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第ニ期 41話~80話

第六十六話 大図書館遺跡①

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 転送装置のある建物の周囲には幾つもの赤い岩山が点在していて、その岩山の一つを彫り抜いて古代の大図書館は作られていた。岩山から切り出された石で作られた大きな図書館が岩山と一体化するように建てられており、図書館の入口はその正面にあった。建物外部の保存状態はそれほど悪くない。入り口の青銅製の扉は外れて外側に倒れ、半分砂に埋もれていた。ラベロンが言った。

「この遺跡の守りは他の遺跡よりもはるかに強力じゃ。見たところ、生物を魔法で改造して作られた怪物に守られておるようじゃ。わしの魔法では、まるで歯が立たんかったから、くれぐれも気をつけてくれ」

 俺は入り口の壁に身を隠すようにして建物の中を覗き込んだ。中は玄関ホールらしく、広い吹き抜けの空間になっている。高い天井を支える柱が何本も立ち並び、正面にはニ階へ登る階段と踊り場が見える。

 ホールには十数人ほどの、見たこともない奇妙な人影が徘徊していた。全身が真っ黒で全体的にひょろ長く、身長はニメートル以上ある。頭部はボウリングのピンのような形で目も鼻も口もないが、触覚のようなものが頭頂部に二本生えている。全体的にゴム人形のような雰囲気だ。全身の表面には赤い血管のようなものが浮き出ており気味が悪い。武器や防具は装備していないようだ。

「ルミアナ、あれはなんだと思う?」

「さあ、わかりません。あんなものはこれまで見たこともありません。普通の魔法人形ではなさそうですし、生き物に見えますので、とりあえず<睡眠(スリープ)>を使ってみましょう」

 ルミアナが睡眠ポーションをホールの中央へ向かって投げ上げ、それを素早く弓で射た。瓶はホールの真ん中の空中で粉々に砕け散り、部屋にガスが広がった。ルミアナが<睡眠(スリープ)>を念じ、部屋が淡い光で満たされたが、怪物たちに効果はなかった。この攻撃で怪物たちは俺たちの存在に気が付いたらしく、ホールの入り口へ向かって走ってきた。

 レイラとカザルがホールに飛び出した。怪物は武器は持たず、両方の拳を大きく振り回して襲いかかってくる。真っ先に突っ込んだカザルが拳をかわしながら怪物の体側めがけてハンマーを打ち込んだ。

「これでも喰らええええ」

 怪物の横っ腹にハンマーがヒットしてバチンと大きな音が響く。怪物は派手にぶっ飛ばされて床に転がりながらホールの壁まで飛んでいき、壁際でうずくまった。すぐに迫った二番手の怪物の頭部を、カザルが今度は上からハンマーで叩きつける。首がぐにゃりと曲がり、怪物はその場にうずくまった。

 続くレイラは長剣で上段から怪物を袈裟がけに斬りつけた。剣は怪物に命中した。だが驚いたことに剣の衝撃で怪物の体はぐにゃりと大きくまがったものの、どこも切断された様子はない。だが、ダメージはあるのか、腹部を抱えたまま床にうずくまった。後続の怪物も横から剣で切り込んだが、やはり怪物の体が切断されることはなく、ダメージを受けた怪物は床にうずくまった。

 カザルがハンマーを構え直しながらレイラに言った。

「レイラ、こいつら、思ったより弱いみたいだぜ」

「いや、そうでもないらしい、見ろよ」

 最初にカザルのハンマーがヒットした怪物は壁際でしばらくうずくまっていたが、すこし時間が経つと何事もなかったかのように立ち上がり、再び襲いかかってきたのだ。

「こいつら、しゃがんでダメージを回復してるんだ」

「ふざけやがって、ハンマーが効かないってのか」

 その時、俺の近くに居たルミアナが叫んだ。

「気をつけて、外にも居るわ」

 俺たちがホール内の戦いに気を取られているうちに、いつの間にか数体の怪物が建物の外側に回り込んで接近してきた。近づいてくる怪物に驚いたキャサリンが叫んだ。

「きゃああ、こっちに来ないでよ。なによ、あんたなんか、転んじゃえばいいのですわ」

 すると何かにつまづいて怪物が前のめりに大きく転び、地面に頭を叩きつけた。おお、これはキャサリンの新たな貧乏神の魔法「転んじゃえ」なのかも知れない。それを見たダーラとラベロンが、チャンスとばかり怪物に駆け寄ると、剣と杖でボコボコに殴りつけた。

