやる!」
赤城さんが走り出す。意外と好戦的だ。せっかくの戦いなのに、僕の足は動かない。肉弾戦はそんなに得意ではないし、変身してないなら足手まといだろう。
こんなの望んでなんかいなかった。見てるだけ……なんて!
「レッド、頑張れ!」
「おうよ!」
青山さんの応援虚しく、蹴りは綺麗にかわされ、逆に足首を掴まれ床に叩きつけられた。
「全滅させてやりたいところだが、5人揃うまでは殺せないことになってるからな。せいぜいが痛めつけるくらいか」
「ぐあっ!」
「赤城さん!」
倒れた赤城さんの腹を、仮面の男が思い切り踏み潰す。
殺せない? 嘘だろ? 普通に死にそうなんだけど、あれ。
それに5人揃うまでは殺せない『ことになってる』って……。
「チュートリアルってことかよ……」
赤城さんがボソリと呟いた。敵がそんなルール、守る必要があるとは思えない。赤城さんがシロさんに疑念を抱く気持ちがよくわかる。すべてが茶番なのではないかと。
むしろ僕は、茶番であってくれたほうが楽しくて嬉しいけど。僕が好きなのは戦いではなく、オカルトなので。
ただ、単なるごっこ遊びにしては、これはやりすぎだ。赤城さんは腹に足をめり込まされて本当に苦しそうにしているし、僕だってさっき寒さで死ぬかと思った。いや、今も寒いし。
それとも……殺せないけど不慮の事故で死ぬのは構わないみたいな、ルールの穴でもあるのか。
「そっちの2人はかかってこないのか? 仲間が苦しんでるというのに……」
「オレには……。身を挺してまでレッドを助ける義理はないというか……殺されるわけでないなら尚更……」
青山さんは中々ゲス……。足蹴にされてるのが桃くんだったら、きっと死ぬ気で飛びかかったろうな。
「…………お前、いい仲間を持ったな」
「クソっ、アオ、てめぇぇ! あとで絶対に犯してやる」
赤城さんは赤城さんでとてもお茶の間には流せないような台詞を吐いている。こんなヒーロー、子どもが泣いてしまう。
「キイ、なんとかしろ。お前ならできる! 戦闘にも積極的だったろ!?」
「えっ。いや、でもそれは」
僕にも、何か力が使えると、思ってたからで。地力的な強さに関してはあまり自信がないというか。せめてヒーロースーツがきちんと着られていたなら。
「黄原、君はどんな能力を使いたいと思ってた? オレもモモくんも、一応本人にあった感じのものになっている。だからおそらく、君も」
僕が使いたい力。それは超能力だ。空を飛んだり物を動かしたり。
想像しながら氷の粒に念を送ってみるけどピクリともしなくて悲しくなってきた。何度も試してみては、ああやっぱりな、となるあの感覚。
「う、グッ……」
「殺さないとしても、死ぬギリギリまで痛めつけることはできるからな。ヒーローを辞めたいと思うくらい嬲ってやろう」
僕と青山さんが立ち竦む中、赤城さんだけが敵からの攻撃を喰らっている。もう反撃する気力もないらしく、腹に沈む足を力のこもってなさそうな手で掴んでいるだけ。
次は僕の番かもしれない。それとも青山さんの?
ああ、ダメだ、なんとか……。今ここで、僕がなんとかしなくっちゃ。
「必殺技名だ。キイ。今こそ、叫ぶんだ!」
「ッ……! そ、そんなこと言ったって、急には! い、イエロービーム!」
しょ、小学生か! 死にたい! もちろんそんなの出ないし!
