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カフェから徒歩十分。広がるのは周囲に高層ビルの立ち並んだスクランブル交差点。渋谷よりは大きくないものの田舎に住んでいる人が見ればきっと腰を抜かすくらいには広い場所だ。
さらにそこから道路に沿って徒歩十五分。裏路地を抜ければ七分くらいで着く狭い街路に並ぶ家々のうちの一軒。小さく看板に『サラブレッド』と丁寧に描かれた質素だけれど綺麗で落ち着く美容院。
そこから二人の女の子が出てきた。
一人は灰色っぽい髪色の女の子。背中を覆うほど伸びた髪は普段から手入れされていることが分かるほどに綺麗だ。にこやかな笑みを浮かべていてほのぼのとした雰囲気が感じられる。そんな彼女の目線の先にもう一人の女の子。
青みがかった緩やかなウェーブ感のある黒色のショートヘア、そうしぐれである。ただ先ほどと少し違いインナーカラーが赤くなっていた。そこまで目立つわけではないが、注目して見るとあからさまに赤く染められていることが分かる。
綺麗に青色とマッチしておりそこまでおかしくないのだが、彼女の表情は眉を寄せていかんせん不満げだ。
そんな彼女の顔を特に気にしていないように灰色っぽい髪色の女の子は言う。
「全部染めればよかったのに。別にもうすぐ夏休みだし問題なくない?」
「いや、怒られるから」
「大丈夫だよ。ちゃんと私が魔法で染めてないように錯覚させるからさ」
「いやでも……それにさ、そもそもなんで染めなきゃいけなかったのさ」
「え? 学生なんだしよくね?」
「学生って言ってもあたしら高校生なんだけど」
「細かいこと気にしなーい」
「はぁ……、まぁインナーだけで済んでよかったわ。なんとかバレないようにできる」
「ふふふ——それじゃうちは帰るわ。今日はごめんね、あとありがとね。……はやく元気だしーよ?」
手を振りながらそんな言葉を残し灰色っぽい髪色の女の子は美容院のすぐ隣にある大きくレンガ調で洋風な一軒家の門をくぐっていった。
彼女がドアを閉めたのを確認するとしぐれは自転車を引いて歩き始めた。
しかし、その足取りは相変わらずとぼとぼと心なしかどこか重そうに思える。
しぐれはスマホを取り出してカメラを起動した。そして自分を写す。
パッと見た感じ、染めたことが明確にわかるわけではないがふいに吹いた風に靡く自分の髪は青と赤色に交じり、以前の自分とはまた違った雰囲気を醸し出している。
別に染めることが嫌なわけではない。終業式が終わる前ではあるもののインナーカラーならば耳にさえかけなければ隠すことは出来なくもないし、いざとなれば学校を休めばいいだけなのだから。
しぐれにとって嫌なのは色を染めたとしても変わらない胸の淀みだった。
たとえ何をしたとしても晴れることのないモヤモヤがあるような気がして仕方がないのだ。
たしか以前はこんなモヤモヤはなかった。
こんな面倒くさい気持ちを抱えるはめになったのは約一年前から。今更悩んだところでどうにもならないなんてことは理解している。いやだからなのかもしれない。心の中で騒ぐ悲鳴をずっと押し込み閉じ込めてしまっているのは。
——もしも、魔力が切れなかったどうだったのかな。
考えても仕方がない。
しぐれはスマホをしまい込み自転車に跨った。
しかし漕ごうとした瞬間にスマホのバイブレーションが鳴る。長さ的に電話ではないみたいだ。おそらくこれは通知が着たと言うことなのだろう。
どうせ特に意味のあるような連絡ではないだろうし、としぐれはその通知を見ずに漕ぎ始めた。
しかし、その通知を見なかったことがしぐれの運命を揺るがす事件に巻き込まれるきっかけになることをまだ知らない。
その通知は近くに怪人が発生していることをお知らせする危険通告だった。
さらにそこから道路に沿って徒歩十五分。裏路地を抜ければ七分くらいで着く狭い街路に並ぶ家々のうちの一軒。小さく看板に『サラブレッド』と丁寧に描かれた質素だけれど綺麗で落ち着く美容院。
そこから二人の女の子が出てきた。
一人は灰色っぽい髪色の女の子。背中を覆うほど伸びた髪は普段から手入れされていることが分かるほどに綺麗だ。にこやかな笑みを浮かべていてほのぼのとした雰囲気が感じられる。そんな彼女の目線の先にもう一人の女の子。
青みがかった緩やかなウェーブ感のある黒色のショートヘア、そうしぐれである。ただ先ほどと少し違いインナーカラーが赤くなっていた。そこまで目立つわけではないが、注目して見るとあからさまに赤く染められていることが分かる。
綺麗に青色とマッチしておりそこまでおかしくないのだが、彼女の表情は眉を寄せていかんせん不満げだ。
そんな彼女の顔を特に気にしていないように灰色っぽい髪色の女の子は言う。
「全部染めればよかったのに。別にもうすぐ夏休みだし問題なくない?」
「いや、怒られるから」
「大丈夫だよ。ちゃんと私が魔法で染めてないように錯覚させるからさ」
「いやでも……それにさ、そもそもなんで染めなきゃいけなかったのさ」
「え? 学生なんだしよくね?」
「学生って言ってもあたしら高校生なんだけど」
「細かいこと気にしなーい」
「はぁ……、まぁインナーだけで済んでよかったわ。なんとかバレないようにできる」
「ふふふ——それじゃうちは帰るわ。今日はごめんね、あとありがとね。……はやく元気だしーよ?」
手を振りながらそんな言葉を残し灰色っぽい髪色の女の子は美容院のすぐ隣にある大きくレンガ調で洋風な一軒家の門をくぐっていった。
彼女がドアを閉めたのを確認するとしぐれは自転車を引いて歩き始めた。
しかし、その足取りは相変わらずとぼとぼと心なしかどこか重そうに思える。
しぐれはスマホを取り出してカメラを起動した。そして自分を写す。
パッと見た感じ、染めたことが明確にわかるわけではないがふいに吹いた風に靡く自分の髪は青と赤色に交じり、以前の自分とはまた違った雰囲気を醸し出している。
別に染めることが嫌なわけではない。終業式が終わる前ではあるもののインナーカラーならば耳にさえかけなければ隠すことは出来なくもないし、いざとなれば学校を休めばいいだけなのだから。
しぐれにとって嫌なのは色を染めたとしても変わらない胸の淀みだった。
たとえ何をしたとしても晴れることのないモヤモヤがあるような気がして仕方がないのだ。
たしか以前はこんなモヤモヤはなかった。
こんな面倒くさい気持ちを抱えるはめになったのは約一年前から。今更悩んだところでどうにもならないなんてことは理解している。いやだからなのかもしれない。心の中で騒ぐ悲鳴をずっと押し込み閉じ込めてしまっているのは。
——もしも、魔力が切れなかったどうだったのかな。
考えても仕方がない。
しぐれはスマホをしまい込み自転車に跨った。
しかし漕ごうとした瞬間にスマホのバイブレーションが鳴る。長さ的に電話ではないみたいだ。おそらくこれは通知が着たと言うことなのだろう。
どうせ特に意味のあるような連絡ではないだろうし、としぐれはその通知を見ずに漕ぎ始めた。
しかし、その通知を見なかったことがしぐれの運命を揺るがす事件に巻き込まれるきっかけになることをまだ知らない。
その通知は近くに怪人が発生していることをお知らせする危険通告だった。
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