「えい、えいえい」

「このやろう、くたばれ」

 しかし怪物にまったくダメージはない。むっくりと起き上がった。俺は声を上げた。

「危ない、逃げろ」

 俺は<風(ウィンド)>の魔法で怪物を数メートル向こうまで吹き飛ばすと、すぐさま怪物に三発の<火炎弾(ファイア・ボール)>を叩き込んだ。火炎弾はすべて魔物を直撃し、魔物はうずくまった。とどめを刺そうと俺はさらに火炎弾を次々に打ち込んだが、魔物はうずくまったまま耐えているように見えた。そして、しばらくすると何事もなかったように立ち上がり襲ってきた。俺は驚いた。

「こいつは厄介だな。不死身なのか?」

 ラベロンが肩をすくめた。

「ほれみろ。じゃからわしもお手上げだったのじゃ」

 レイラもカザルも襲いかかる怪物を何度も退けているが、復活する怪物が相手ではきりがない。表情に焦りの色が見えてきた。そうこうするうちに建物の奥から怪物の増援が入ってきて、魔物の数がさらに増えた。これはまずい。

 ルミアナが叫んだ。

「陛下、<錯乱の矢(アロー・オブ・コンフュージョン)>を使ってみます」

 ルミアナはポーションに矢尻を浸し、ホールの奥に居た一体の怪物めがけて放った。矢は怪物の頭部に命中したが、ゴムのような体に弾かれて刺さらなかった。だが怪物の動きに異変が現れた。歩く方向が定まらず、うろうろしている。やがて近くに居た仲間の怪物に殴りかかった。成功だ。ルミアナは次々に錯乱の矢を放ち、ホールは怪物同士が殴り合い、大混乱になった。俺は喜んだ。

「うまくいったじゃないか、すごいぞ」

「ええ、そうですね。しかし時間稼ぎにはなりますが、これで怪物を倒すことはできません。怪物を倒す方法を考えないと」

 何か弱点はないだろうか。怪物がダメージを受けてうずくまっている間、奴らは腹部を抱えている。腹部のどこかに弱点が隠されているのだろうか。

 一体の怪物が両腕を振り上げながら俺の方に走ってきた。俺は<氷結飛槍(アイスジャベリン)>を念じると、腹部めがけて同時に六本の槍を発射した。槍はすべて命中したが怪物に致命傷を与えることはできなかった。やはり怪物はうずくまった。

「ダメか。それとも急所の範囲がすごく狭いのか」

 再度試みることにした。別の一体が俺に向かってくる。今度は慎重に下腹部を狙って六本の氷の槍を発射した。そのうちの一本が人間で言えばへそのあたりに深く突き刺さった。赤黒い液体が脈打ちながら吹き出した。怪物は槍が突き刺さったまま、仰向けに倒れて動かなくなった。

 俺はレイラに向かって大声で叫んだ。

「弱点がわかったぞ。奴らは下腹部が急所だ。ピンポイントで狙わないと効果がない。あの倒れている奴をみろ、あそこだ」

 レイラは倒れた怪物を見て言った。

「わかりました、ピンポイントですね」

 レイラは盾を構えて怪物に接近する。怪物は興奮し、両腕の拳で激しく連打してくる。レイラが盾で攻撃を受け止め続けると怪物はやがて仁王立ちとなり、急所のガードががら空きになった。レイラは狙いを定めると怪物の手前にかがみ込み、剣で下腹部を突いた。剣先は急所に突き刺さり、赤黒い液体が吹き出した。怪物は前のめりに崩れて動かなくなった。

「やりました陛下。やりました」

 カザルが叫びながら突進する。

「急所がわかりゃ、こっちのもんだぜ」

 カザルは怪物の拳を避けながらその懐に潜り込むと、下から急所めがけてハンマーを振り上げる。ハンマーで急所を直撃された怪物は反動で後ろへひっくり返ったが、まだ両腕を動かしている。

「くそ、刺さないとダメかよ」

 カザルはハンマーを手放し、腰の短剣を引き抜くと両手で構え、体全体で急所を刺し貫いた。赤黒い液体が吹き出し怪物は動かなくなった。

 ハンマーを手放したカザルの背後から次の怪物が殴りかかった。

「させるか」

 俺はカザルに襲いかかる怪物を<風(ウィンド)>の魔法で吹き飛ばした。カザルはハンマーを拾い上げると再び握り締め、怪物に突進した。

 しばらく戦うと黒い怪物をすべて倒すことができた。あたりには三十匹ほどの怪物の黒い塊が転がり、怪物から流れ出した赤黒い血が石の床に広がっていた。レイラもカザルも荒い呼吸をしている。レイラは剣を鞘に収めると近くにあった石造りのベンチに腰掛け、汗を拭って言った。