赤城さんがブハッと噴き出した。足蹴にされてるくせにずいぶんと余裕がある。敵は無言だ。無反応だ。何がくるか身構えてるって様子でもない。青山さんのほうは怖くて見られなかった。
そこにはただ、無があった。
ごめん、もうせめて誰か笑ってほしい。それか、技が遅れて発動してほしい。耐えられない。
敵は無言のまま赤城さんの腹から足を引くと、何事もなかったかのように背を向けて去っていった。
……いや、せめて、何か……。こんな場面で黙して語らずって、ありなのそれ。
「は、腹が……痛い」
「あっ! 赤城さん、大丈夫ですか!?」
「笑いをこらえすぎて……腹が痛い」
もう死ねばいいのに。しかもこらえきれずに噴き出したくせに。
「って、あんなに強く踏まれてる様子だったのに、ずいぶんと余裕がありますね」
「オレの応援の効果だと思う。大袈裟に痛がっていたのは、フリだろう」
「ああ。あの野郎、殺さないって言ってたからな。かといって俺も痛いのは嫌だから、向こうが満足するような反応をしてみせたんだ。アオ、よく気づいたな」
青山さんはゲスじゃなかったのか。あんな状況でも、きちんと赤城さんの演技を見抜いていたんだな。
「いや。あの時は普通に、助けを求めるほど苦しいのかと思っていたが」
そんなこともなかった。
「……本当、おま……。あとで覚えてろよ」
赤城さんは青山さんを睨みながら腹をさすった。あんなことを言ってたけど、やっぱりそれなりに痛かったのかもしれない。
「でも、どうしてアッサリ立ち去ったんでしょう」
「それはお前、あれだ。笑いそうだったからだろ」
「もうソレむしかえさないでください」
青山さんが慰めるように、僕の頭を撫でてくれた。その優しさが今はつらい。
「弱すぎて戦う気が失せたというのはあるかもしれないな。あの場で戦う意志があったのはレッドだけだ」
「いたぶる価値もないって思われたんだろうな。今の俺たちは、せいぜいその程度ってことか。特にお前らな、お前ら!」
「応援はしてやっただろうが……」
僕だって戦えるなら、戦いたかった。敵を前にしても、なお使えない力ってどうなんだよ。変身もできないままだし。
「それより、どうするんですか? 敵が逃げてしまったら、僕らはずっとここから出られないんじゃ……」
「いや。これがまだチュートリアルってことなら、ミッションクリアに必要な敵はアイツじゃない。さっさとあの氷、掻き出そうぜ」
……でも、また新しい敵が出てきたとして、僕らでどうにかなるものなのかな。
「ほら、そんな顔すんな! 多分なんとかなるようにできてんだ。多分」
た、多分って二度言うしぃ……。
「大丈夫だ黄原。オレも前回、コレ無理死ぬと、何度も思った。でもなんとかなったからな」
「でも……。それは、変身できてたからでしょ?」
あの氷を掻き出した部屋の中には何がいるのか。気にならないわけじゃない。それに、ずっとこのままというわけにもいかない。だけど、怖かった。シロさんによく似た背格好の敵ひとり、3人がかりで倒せない。特に何か凄い力を使われたわけでもないのにだ。我ながらチキンすぎてびっくりだよ。いざとなったら、もっと戦えると思ってた。でも足は床に縫い止められたように動かなかった。僕は道端で不良に絡まれてる女の子を見ても、勇気が出なくて素通りするタイプだ。そんなのが正義のヒーローを気取るなんて笑ってしまう。
赤城さんだってきっと僕のこと『あんなに戦いを楽しみにしてたくせにコレかよ』って、内心思ってるんだろうな。
「変身できないと言っても、見えないだけで着てはいる。時が止まった空間の中でなら、おそらく黄原も何かの力を使えるはずだ」
ビームは出なかったけど……。
「それはオレも思ってた。応援もシールドも使えたしな。だからどんな能力かわかっていないだけで、すでに発動してる可能性もある。たとえばこの空間は君が作り上げたものだとか」
「えっ、この氷とか? ないない、ないです、そんなの!」
「何故言い切れる? 幻覚を見せる力なのかもしれない。オカルトなことが起きてほしい。そう願ったから、怪奇現象が起きた幻を見ている……というのはどうだ?」
「そんな……」
確かにそう願ったし、僕が山中に襲われてる時は助けるように氷が落ちてきた。でも僕がそう望んだというなら、とっくに変身できてるだろうし、凄い力も使えていると思う。
「でもよ、これがキイの能力だってんなら時が止まってるのはおかしいぜ。それすら幻覚というのは無理がある。俺は店の外から来たんだ。いくらなんでも広範囲すぎる」
「お前の存在が幻だという可能性があるだろう」
「おい、勝手に人を幻にすんな!」
「冗談だ。黄原が作り出したにしては、あまりにも赤城すぎる」
「レッドと呼べ、レッドと!」
「周りに人もいないのに、そんなところにこだわるあたりとかな」
「うるせーよ! うっかりを無くすためだ、こだわりじゃねーよ!」
この2人自体が幻だとか、そもそもここが夢の中とかだったらどうしよう。……まあ、凍りついてから向こう、夢であってほしい出来事ばかりなんだけど。アレとかソレとか。
「まあ、今のはたとえ話だが……。君はそういう不思議なことが好きなんだろう? その答えが、あの部屋の中にあるかもしれないんだぞ。行ってみたいとは思わないのか?」
「い……行ってみたいです!」
僕がそう叫んだ途端、部屋から溢れ出ていた氷がザッと消えた。
「え!? ま、まさか本当に……僕が!?」
「マジかよ……。幻だったのか、俺……」
「とりあえずレッドの幻に先陣を切ってもらって更衣室へ突入しよう」
この人たちはどこまで本気で言ってるんだろう。でもなんか僕もこれが現実であるのか夢の中なのか自信がなくなってきた。もはや哲学的な話になりそうだ。突き詰めるのはやめておこう。今は今だ。
「よし、それじゃ行くぞ。静かだし、そう危険なこともなさそうだが……」
赤城さんは文句も言わず、真っ先に部屋の中へ足を踏み入れた。僕らもあとに続く。部屋の中にはロッカーが並ぶ見慣れた光景があったけれど、ただ部屋の中央に大きな氷の塊があった。
何か……氷の中に、入ってる。
「イグアナ……か?」
「いやこれ、ドラゴンじゃねーか? 小せえけど」
「ど、ドラゴンッ……」
ファンタジー世界すぎる。えっ、こ、これも、科学……? 機械でできてたり? やっぱり幻?
「イエローの能力、魔物使い的なものだったりしてな」
確かに従えられたら凄い楽しそうではあるけど、僕としてはもっとこう、超能力的なものがよかった。
「普通に考えれば敵なのでは。ドラゴンは大体、敵。オレでもそれくらいは知っている」
「そんなことねーよ。マスコットキャラクターとしちゃ、ありがちだ。抱えられるサイズなんておあつらえむきだぞ」
「そういうものなのか……」
「でも、氷が融けたら襲ってくるとかありませんか?」
恐る恐る触ってみる。冷たい。中のドラゴンは凍りついていて動かない。銀色のウロコ。目は閉じてる。どんな瞳の色をしてるんだろう。シルバードラゴン……。カッコイイ。
「氷漬けのマンモスならぬ、ドラゴンか。コイツを倒すか助けるかでミッションクリアって可能性が高いな」
「この事件は司令官さんの話によれば、敵が盗んだ機械で起こしてることなんだろう? 救出することでミッションクリアというのはおかしくないか?」
「……5人揃うまでは筋書き通りに進めなきゃならん制約とかがあんだろ。しんねーけど」
半ば投げやりに赤城さんが言う。まあ、訊かれたって困るってことだよな。赤城さんだってシロさんを疑ってるわけだし。こうなってくると本当に怪しすぎだけど……。ただ、その制約、どれだけ命の保障がされているのかは気になるところだ。
僕は本当にこのドラゴンみたいに氷漬けになって死ぬかもって思ったし、普通に怖かった。
「触っても融けませんね」
「応援してみよう」
「……やっぱり、融けた先から凍りつきます」
倒すにしろ、助けるにしろ、その方法もわからない。まずは氷を融かしてみないことには。
「俺も触ってみよう」
「……レッドが触れた途端、なんか、氷が厚くなった気がするんですけど」
「なんでだよ! 炎の力とかないのかよ、レッドなのに!」
「とりあえずお前はどいていろ」
「ちっ」
赤城さんは拗ねて、僕らの少し後ろにどっかりと腰を下ろしてしまった。手伝う気が失せたらしい。
まあ……。ドラゴンが襲ってきたとしたら、それこそ先陣切ってもらうことになるだろうし、今は休んでいてもらったほうがいいか。
「黄原以外がコレに触れるとダメなのかもしれないな」
青山さんが僕の肩にソッと触れた。
「距離が近いほうが、応援の効果が高いと思う」
「そ、そうなんですね」
なんだかドキドキしてきた。顔は近いし、息も耳にかかる。触れられたところが熱い。その熱が指先まで伝わっているのか、氷が融けてきた気がする。でもやっぱり、凍る速度のほうがやや速い。