「はあ、はあ、ようやく片付きましたね陛下。しかし疲れました」

「ああ、みんなありがとう。少し休憩しようか」

 くたくたに疲れた俺たちを尻目に老学者のラベロンは上機嫌だった。

「いやあ、すごいのう。お前さん達は本当に強い。この調子なら図書館の宝物庫にまで行けそうじゃ、うほほほ」

 俺は水筒の水を一口水を飲んでから、ラベロンにゆっくり尋ねた。

「ところでラベロン殿は何の書物を探しておられるですか」 

「魔導具に関する文献じゃ。最近は魔導具の研究に没頭しておってな」

「古代エルフの魔導具のことですか」

「いかにも。古代魔導具の原理を研究し、この手で魔導具を現代に復活させることを目標としておるのじゃ」

「それはすごい。ラベロン殿は魔導具を作り出すことができるのですか?」

「いやいや、残念ながらまだじゃ。簡単な魔導具すら製作に成功したことはない。何しろ魔導具の原理や製造法について書かれた古代の書物がほとんどないのじゃ。あっても断片的な記述があるだけじゃ。じゃが、今回調査する遺跡は古代の大図書館だったらしいので、宝物庫に何か手がかりになる書物が隠されているかもしれんのじゃ」

「それはいい。魔導具の製作には我々も興味があるので、ぜひ協力したいところだ。ところでラベロン殿は遺跡から発掘した魔導具を何か所有していないだろうか」

「あるとも。過去の遺跡の探検で発掘した火炎魔法の杖を十数本ほど持っておるぞ。何じゃ? 欲しいのか。ダメじゃダメじゃ。これは物凄く貴重なものじゃからな。いくらカネを積まれてもダメじゃ」

 ビキニアーマー姿のサフィーが、ラベロンにすり寄って横からくっついた。

「じいさんや、そんなケチなことを言わずに、ゆずってやれば良いではないか」

「うへへ・・・いかんいかん、色仕掛けで来てもダメなもんはダメじゃ。・・・ん、お前さんからは妙な魔力を感じるな。わしには魔力の種類を識別する能力があるからわかる。お前さん、人間でもエルフでもないな、何者じゃ」

「われは魔族の女じゃ」

「なんと魔族とな。古代書で読んだことはあるが実際に会うのは始めてじゃ。これは興味深い。魔族なら、さぞ強力な魔法が使えるのじゃろうな」

 サフィーに代わって俺が言った。

「確かに強力な防御魔法を使える、しかも魔法石を必要とせず、体内のマナだけで魔法を発動できる」

「おお、書物で読んだとおりじゃな」

「しかし、なぜか攻撃魔法は一切使えない。おまけに、この世界に存在するマナのエネルギーは魔界に比べて遥かに少ないという問題がある。だからマナを補充するために大量の食べ物を食べるんだ。サフィーは底なしに食べるので、食費が大変だ・・・」

 サフィーが俺にぴったりくっついてくると、肩に手を回してきた。

「これアルフレッド殿、そんな冷たいことを申すな。われとお主の仲ではないか」

 ラベロンが目を丸くした。

「なんと、人間と魔族がそんな関係になっておったのか。こりゃ大変じゃ」

 キャサリンとレイラがすっ飛んできて、サフィーの腕を引っ張った。

「いいえ、そんな関係もあんな関係もありませんわ」

「そうです。頭のおかしい魔族の妄想に過ぎません」

 ラベロンは、にやにや笑って話を続けた。

「なるほどのう・・・。そうじゃな、わしの故郷の地下世界は地上よりもマナが豊富じゃ。だからマナで魔法を使う魔物も住んでおる。地下世界の食べ物であればマナの補充が容易にできるかも知れんな。それを材料にしてマナポーションも作られておる」

 俺は言った。

「地下世界か・・・時間があれば、いちど行ってみたいものだ」

「その時はわしが案内してやろう。危険な世界じゃが、お前さん達なら大丈夫じゃろ」

「ありがたい。じゃあ、そろそろ先へ進もうか」

 俺たちは玄関ホールを後にして、奥へ続く通路を進んだ。 

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