「一応、アオも触ってみたらどうだ?」
「オレが触ってもどうにもならないと思うが……」
青山さんが氷に触れると、何故か僕の心臓のほうがドクンと跳ねた。
え。なんだ。感情が別の場所にあるみたいな、この感覚は。
氷にヒビが入る高い音。わたあめに水がかかったように、塊がドロドロと融けていく。
「ッ、な、なんだこれ。触っただけなのに」
「きっかけは絶対にキイだと思ったのに、まさかのアオか」
いや、でもコレ僕にも関係してる。確かに青山さんが触ったから融けたんだろうけど……。どう説明していいか、わからない。上手い答えが見つからない。
「あ……」
氷が融けきる。ドラゴンは羽ばたいてもいないのに、宙に浮いたままだ。濡れたメタリックなボディはやや青みがかって見えた。
「さて。敵か、味方か」
「……敵じゃ、ないです」
「わかんのか、キイ」
「わからないことだらけだけど、それだけはわかります。敵じゃない……」
ドラゴンはパッチリと目を開けて、ピィィと鳥のように甲高く囀った。深い綺麗なエメラルドの瞳。
そのままこちらへ飛んで……きたかと思ったら、僕を素通りして青山さんにヒシッとしがみついた。
「わっ。なんでオレに……」
受け止めた青山さんが戸惑いつつも腕に抱きしめると、そのまま嬉しそうに大人しくなった。
「へぇ。見た目カッコイイのに、結構なつこいんだな」
そう言いながら赤城さんが触ろうとしたら、ドラゴンは嫌がって暴れた。それどころかめちゃくちゃ威嚇している。小型だけれども、その迫力たるや。
「はは。お前のことは嫌だってさ」
「か、可愛くねえぇ!」
「僕だったらどうかな」
恐る恐る触れてみる。赤城さんのように嫌がられはしないけど、喜びもしない。反応が鈍い。呆れられているような気もする。あと、見た目は男の子心をくすぐるんだけど、やっぱりどこか妙な感じがする。
「氷の中にいる時はイグアナみたいに見えたが、こうして見るとやや機械のような感じもするな」
「キュイー」
「ずいぶん甘えた声で鳴くなぁ、お前」
そういう青山さんの声も、とっても甘い。子どもをあやすようなトーンだ。
「あ……。周りの氷が全部融けていくぞ。いや、融けるっつうか戻るだな」
「よかった、店内が水浸しにならなくて」
ドラゴンの氷漬けが融けて水浸しになった床も、蒸発でもするかのように乾いていく。
「そいつはやっぱり消えないんだな」
赤城さんがピュイピュイご機嫌に鳴いてるドラゴンを指して言う。
「つまり、このドラゴンを助けてミッションクリア……。ってことだったんでしょうか。懐いてるのは青山さんにだし、僕の能力って結局一体……」
「まあ、帰ってシロに訊けばなんかわかるだろ。そもそもコイツがなんなのか。やっぱ単なるマスコットか」
「ピィ、キュー」
「ん、コラ、舐めるな。ははっ、くすぐったい」
ドラゴンも嬉しいと尻尾振るんだ。犬みたいだな。舐められる青山さんを、思わず凝視してしまった。
ちょっとコレは、なんか……。羨ましいような。
あっ? 懐かれててって意味で! 別に僕も舐めたいとか思ってるわけじゃなくて! って誰に言い訳してるんだか……。
「とりあえず変身は解いておくか」
「オレと黄原はテーブルへ戻らないと、食い逃げになってしまう」
「ですね。今度は僕たちの姿まで消えたって、店長が怯えているかもしれません」
「だが、このドラゴンを連れていくわけにはいかないぞ」
赤城さんに預かっててもらうしかないけど……。
僕と青山さんが視線をやると、赤城さんは勢いよく首を横に振った。
「無理無理! 絶対に噛まれる。それに、俺は用があってきたのに……」
その用っていうの、まさか山中に会うことでは。同僚に手を出すのやめてほしい、ホントに。
「すぐに行くから、少し赤城と一緒にいてくれないか?」
「キュウ……」
「青山さんが好きなら困らせちゃダメだぞ」
僕が言ってもムダかと思いつつ言ってみると、ドラゴンは素直に赤城さんの肩へ飛び移った。
今のはちょっと、僕に従ったように見えたような……?
「おっ。悪くないな、コレ。じゃ、コイツ連れて裏口のトコで待ってるから、早く来てくれよ」
肩乗りドラゴンという見栄えの良さに、赤城さんはコロッと上機嫌になる。
時が完全に動き出す前にと急いで戻ると、ちょうど店長が虫に驚いて厨房でひっくり返るタイミングだった。
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